チラシの裏の落書き帳   作:はのじ
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オリジナル 美醜逆転 華麗なる布佐一家

「地震だ! みんな! テーブルの下に!」

 

 父さんはそれだけを叫ぶと母さんの腰を引き寄せてテーブルの下に押し込んだ。僕は茫然自失中の妹の花子の肩を掴むと父さんと同じくテーブルの下に誘導し、僕自身もテーブルの下に隠れた。最後に父さんが母さんを覆うようにしてテーブルの下に隠れた。

 

 家族四人で身を寄せ合って揺れが収まるのを待った。食器棚がガタガタ揺れ、テーブルの上に並んだ食器が落ちてくる。壁に据え付けているテレビのフックの片側が外れて今にも落ちそうだ。ガタガタと揺れる度に花子が僕にしがみついてくる。僕は少しでも安心させようと強く抱きしめた。

 

 長く感じた揺れは、段々と小さくなっていき治まった。

 

「みんな! 大丈夫か!?」

 

 父さんが頭を上げてテーブルの天板にごちんと音を立ててぶつかった。そのはずみでバーコードみたいな髪が一房たらりと前に垂れた。

 

「ぷっ、ふははは」

 

「あはは」

 

「笑う余裕はあるみたいだな。よし今の内に表に出るぞ。余震があるかもしれんからな」

 

 父さんは怒ることなく冷静に指示をだした。といっても父さんが怒ったとこなんて見たいことないけど。

 

「怖かったよう」

 

 花子が丸々と太った芋虫みたいな指で僕の服を掴んでいた。

 

「大丈夫か。立てる? 表に出るよ」

 

「うん」

 

「さぁ、梅子さんも立って立って」

 

「うふふ。地震は怖かったけど、一太さんの温もりは頼もしかったわ」

 

「梅子さんを、家族を守るのはお父さんの義務だからね。抱きついちゃっけど痛くなかったかい?」

 

「はい……今夜も抱きしめて欲しいな」

 

「おっと。吊り橋効果かな? 父さんもドキドキしてきたよ」

 

 父さんは母さんの巨乳に昔からメロメロだ。といってもお腹もお尻も人三倍は大きいけど。母さんは昔からおっとりした所があって、そんな所にも父さんは惚れているらしい。でも今は避難するのが先だ。

 

「もう。お母さんったら!」

 

「父さんも母さんも早く早く」

 

 僕と花子は庭で二人を待っていた。テーブルの下でイチャイチャする父さんと母さんのお尻はテーブルからはみ出していた。つまり僕と花子のお尻もはみ出していた事になる。怪我はなかったからいいけど絵面は間抜けだったかもしれない。

 

 そう。我が布佐(ふさ)家は太っちょ一家で近所では少しだけ有名だ。それ以上に我が家は不細工で有名だった。全員丸々と太り、鼻は上向き。カロリーの過剰摂取のせいか肌は荒れ気味でおまけに全員汗っかき。押し上げる肉が目を細くして、僕はまだだけど父さんは今時ないお手本のようなバーコードハゲ。

 

 僕の家族を知らない人に集合写真を見せると二度見三度見した後に笑い出す。全く失礼な話だけど家族だけあって皆よく似ている。一緒に住むとなんとなく似てくるんだろうな。

 

 父さんと母さんが手をつないで庭にやってきた。父さんと母さんは仲がいい。と言っても家族自体が仲がいい。旅行にいって家族風呂に一緒に入るくらいには。皆で入るとお湯があっという間になくなるのが悩みの種だ。僕は高校生で妹の花子は中学生だけど全然気にしていない。昔は一緒にお風呂に入っていたけど体が横に大きくなり過ぎて一緒に入れなくなったんだ。それに鏡を見ても僕の体も母さんの体も花子の体も違いが殆どない。僕は太っているからある意味巨乳だし、出ている所は出ているナイスバディだと言っても過言じゃない。

 

「よし、このまま様子を見るぞ」

 

 父さんが物置からキャンプ用のテーブルと椅子、母さんがポットと急須を持っていた。

 

「キャンプみたいだね」

 

 花子が喜んでいた。そう言えば最近キャンプに行っていない。後で父さんにお願いしてみよう。

 

「そうだな。来月にまた行こうか」

 

「やったぁ!」

 

 花子がどすんどすんと音を立てて喜んでいる。お願いする必要はなかったみたいだ。家族だから同じことを考えるだんろうな。

 

「お弁当作りますね」

 

「梅子さんの料理は絶品だからなぁ。楽しみだ」

 

「嬉しいわ」

 

 また始まった。父さんと母さんが手をつないで見つめ合っている。このままでは十月十日後に新しい家族が出来るかもしれない。それはそれで嬉しいけど、母さんの大きなお腹にはもう子供がいてもおかしくない。臨月だと言われても疑われないくらい太ってる。それは僕も父さんも花子も同じだけど。

 

 父さんがラジオを取り出して地震の情報を聞いていた。不思議な事に地震速報は放送されていない。父さんがチャンネルを変えていくがどこも地震については触れていなかった。

 

「おかしな事もあるもんだ。普通直ぐに流れるのにな」

 

 体感では震度五か六くらいありそうだった。横揺れで揺れる度に家族の鼻からぶひぶひ息が漏れていたんだから間違いない。

 

「お昼ごはんが駄目になっちゃったからこれで我慢してね」

 

 そうだ、お昼を食べようとして地震が来たんだ。お腹が減って痩せそうだよ。家の中に入れないから食材なんてないはずなのに母さんはキャンプ用のテーブルに驚くくらい立派な料理を並べていた。

 

「わぁ! 魔法みたい」

 

 花子も驚いている。一体どうやって準備したんだろう。

 

「物置に非常食を準備していたのよ」

 

 それだけでこんな立派な料理を作れるはずがない。妹が言うように母さんは本当に魔法使いみたいだ。

 

「おいしそうだ」

 

 父さんが母さんの胸を見て言った。母さんは頬を赤くしている。今は食事だからね。自重してね。

 

「さぁ冷めない内に頂きましょう」

 

 ほんとにどうやって温めたんだろう。

 

「いただきまーす」

 

 家族全員の声が重なって鼻息もぶひっと重なった。お腹が膨れれば気分も落ち着く。本当にそうだ。家族との温かい食事。これだけで幸せな気持になれる。花子も幸せそうな顔をしている。地震があったばかりなのにこれじゃ近所の人に嫉妬されそうだよ。家の中はぐちゃぐちゃだけど今だけは喜んでいいよね。

 

 この後二時間くらい庭に避難していたけど、余震は一回も来なかった。家に戻って家族全員で片付けをした後、ニュースを見たけど地震の事はどこの局も放送していなかった。MHKですら、地震の地の字も出なかった。

 

 僕達は、おかしいねぇ、おかしいねぇと言いながら母さんの美味しい夕飯を、おいしいねぇ、おいしいねぇと食べて地震の事を忘れてしまった。母さんの料理が美味し過ぎるのが悪いんだ。

 

 この日、僕達家族は、地震があった事以外何も違和感を感じなかった。ニュースのキャスターが薄毛だったり、お笑い番組でおデブ系のタレントが出ていなかったり、そんなことはよくある事だ。僕も花子もアイドルには興味がない。だから歌番組も見ないし、母さんは料理がプロ級に上手だから今更、料理番組も見ない。

 

 だから僕達は誰も不思議に思わなかったんだ。父さんと母さんは一緒にお風呂に入って早々に寝室に篭ったし、僕と花子も明日の学校の準備をして、ふごふご寝息を立てて寝てしまった。お腹が満たされると寝てしまうのは仕方がない。

 

 僕達家族は違う世界に来たみたいだと気づいたのは数日後だ。異世界じゃない。少しだけ違う、少しだけ価値観が違うパラレルワールド。切っ掛けは地震だったのかそうじゃないのか。今となっては分からない。だけど僕達家族は今までと、少しづつ、やがて大きく変わっていく生活に困惑することになる。

 

 僕達は一体どうなってしまうんだろうか。

 

 




一太 お父さん ボリウッドで永遠の主役を張れるロマンスバーコード
梅子 お母さん 九尾がひれ伏す傾世界の美魔女
太志 僕    二〇〇〇年に一人のオンリーワン系美少年
花子 私    一〇人いれば一万人が振り返る小悪魔的癒し系美少女







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