好悪感情のバランス理論
 ハイダーという人によると、
 Xさん、Yさん、Zさんという三人の人がいるとして、
 (1)XさんのYさんに対する感情、
 (2)XさんのZさんに対する感情、
 (3)YさんのZさんに対する感情、
 「(好意)=(+)」「(非好意)=(-)」とした場合、
 Xさんは(1)~(3)の積が(+)になるように行動するそうです。
 初期状態には次の8通りがあります。
 
  | パターン | X→Y | X→Z | Y→Z | 積 | 
|---|
| (a) | (+) | (+) | (+) | (+)(安定) | 
 | (b) | (+) | (+) | (-) | (-)(不安定) | 
 | (c) | (+) | (-) | (+) | (-)(不安定) | 
 | (d) | (+) | (-) | (-) | (+)(安定) | 
 | (e) | (-) | (+) | (+) | (-)(不安定) | 
 | (f) | (-) | (+) | (-) | (+)(安定) | 
 | (g) | (-) | (-) | (+) | (+)(安定) | 
 | (h) | (-) | (-) | (-) | (-)(不安定) | 
 
 
 安定なのは(a)(d)(f)(g)の4通りですから、
 それ以外の状態は不安定なので避けようとします。
 例えば、初期状態が(c)だった場合、Xさんは次のように行動します。
 (a)を目指してZさんに好意を持つことにしたり、
 (d)を目指してYさんがZさんに好意を持たないように行動したり、
 (g)を目指してYさんに好意を持つのを止めたりします。
 
 友達が自分の嫌いな人を好きな場合
  | パターン | 自分→友達 | 自分→Zさん | 友達→Zさん | 積 | 
|---|
| (c) | (+) | (-) | (+) | (-)(不安定) | 
 | (d) | (+) | (-) | (-) | (+)(安定) | 
 | (a) | (+) | (+) | (+) | (+)(安定) | 
 | (g) | (-) | (-) | (+) | (+)(安定) | 
 
 
 最初は自分の感情を変えようとはしないでしょう。
 したがって、まずは(d)を目指します。
 すなわち、友達に自分の嫌いなZさんを嫌いになってもらおうとします。
 友達にZさんの悪口を言ったりすることでしょう。
 しかし、友達の感情はなかなか変わりません。
 すると、今度は自分の感情を変えて、(a)を目指します。
 すなわち、嫌いだったZさんを好きになろうとするでしょう。
 しかし、どうしても好きになれない場合があります。
 仕方ありません。(g)を選択します。
 すなわち、友達を嫌うことにします。
 頻繁にこのような選択をしている人はやがて孤立するでしょう。
 しかし、友達を嫌いになることもできないとしたら…。
 (c)の不安定な状態を受け入れなくてはいけません。
 (a)を目指して、Zさんを好きになれば心が落ち着くのに…。
 
 自分の友達二人の仲が悪い場合
  | パターン | 自分→友達Yさん | 自分→友達Zさん | Yさん→Zさん Zさん→Yさん
 | 積 | 
|---|
| (b) | (+) | (+) | (-) | (-)(不安定) | 
 | (a) | (+) | (+) | (+) | (+)(安定) | 
 | (d) | (+) | (-) | (-) | (+)(安定) | 
 | (f) | (-) | (+) | (-) | (+)(安定) | 
 
 
 私が幼い頃に対人関係で苦しんだのがこのパターンでした。
 友達は暗に(d)や(f)の選択を迫ります。
 すなわち、YさんかZさんのどちらかを選ぶことを求めるのです。
 しかし、そんなことができるわけがありません。
 (a)を目指しました。
 すなわち、YさんとZさんに仲良くなってもらおうとしたのです。
 私の場合は、結局、YさんともZさんとも疎遠になり、
 YさんとZさんの関係は気にならなくなったのですが、寂しいものです。
 みなさんにはいつまでも(a)を目指してほしいと思っています。
 
 友達と同じ異性を好きになってしまった場合
  | パターン | 自分→友達 | 自分→異性Zさん | 友達→Zさん | 積 | 
|---|
| (a) | (+) | (+) | (+) | (+)(安定) | 
 | (c) | (+) | (-) | (+) | (-)(不安定) | 
 | (b) | (+) | (+) | (-) | (-)(不安定) | 
 | (f) | (-) | (+) | (-) | (+)(安定) | 
 | (g) | (-) | (-) | (+) | (+)(安定) | 
 | (d) | (+) | (-) | (-) | (+)(安定) | 
 
 
 安定していても、(a)の場合で苦しむこともあるようです。
 友達と同じ異性を好きになってしまった場合はどうしましょう?
 自分がZさんを諦める(c)か、
 友達にZさんを諦めてもらう(b)か…?
 どちらも不安定ですね。
 結局、(f)か(g)を目指すしかないのでしょうか?
 友達と自分のどちらかがZさんを諦めて、そして友達とも別れる。
 いや、(d)を目指す方法もあります。
 友情を大切にして、自分も友達もZさんを諦めるのです。
 いずれにしても、悲しい結末です。
 「恋」とは残酷です。
 Zさんに対する自分か友達の好意のどちらかが「友情」だったなら…。
 そうです。(a)が実現するのです。無理でしょうか?
 ところで、Zさんは友達と自分のどちらを選ぶのだろう?
 Zさんに選ばれなかった方が二人から離れる(f)(g)か、
 それとも、Zさんへの「恋」を「友情」に変える(a)か…?
 
 自分の嫌いな人が恋のライバルの場合
  | パターン | 自分→Yさん | 自分→異性Zさん | Yさん→Zさん | 積 | 
|---|
| (e) | (-) | (+) | (+) | (-)(不安定) | 
 | (f) | (-) | (+) | (-) | (+)(安定) | 
 
 
  | パターン | 自分→異性Zさん | 自分→Yさん | Zさん→Yさん | 積 | 
|---|
| (d) | (+) | (-) | (-) | (+)(安定) | 
 | (c) | (+) | (-) | (+) | (-)(不安定) | 
 | (a) | (+) | (+) | (+) | (+)(安定) | 
 | (g) | (-) | (-) | (+) | (+)(安定) | 
 
 
  | パターン | 異性Zさん→自分 | Zさん→Yさん | 自分→Yさん | 積 | 
|---|
| (d) | (+) | (-) | (-) | (+)(安定) | 
 | (f) | (-) | (+) | (-) | (+)(安定) | 
 | (b) | (+) | (+) | (-) | (-)(不安定) | 
 
 
 さて、どうしましょう?
 まずは、上の三種類の表の一番目の場合を考えます。
 やはり、まずは(f)を目指すでしょう。
 でも、恋のライバルYさんの心は変わるでしょうか?
 Yさんが浮気者ならいつかZさんから離れるかもしれません。
 自分がZさんを好きなままでいれば(f)で安定します。
 
 大切なのはZさんの気持ちです。
 すると、上の三種類の表の二番目の場合を考えなければいけません。
 ZさんがYさんのことを嫌いなら(d)になり安定します。
 しかし、ZさんがYさんのことを好きなら(c)で不安定です。
 (d)を目指して頑張ることでしょう。
 でも、ZさんにYさんを嫌いになってもらう方法は?
 Zさんに嫌われるから、Yさんの悪口を言えないし…。
 
 ここで、上の三種類の表の三番目の場合を考えなければいけません。
 Zさんが自分のことが好きでYさんのことが嫌い(d)なら、
 嬉しい状態で安定しているので自分は何もしない方が良いでしょう。
 Zさんが自分のことが嫌いでYさんのことが好き(f)なら、
 悲しい状態で安定しているので何とかしなくてはいけません。
 このままではZさんがこの状態を変えることはないでしょう。
 では、どうしたら良いのでしょう。
 まず(b)の状態にしてみましょう。
 すなわち、Zさんに自分のことを好きになってもらうのです。
 するとZさんは不安定になりますので選択しなければいけません。
 (d)か(f)か? すなわち、自分かYさんか?
 でも、Zさんを苦しめていいのかな?
 
 ここで上の三種類の表の二番目に戻ります。
 ZさんがYさんのことを好きなら、
 そしてZさんを苦しめたくないのなら、
 (c)の不安定な状態を受け入れるしかないかもしれません。
 同じ片思いでも、安定している(a)のパターンもあります。
 「Zさんが好きになった人なら…」と、
 嫌いなYさんを好きになるわけですが…、
 やっぱり苦しいものです。
 (g)のパターンで安定させる人もいるかもしれません。
 Zさんを嫌いになるのです。
 「すっぱい葡萄」の物語のように、
 「Yを好きなようではZさんはダメだ」などと「合理化」して…。
 私は自分が片思いする(a)のパターンかな…?
 (c)のパターンのときはYさんに問題があると思っているので、
 ZさんがYさんの問題に気付いて(d)になるのを待ちます。
 
 孤立している人を救いたい場合
  | パターン | 自分→友達 | 自分→Zさん | 友達→Zさん | 積 | 
|---|
| (d) | (+) | (-) | (-) | (+)(安定) | 
 | (b) | (+) | (+) | (-) | (-)(不安定) | 
 | (a) | (+) | (+) | (+) | (+)(安定) | 
 
 
  | パターン | 友達→自分 | 友達→Zさん | 自分→Zさん | 積 | 
|---|
| (d) | (+) | (-) | (-) | (+)(安定) | 
 | (c) | (+) | (-) | (+) | (-)(不安定) | 
 | (a) | (+) | (+) | (+) | (+)(安定) | 
 | (g) | (-) | (-) | (+) | (+)(安定) | 
 
 
 自分には友達がたくさんいる。
 しかし、その友達はみんなZさんを嫌っている。
 その場合Zさんを孤立させないためにはどうしたらいいでしょう?
 
 まず、上の二種類の表の一番目を見てみます。
 (d)のように自分がZさんを嫌ってしまったらそれで安定します。
 自分はなかなかこの状態を変えようとしないでしょう。
 それでも、Zさんの孤立を避けたいと思ったら、
 いったん、(b)のように不安定な状態にします。
 友達に対する自分の好意を変えずにZさんに好意を持ち続けるのです。
 すると、安定な(a)の状態にしようと行動せざるを得ません。
 友達にZさんを好きになってもらおうと努力することでしょう。
 簡単に言ってしまえば、
 Zさんの孤立を防ぎたければ、まず自分がZさんを好きになることです。
 Zさんを好きにならないまま、Zさんの孤立を防ごうとしても、
 動機付けが弱くてZさんの孤立はなかなか解消されません。
 
 では、友達にZさんを好きになってもらうには?
 上の二種類の表の二番目を見てみます。
 (d)のパターンだと安定してしまいます。
 すなわち、自分がZさんを好きにならないと友達は変化を求めません。
 自分がZさんを好きになると(c)の不安定なパターンになります。
 友達は何とか安定な状態にしようとします。
 まずは、(d)のパターンにしようとするでしょう。
 そこで、自分はZさんへの好意を捨ててはいけません。
 すると友達は(a)のパターンを求めなければいけません。
 Zさんを好きになろうと努力することでしょう。
 ただ、条件があります。
 自分が友達に嫌われないような魅力的な存在になることです。
 友達に嫌われて(g)のパターンになったら安定してしまいますから、
 友達にZさんを好きになってもらうことができなくなります。
 されでも、あなたのおかげでZさんは孤立していませんが…。
 
 三国志?
  | パターン | 自分→Yさん | 自分→Zさん | Yさん→Zさん Zさん→Yさん
 | 積 | 
|---|
| (g) | (-) | (-) | (+) | (+)(安定) | 
 | (h) | (-) | (-) | (-) | (-)(不安定) | 
 | (d) | (+) | (-) | (-) | (+)(安定) | 
 | (f) | (-) | (+) | (-) | (+)(安定) | 
 | (a) | (+) | (+) | (+) | (+)(安定) | 
 
 
 三者が互いにいがみ合っている場合はどうなるでしょう?
 自分はYさんもZさんも嫌いである。
 YさんとZさんが仲が良い場合(g)は両者と戦うことになります。
 しかし、YさんとZさんが仲が悪い(h)ことが分かったら…。
 不安定な状態です。
 (d)か(f)のパターンにすれば安定します。
 すなわち、YさんかZさんと手を組めば安定します。
 「共通の敵」を持ち、同盟することで安心して戦えるのです。
 私はあまり好きではないので(a)を目指してほしいものです。
 
  参考資料:
 (1)斉藤勇編「対人心理学トピックス100」誠信書房134ページ
  
 (2003年1月18日作成、2003年1月19日改訂)