「おにいじゃぁーん!!」
今日あった事を色々と整理しながら帰宅し、疲れた頭を休ませる為におやつでも食べようとリビングに入ると妹の花子がぶつかり稽古みたいな勢いで僕の胸に飛び込んできた。慣れたもので「どすこいっ!」と優しく受け止めてあげた。
花子は僕の胸の中でえぐえぐ、ふひふひと涙と鼻息を漏らしている。
「えっ!? 花子! どうしたの!?」
いつも朗らかな花子が泣くなんて滅多にない。僕はどうしていいか分からなくなった。
「それがね……いじめにあったみたいなの」
「いじめ?」
先に花子の話を聞いていたのだろう、母さんが簡単に説明してくれた。
僕と花子は太っていて、他の人とは違う個性的な容姿をしているけど、いじめには殆どあった事がない。小学校入学前に少しだけあったくらいだ。
僕達は家庭環境に恵まれている事もあって、体格や容姿にコンプレックスを持っていない。むしろ自慢に思っている。それが性格にも出るのか根暗になるわけでもなく普通にクラスメイトと接している。生理的に受け付けない人もいるみたいだけど、それは人それぞれだから仕方ない。
学校で仲のいい友達はいるし、勿論花子もそうだ。特に花子には小学一年生の時からずっと同じクラスで親友の橘
「がえでじゃんがぁ……がえでじゃんがぁ……」
僕の制服は花子の涙と鼻水でぐちゃぐちゃだったけどそんなのどうでいい。楓ちゃんがいじめに関係しているのだろうか。
「楓ちゃんが花子を避けてるみたいなの」
「そんな」
「ぞれだげじゃなぐでぇ」
「花子が話し掛けてもクラスメイトどころか先生まで目も合わしてくれないって」
「えぇ!? 先生まで!? それって……」
「どうしたの太志?」
花子の盛り上がった背中を撫でながら僕の様子を訝しんだ母さん。
「うわわぁぁぁん! がえでじゃーん!!
そうだ、僕の事は後でいい。今は花子だ。こういう時にはおいしいおやつだ。僕は母さんの作ってくれたおやつを花子に半分上げることにした。お腹が膨れれば気持も少しは落ち着くんだ。
「母さん! おやつを!」
「わかったわ。直ぐに用意するわね」
「花子、僕のおやつを半分あげる。だから今日あった事を教えて? その後でどうしたらいいか皆で考えよう」
「おっ、おにいっじゃんのっ、ばんぶんもっもだえないよう!」
よし、少し元気が出たみたいだ。胃袋は正直だ。やっぱり食べ物の力は偉大だな。それにしても半分も貰えないだなんて花子は優しいな。
「大丈夫だ。花子が元気になるならなんでもないよ」
「おっ、おにいっじゃん……」
僕と花子のお腹が、ぐぅ~と同時に鳴った。
「はい。お待たせ。今日のおやつはカツカレーよ」
「匂いで分かってたよ」
四合のご飯にルーがたっぷり。ご飯とルーを完全に隠すジューシートンカツ。我が家のおやつの定番の一つだ。ご飯とルーはおかわり自由だから、半分ってのはトンカツの事だ。
「ほら。トンカツを半分載せるよ」
「うん」
花子のカレーにトンカツを移動させて、一緒に頂きますをした。
「おいしいね」
花子に笑顔が戻ってきた。よかった。
「……お母さんも頂こうかしら」
分かる。美味しそうに食べているのを見てると、お腹いっぱいでも食べちゃうよね。
「味見したんじゃないの?」
「一合だけだったんだもの」
それは少ない。せめて二合は食べないと。この後母さんと三人でおやつのカレーを平らげ、同じくおやつのホールケーキを食べた。勿論母さんの手作りだ。三つのホールケーキはあっという間になくなってしまった。これで夜まで保てばいいけど。
「じゃあ花子。何があったか教えてくれる?」
「……うん、あのね……」
花子が言うにはこうだ。
中学校に登校するまで何か遠巻きに見られている気がしていたけど勘違いだと思っていたらしい。教室に入って仲のいい楓ちゃんに挨拶をしようとしたら、楓ちゃんはダイエットに成功したのか凄く痩せていた。楓ちゃんは僕達程じゃないけど世間でぽっちゃりと言われる位の体型だ。でも運動神経は凄くいい。柔道部で全国大会に出場するくらいに強い。正義感も強くていじめなんて絶対に許さない性格だ。
その楓ちゃんが一晩で痩せていた。花子は驚いて「どうしたの!?」って尋ねたら、楓ちゃんは目を白黒させながら慌てたらしい。口をパクパクさせるけど何も言えずに、結局目をそらして下を向いたらしい。その後花子がどれだけ声を掛けても目を合わしてくれない。
不審に思った花子は、クラスの友達に何かあったのか尋ねてまわったが、みんな判で押したかのように、口をパクパクさせて下を向いてしまったそうだ。
何かがおかしいと思っていると先生がやってきてホームルームが始まった。仕方なく席に座って後でもう一度、楓ちゃんと話をしようと思っていると、先生の様子もおかしい。
花子の担任は、まだ二〇代の若い男の先生だけど、指導熱心で生徒に人気のある先生だ。話し方も上手で授業も分かりやすい。その先生が顔を真赤にして、しどろもどろに連絡事項を話していた。花子がどうしたのかと先生を見ると、先生は顔を逸して花子を見ない。それはホームルーム中ずっと続いた。
ふと視線を感じて振り向くと、生徒全員が一斉に顔を逸した。まるで達磨さんが転んだみたいに。
休み時間になって楓ちゃんに声を掛けても、下を向いて顔も合わしてくれない。授業が再開しても先生達は誰も花子と目を合わしてくれない。
今日一日、花子は誰とも口を聞けなかったらしい。花子は我慢して我慢して、全ての授業が終わると、涙を我慢しながらカロリーが消費されるのも構わず、どすんどすんと走って帰ってきた。
そして泣きながら母さんと話している内に僕が帰って来たという訳だ。
「私、いじめられてるのかなぁ……」
「うーん」
僕は腕を組んで考え込んだ。
「太志?」
考え込んだ僕の様子を訝しんだ母さん。なんと説明したらいいものか。
「……少し違うけど僕も花子と似た事があったんだ」
「え? お兄ちゃんも?」
「うん」
僕が帰宅の時に考えていたのはそれだ。僕は今日学校であった事を二人に話してみた。
■
学校に着くまで見られている気がしていたんだ。。これはただの勘違いだと思っていた。学校に着いて何となく違和感を感じて、その時は気が付かなかったけど花子の話を聞いて分かった。太った人が誰もいなかったんだ。
次に感じた違和感は国語の先生の頭だ。すれ違った時、いつもかつらがズレているのに今日に限ってズレて無くて、自然な感じにふさふさだった。いいかつらが見つかったんだな、よかったよかったと思っていた。
教室に入って、友達の健太に挨拶をすると、やけにどもって、「い、いいて、天気、ですね……」、って言われた。ちょっと曇ってるよ、って言い返すと、「そ、そうでした……そうでした……」、と目をキョロキョロさせて落ち着きがない。変だなと思いつつも、他の友達にも挨拶をすると、皆健太と似た反応を返してきた。
声を掛ければ、反応してくれるけど、どこか変だ。挙動不審とでも言えばいいのか。あたふたしてるというか、上の空というか、頓珍漢な返事をする。
更に変だなと思ったのは昼休みだ。お昼は母さんのお弁当だ。僕の鞄は四/五を弁当箱が占めている。二段重ねの弁当箱を取り出して食べ始めると、女の子の視線をやけに感じたんだ。
僕は女の子にモテるなんて勘違いは絶対にしない。だから母さんのお弁当美味しそうだろ? 美味しいんだけどね、って思ってた。事実、健太とおかずの交換をした時は大絶賛されたくらいだ。
パクパクもりもりむしゃむしゃと食べて、あっという間にお弁当は残り僅かだ。それでも視線を感じた。不思議に思って振り返ると、女の子達はお弁当じゃなくて僕を見ていた。なんか見たことない顔で。なんて言ったらいいんだろ。うっとり? そう、うっとりかな? 名人、尾中一平斉の作った完成度の高い食品サンプルを見た時、僕もあんな顔をしているかもしれない。
僕は、あげないよ、と思いながら最後に残していた肉巻きを食べた。肉を肉で巻いたミートロールだ。冷めても肉汁が染み出す不思議で美味しい僕の大好物。美味しさの余り、一口食べてお箸が滑ってしまった。ぽろりと落ちた肉巻きが床に落ちてコロコロと転がってしまった。
あぁ! 痛恨の極み!
痩せてしまうほど精神のダメージが大きい。でも肉汁たっぷりの肉巻きは教室の床に落ちて転がってしまえば汚れが塗れてもう食べられない。ショックだ……
僕のショックが伝わったのか教室がしーんと静まり返ってしまった。
「ふ、ふ、ふ、布佐さん……そ、そ、それ……も、もう、た、食べない……です……よね?」
「う、うん? 食べれないね」
名前は何だったか。ちょっと覚えてないけどクラスの女の子が尋ねてきた。さすがの僕でも食べれない。拾って弁当箱に入れるだけだ。帰って洗って食べるけど。だって母さんのお弁当は美味しいから捨てれないし。見栄を張ってここでは我慢だ。
「じゃ、じゃあさ……」
その時、教室に影が走った。僕の背後から走り抜けた影は肉巻きを拾うと一目散に教室の外へ飛び出してしまった。スカートを履いていたのだけは見えた。
「あ!!」
クラスの女の子が全員、一斉にそれを追い掛けた。教室内には僕を含めて男子だけになった。僕はびっくりしながらも、もう一つの弁当箱を開いてデザートの杏仁豆腐をぺろりと食べた。
「……健太君……みんなどうしたの?」
「さ、さぁ? ど、どうしたんでしょうね?」
少しだけ慣れてくれた健太君に聞いたけど、健太君もわからないみたいだ。もう意味がわからない。
午後の授業になっても同じだ。どうも教室が落ち着かない。女の子は顔に痣を作っている子が何人かいたし、妙に緊張感がある。若い女の先生もそわそわしている。一体なんだろう?
授業が全て終わると僕はいつも健太君達数人と少しだけお喋りしてから帰るんだ。今日も話をしようと健太君達の輪に入ったんだ。
「え!? どうしたの!? ふ、布佐君!」
「どうしたのはないよ。それに布佐君って。いつもみたいに太志って呼んでよ」
「へ? いつも? ……無理無理無理無理無理無理無理ぃぃ!!」
「無理ってなんだよ! 僕達友達だろ!」
余り怒らない僕もちょっと気が立ったんだ。友達が急に離れていった気がして寂しくなったのかもしれない。
「と、友達? 俺たち友達でいいんですか?」
「何言ってるんだよ。友達だろ? 健太君達、今日変だよ」
健太君達は「友達ぃ……友達ぃ……」と泣き出した。もう訳が分からない。僕達友達だよね? 僕だけがそう思ってただけなのかな?
泣き止んだ健太君達だったけど、やっぱりいつもより余所余所しいのは変わらなかったけど、少しだけマシになったと思いたい。そんな皆と話をしたんだ。
「でね、鈴木さんがデブエット失敗して、また痩せたんだ……痩せてしまったと聞きました」
なんだろう、デブエットって。
「英語の田中ですけど、自分で毛を抜いているの丸わかりですよね。かっこ悪いと思います」
すね毛の事かな?
「少しずつ抜いて自然を装ってますが、ツルリール・ハーゲンの三ヶ条を無視しているので不自然過ぎます」
すね毛は水泳の授業じゃないと見えないのでは? ツルリール・ハーゲン? エステシャンかな?
「俺の所、親戚一同代々ふさふさなんですよ。嫌だなぁ」
すね毛の話だよね??
「自然な若ハゲとか殆ど奇跡ですからね。芸能人なんてハゲランスだらけですよ」
ハゲランス? また初めて聞く単語だ。
「ふ、太志君のお父さん、ロマンスバーコードでしょ? 羨ましいです。おまけに太ってるし。格好いいなぁ」
あ、これ髪の毛の話だ。太ってるのは事実だし。
「ロマンスバーコードって遺伝らしいです。ふ、太志君も将来間違い無しですよ。羨ましいです」
うちは代々若ハゲの家系だから僕も禿げるだろうけど……ロマンスバーコード?
「食べても食べても太らないし。無理なデブエットで体調崩すと、リバウンドで余計に痩せちゃうしね」
まだ出たデブエット。流行語かな?
「ふ、太志君は沢山食べてますけど、デブエットしてるって感じじゃないですよね。体重も落ちないし、肌も脂ぎって荒れてるし、何か秘訣があるんですか?」
「俺も頑張って食べてるんだけどなぁ。太りたい……」
馬鹿にされてるんだろうか? 僕は太ってることにコンプレックスは無いけど、世間一般的に太っていることは良くないことのはずだ。
話が意味不明でついていけないけど、聞かれたからには答えない訳にはいかない。
「おいしく食べることかなぁ」
「おぉ!」「なるほど!」「さすが!」「凄い!」
■
「って事があったんだ」
僕は今日あった事を母さんと花子に思い出せる限り話した。二人共変な顔をしている。変な顔は元々だから、微妙な顔にしておこう。
「太志は嘘なんてつかない子けど……」
「変なのー」
花子はもう落ち着いている。僕の事より花子だ。花子が泣く所なんてもう見たくない。
「花子。健太君達も最初は余所余所しかったんだ。いつもみたいな感じにはならなかったけど、話せば分かってくれたんだ」
「お兄ちゃん……」
花子はもう僕の言いたい事を分かってくれたはずだ。
「私……私! もう一度楓ちゃんとお話する! だって友達だもの!」
「うん。頑張って」
「うん!」
「お母さんも応援するわ」
「ありがとうお母さん!」
よかった。花子はもう大丈夫だ。先生の様子がおかしいのは気になるけど、それは僕も同じだ。明日、学校で先生と話をすれば花子の参考になるかもしれない。
「そうとくれば晩御飯の用意しなきゃね。しっかりと食べてね」
「そう言えばお腹ぺこぺこだよ」
「私もー」
今日のおやつは少なめだったから仕方がないよね。
「その前に洗濯物取り入れてくるわね」
主婦は忙しいんだ。僕達の相談に乗ってくれたから母さんの家事のスケジュールがずれてしまった。ありがとう母さん。
母さんはベランダに出ていった。
「お兄ちゃんありがとう」
「困った事があればいつでも言ってくれよ。僕は花子の兄さんなんだから」
照れた様子の花子に礼を言われた。感謝を言葉にするっていい事だよね。僕も素直に礼を言われて少し照れていた。
「おかしいわねぇ」
母さんが洗濯物を籠に入れて戻ってきた。首をひねっている。僕達の服の洗濯は大変だ。全員汗っかきだから汚れが染み付いちゃうんだ。
「どうしたの?」
花子が首を捻る母さんに尋ねた。
「下着が無くなってるのよ」
「風で飛んだんじゃないのかな?」
下着泥棒なんて我が家には無縁の言葉だ。大きなお尻と胸を包む下着はやはり大きい。世間一般で言う所の色気なんて皆無だ。
「そうなのかしら? しっかり止めていたのにねぇ」
確かに。母さんの家事は完璧だ。その母さんが止めていたと言うのだから風で飛んでいくとは思いにくい。でも下着泥棒はそれ以上にあり得ない。
「ただいま」
「あ、お父さんだ。お帰りなさい!」
花子が立ち上がって父さんを玄関まで、どすんどすんと迎えにいった。花子はお父さんっ子だからいつも迎えに行く。今頃は相撲の立会いみたいに父さんの胸に飛び込んでいる事だろう。
父さんがリビングにやって来た。続いて花子だ。横に太いから廊下を並んで歩くのは無理なんだ。
「どうしたの?」
いつも家族の前ではにこやかな父さんが浮かない顔をしている。何かあったんだろうか?
「いや……それがな」
「お父さん出世したんだって!」
「父さん凄い!」
先に話を聞いた花子が自分の事の様に喜んでいる。当然僕も嬉しい。給料が上がるとかじゃなくて、父さんの頑張りが認められたって事だから。それにしては父さんは喜んでいるように見えない。
「一太さん、なにか心配事が?」
やっぱり夫婦だ。父さんの事は母さんが一番分かってる。
「急に本社に呼ばれてな。本社で営業をすることになったんだ」
「あれ? 父さん配送のドライバーだよね? なんで営業?」
父さんはトラックの運転が仕事だ。ゴールド免許で事故なんて起こした事がない。
「お父さん、営業? って言うのしたことあるの?」
花子は営業の仕事が何か分かっていないみたいだ。そういう僕も詳しくは知らないけど。
「ないなぁ。お父さん今まで運転一筋だったから。まぁやるしかないか」
我が家の大黒柱は家族を養うために、畑違いの仕事でも頑張ってくれるみたいだ。ありがとう、父さん。
「一太さんは営業に向いてないと思うのだけど?」
母さんの疑問も尤もだ。僕たちは遠慮のない関係だけど、母さんは少しだけオブラートに包んた言い方をした。僕達の容姿は人によっては不快感を与える事がある。なんたって不細工なんだから。勿論仕事に容姿なんて関係ないはずなんだけどそれは建前って事は僕にでもわかる。
「父さんも、そう言って最初は断ったんだ。でもどうしてもって社長に頭を下げられてなぁ。社長なんて初めて会ったよ」
「社長!?」
「なんで!?」
「まぁ」
父さんを除く全員が驚いた。社長って言ったら社長だよ!? 会社で一番偉い人だよ!? そりゃ驚くよね!?
「給料を一〇倍にするから、受けてくれるまで頭を上げないって土下座する勢いで言われると、父さん断りきれなくてなぁ」
「一〇倍!!」
「すごーい!!」
「まぁ」
父さんの年収は知らないけど一〇倍って僕達家族がが四〇人になっても食べていける金額だよ。凄いお金だ!
「断り続けていたら、二〇倍、三〇倍って跳ね上がっていって、怖くなって頷いた時は五〇倍になってた。流石に冗談だと思うんだがな」
五〇倍っていったら僕達が二〇〇人食べていける額だ。一〇倍でも凄いのにそこまでいくとただの冗談にしか聞こえないよね。一〇倍ってのもたぶん聞き間違いだ。一〇枚と聞き間違えたんだ。何が一〇枚だって? もちろんサーロインのお肉一〇枚に決まっている。
「それでお父さん、出世って係長? になったの?」
花子は会社の役職の名前なんて詳しく知らない。ドラマのイメージだけで聞いてるんだろうな。父さんは会社で役職なんてついていない。平社員だ。社長直々って事は主任と班長を通り越して一気に係長ってのもあり得る。
「それがな……」
父さんはバーコードの頭をぽりぽりとかいた。髪の毛がはらりと数本前に流れた。
「本社の営業事業部を統括する営業本部長だって」
僕と花子はお互いの顔を見た。お互いの目が同じことを言っていた。
それって偉いの?
【ロマンスバーコード】
天然の若ハゲから自然の仕上がりで醸成されるヘアースタイルの気品に溢れる男性(紳士)を指す。さり気なく自然に残った、天使の残り髪を、悠久の時の流れを感じさせる大河のように、大草原のそよ風(サイド方向に受け流す)とし、時おり、前方向に怒涛の如くなだれ落ちる数本の絹糸のSU-DA-REが得も知れぬ色気を感じさせる。
世界的なデザイナーであるUMI-HEI氏はロマンスバーコードで有名であったが、ふさふさ疑惑が常に付きまとい、良心の呵責に耐えきれず、晩年ハゲランスであることをカミングアウトした。世に言うハゲランスショックである。
【ハゲランス】
崇高な会社理念を持つ芸能人御用達の秘密企業。詳細は別途記載の電話番号まで。
理念が素晴らしすぎて秘密になっていない企業の典型。いつの世も、人の口に戸は立てられないのである。長年培った技術とノウハウは他社の追随を許さない。世界シェアNo.1。
近年では天然モノには到底敵わないまがい物として使われる事もある。
【デブエット】
無理駄目絶対!
リバウンドで更に痩せるリクス大。専門のトレーナーの指導の下でも大抵失敗する。
みんなは自然に太ろうな。
【お母さんの下着】
大きい!
闇の市場価格はいかほどか。二度と表の市場に出ることはないだろう。
盗んだ者は既に口封じをされているかもしれない。
三〇〇年後にオークションに出されるが、真贋の判定は誰もできなかった。何故ならお母さんの下着は一度も市場に出たことがなかったのだから。
お父さんの好きな可愛い動物のワンポイント入り。