挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
転生したらスライムだった件 作者:伏瀬

魔都開国編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました
112/303

108話 武闘会-本選 その3

短めですが、一試合だけ。

 予選に続き、本戦一日目も無事に終了した。

 ガビルは頑張った。その不屈の精神で、何度も何度も立ち上がり、超えられぬ壁に挑むその姿。

 その姿は感動を呼び、観客達の心を鷲掴みにしたのである。

 まあ、ギブアップと何度も言っていたようだけど、ソーカがそれを認めなかったのは秘密だ。


「おーーーっと、何やら言ってます。何々、俺はまだやれる……舐めるな? 

 ガビル選手、やる気です! 不屈の男、ガビル! 彼はまだ諦めてはいない〜!!」


 どう見ても諦めていたが、アナウンスをソーカがしていたのが運のつき。

 結局、一時間たっぷりと、ランガの相手をする事になったのである。

 観客にはその辺りの事情は伝わっていないので、不屈の男ガビルとして名を覚えられたようだけどね。

 良かったのか悪かったのかは俺には判断出来ない。

 ただ言えるのは、俺じゃなくて良かった! と言う事だけだろう。


 試合が終わり、皆それぞれの宿へと向けて帰って行く。

 俺はマサユキを食事に誘うべく立ち上がり、歩き出そうとした。


「待つが良い。ちと、聞きたい事がある」


 俺を呼び止める者がいた。

 先程、半耳長族ハーフエルフかと考えた少女である。

 薄水色の銀髪に、翡翠の瞳。超の付く美少女だった。


「あ、こんな所に! って、リムル殿、お久しぶりです」


 少女に返事をしようとした時、走り回っていたのか、肩で息をしつつ挨拶して来る者がいた。エラルド公爵である。


「ああ、公爵、お久しぶりです。元気でしたか? それと、お知り合いですか?」


 公爵が走り回って探す人物……。

 予想はついたが、一応聞いてみた。


「ああ、紹介致します。

 此方は、魔導王朝サリオンの皇帝で在らせられるエルメシア・エルリュ・サリオン陛下です。

 陛下、此方が以前よりお話申し上げた、魔王リムル殿です」


 一応、俺が主催国の主という事で立ててくれたのだろう。皇帝に紹介するより先に、俺に相手を紹介してくれた。


「うむ。知っておる。余が魔導王朝サリオン皇帝、エルメシア・エルリュ・サリオンである。

 以後、よしなに頼む」


 美少女だが、神々しいまでの気品オーラがあった。

 先程までは抑えていたのだろうが、今目の前にいる人物は紛れも無く皇帝その人であると、疑う気が起きない。


「どうも、魔物の国テンペストの主、リムルです。此方こそ宜しく!

 王としての礼儀作法に疎いもので、無作法はご容赦願います」


 お互いに自己紹介する。

 まあ、俺なんて成り上がりの無法者だ。

 堅苦しい挨拶とか、勘弁して欲しい。というか、冒険者の格好の皇帝という時点で、その辺は大丈夫だと思いたい。


「うむ。問題ない。そんな事はどーでも良い。

 問題は、この国の戦力はどうなっておるのだ! という事よ」


 俺に詰め寄らんばかりの勢いで捲くし立てる。

 横でエラルド公爵が頭を抱えていた。


 場所をかえて、夕食を供にしながら話をする事になった。

 マサユキを誘いたかったのだが、今回はサリオン皇帝を優先する。残念だが、仕方ないだろう。

 皇帝曰く。

 自分も魔法の達人なのに、手も足も出ない程の強力な魔人に敗北した。ダグラの事である。

 それも、一人相手に多数が一気に全滅させられている。とんでも無い相手だと驚愕したそうだ。

 それなのに、その魔人は魔物の国テンペストの幹部の一人に、赤子の手を捻るように遣られてしまった。

 納得がいかぬ、と憤慨していたのだ。

 ちなみに、皇帝も人造人間ホムンクルスに意識を乗り移らせてやって来ている。

 なので、怪我だ何だの心配は必要ないとの事だったが、負けた事が悔しいのだろう。


「何しろ、陛下は無敗でしたから。魔法にかけては第一人者ですし……

 陛下、ですから申し上げたでしょう? 魔王が居るのだから、半端では無い大会になる、と」


 と、エラルド公爵が諦めたように宥める。

 下手に、身体に危険が及ばないおかげで、陛下の我侭も強力なのだろう。

 このおっさんも大概だし、人を諌める立場には無いようだけど、陛下はその上を行くと言う事か。

 結局、夕食後も愚痴は続いた。

 だがそのおかげで、お互いの仲も打ち解けたモノとなり、友好的な関係を築けそうで何よりだ。

 その日の夜は、サリオン皇帝との会話を楽しみ、今後の技術協定についても約束を取り付ける事が出来た。

 口約束だが、王同士の約束である。破られる事は無いだろう。

 魔導王朝サリオンとも約束を取り付ける事が出来たのだ、大会の開催はこの事だけでも成功と言える。

 俺はその事に気を良くし、人間との関係も良いものになると確信したのだった。


 そして夜も更け、本戦二日目の朝がやって来る。






 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−






 本戦二日目。

 第5試合…… アルノー vs ベレッタ


 注目の試合である。

 アルノー、聖騎士を隠して仮面騎士マスクナイトで登録するとか言っていたのに、


「ええ? そんなの甘えじゃないんですか?

 法の守護者たる最強の聖騎士が、そんな逃げるみたいな真似出来ないでしょう?

 男なら正々堂々! ですよね、アルノーさん?」


 ニッコリと、いい笑顔でソーカに問い返されたらしい。

 うぐ、と言葉につまり、


「ハハハ、勿論だとも。聖騎士は、どのような戦いからも逃げたりしないさ!」


 やけっぱちにでもなったのか、勝てば良いんだ勝てば! とブツブツ呟きつつ、正体を隠さずに行く事にしたらしい。

 罠に嵌められた子ウサギのような男である。

 いや、そこは逃げるとかそんな話じゃないと思うぞ? まあいいけど……。

 ソーカの黒い笑顔が目に浮かぶようだ。

 というか、アビルの近衛をやっていた頃は、素直な好青年に見えたのだが、女性である事を隠さなくなってから激変している。

 元々の性格なのか、何者か(たぶんソウエイ)の黒い影響を受けたからか。

 あるいは、その両方だろう。

 恐ろしい小悪魔に成長してしまった。

 もう手遅れ。俺も罠に嵌められぬ様に気をつけておく。


「始め!」


 哀れなアルノーの事を考えていると、何時の間にか試合が開始していた。

 アルノーはベレッタから距離を取り、油断無く剣を構える。

 流石に迂闊に攻めるような真似はしないようだ。


「始まったわね。アタシのベレッタの実力を見せ付ける日がやって来たわね!」


 びっくりした! いきなり耳元でラミリスが話しかけて来たのだ。

 後ろにヴェルドラとミリムもやってきている。


「お、お前等。地下迷宮ダンジョンに夢中だったんじゃないのか?」

「ふはは、リムルよ。先程完成したのだ。期待してよいぞ!」

「我は試合にも興味があったのでな。昨日、究明之王ファウストにて確率操作を行ったのよ。

 昨日の試合には、比較的勝負の見えた者が集中したのでは無いか?」


 な・ん・だ・と!?

 道理で、何故か微妙に似たような強さの者同士が組み合っている。

 そして、昨日の試合には興味無い組み合わせが集中するように操作したのか。

 確かに、今日の試合は見所が多い。

 今やっている、『アルノー vs ベレッタ』に『獅子覆面ライオンマスク vs ディアブロ』の組み合わせは、ラミリスとミリムにとっては見逃してはならない試合だろう。

 興味ないのかと思っていたが、きちんと抑えていたようだ。

 こういう面白いイベントを見逃すような、そんな甘い事は無いと言う事か。流石である。


「まあ、我は勝敗には興味は無いが、見ていると参考になるからな! クアハハハハハ」


 自慢気に大笑いするヴェルドラ。

 昔と違い、強弱よりも内容に興味を持つようになったらしい。漫画の影響だろう。

 今では、美しい勝ち方とか研究しているようだ。マメなヤツである。

 まあ、自分が完全に強者だからこそ、そんなしょうも無い事に気を回せるのだろう。


 ラミリス達の登場に驚いている間に、試合は新たな展開を見せている。

 アルノーの剣撃を、ベレッタが苦も無く腕で受け流すのだ。それが暫く続いていたのだが……


「おおっと、アルノー選手の攻撃がまるで通用しないぞ?

 手を抜いているのでしょうか? これが本気では、最強聖騎士の名が泣きます!」


 その一言が切欠だった。

 そんな事を言われた程度で心を乱すとは、アルノーもまだまだである。


「はん。今までの攻撃は全て段取りの為のものさ。足元を見てみな!」


 格好をつけつつ、アルノーがベレッタの足元を指差した。

 そこには、何時の間にやら魔法陣が描かれている。

 今の剣撃の合間に、気付かれぬように銀粉を振りまいて描いていたようだ。

 器用な男である。

 だが、こういう闘い方も出来るとは、唯の脳筋では無かったらしい。


「発動! 聖浄化結界ホーリーフィールド・弱!」


 手裏剣に結界札を貼り付けて四方に投擲し、アルノーが叫んだ。

 手裏剣の取っ手部分に、結晶が埋め込まれている。どうやらそこに魔力が込められて、短時間の結界発動を可能にしているようだ。

 弱とは言え、個人で聖浄化結界ホーリーフィールドを張るとは……

 アルノーも油断出来ない男だったようだ。

 でも、あの装置をアルノーを実験台に作り上げたクロベエこそが、本当の意味での功労者だと思うけど……。

 他にも色々アルノーと実験を行っていたようだし、お互いに気が合ったのだろう。

 そのお陰で、魔物の国テンペストの装備の質も上がりそうだ。実に良い事であった。


 本来なら、弱とは言え聖浄化結界ホーリーフィールドに囚われた時点で、大半の者が敗北すると思う。

 あの結界を解除出来るのは、一部の幹部だけだろうから。

 ベニマルやソウエイすら、完全に囚われてしまえば打つ手は無いのではなかろうか?

 こればかりは能力の相性があるので、強弱では判断出来ないのだ。

 そして、今回の場合、その相性が非常に悪かった。アルノーにとって、ね。


「無駄だ。私はリムル様に授けられた能力により、聖浄化結界ホーリーフィールドによる影響は受けない」


 淡々と告げながら、アルノーに対し初めて反撃に移るベレッタ。

 先程からのアルノーの剣撃をモノともしない事からも判るだろうが、ベレッタには物理攻撃無効である。

 そしてその身体は、俺の造り上げた魔鋼製。

 放つ拳に、ユニークスキル『聖魔混合』による妖気と霊気を螺旋状に纏わせて、一種異様な混合気を発しているのだ。

 その性質は、〈気闘法〉による闘気剣オーラブレードと同様で、威力を圧倒的に増大させる。

 高速で撃ち出す事も可能なのだ。

 ベニマルのように浸透頸のレベルまで練り込んではいないようだが、全身をぶれる事なく一定に覆うその闘気は美しい。

 ダグラの放つムラのある闘気とはレベルが違う。

 威力が単なる妖気や霊気の比では無いだけに、拳の一撃が必殺技となっている。

 反撃に転じたベレッタは、恐るべき精度で攻撃を繰り出していく。

 観客には良い勝負に見えているようだったが、俺の目は誤魔化せなかった。

 ベレッタは全力を出していないのだ。30%程度の力で戦っているのである。


「フフン! どーよ! どーなのよ! アタシのベレッタ、マジかっけー!」


 ラミリスが俺の周りを飛び回り、ドヤ顔で自慢して来た。

 俺だけでは飽き足らず、ミリムやヴェルドラにも自慢している。

 ヴェルドラは、フーン、でも我の方が強いがな! 程度の対応だったが、


「ふふん、今だけ調子に乗っているが良い。

 明日にはワタシのライオンマスクが、貴様のベレッタを分解する事だろうさ!」


 負けず嫌いのミリムがラミリスに言い返した。

 やれやれ、子供の喧嘩か。

 もっと、可哀相なアルノーさんの心配をしてあげるべきである。

 鬼畜なアナウンスで、またも負けられない状況に追い込まれているというのに、状況は絶望的なのだ。

 というか、このアルノー、よくこれで心が折れないものである。

 その事だけは、かなり高く評価しても良いと思ったものだ。


 ラミリスとミリムの喧嘩が終わる頃、試合も終了した。

 当然、ベレッタの勝利である。

 アルノーが"流星斬"とか言う必殺技を放ったのだが、ベレッタの身体に触れた剣が砕けて折れたのだ。

 まあ、鋼鉄の塊を叩き続ければ、剣も耐久が無くなるのも当然である。

 いくら闘気で包んでいても、武器への多少のダメージは蓄積するのだ。

 流石に剣が折れては勝負にならない。

 アルノーが降参を宣言し、勝負は終了したのであった。

 というのは口実だろうな。実際には、歯が立たなかったのだ。

 だが、観客にはそれが理解出来ないだろうし、上手くアナウンスでアルノーのフォローも入れていた。

 不運にも剣が折れたから、仕方なく勝負を放棄した。そういう筋書きで、観客は理解したようである。

 ソーカに、食事を奢るから! と涙目でお願いして、何とか上手く解説して貰ったようだが、そこは目を瞑ろう。

 アルノーの名誉は守られた。それで良いだろう。


 こうして、第5試合はベレッタの勝利で幕を閉じたのだ。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。