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転生したらスライムだった件 作者:伏瀬

魔都開国編

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104話 前夜祭

 囚われの長耳族エルフを含めた希少レアな魔物達が、続々と馬車で運ばれて来た。

 かなり高級な馬車に乗せられて、待遇は良いようである。

 元から俺達に敵対の意思は無かったのだろう。

 考えてみれば、仲間が攫われたと訴えてきた長耳族エルフの長老達にも、怪我らしきものは見当たらなかった。

 敵対せずに済むように、誰ひとり殺さず怪我もさせぬよう、細心の注意を払った上での作戦だったのだと読み取れる。

 という事は、だ。

 魔素量的にはランクはC〜Bランクといった感じの長耳族エルフだが、様々な魔法を使いこなす。

 単純にランク通りの強さでは無く、なかなか厄介な種族なのである。

 いくら疲弊していたとは言え、無傷なまま一方的に翻弄し、数十名を攫うとなれば、狩人ハンター達の実力は計り知れない。

 数名による襲撃だったと言っていたが、少なくとも、Aランクだと考えるべきだろう。

 念入りな事である。

 また、そのような者達を擁する組織、裏稼業専門という事だったが決して舐めてかかってはいけないだろう。

 運ばれてくる魔物奴隷達を眺めながら、俺は再度気を引き締めるのだった。




 三巨頭ケルベロス三名ボスの一人、ダムラダ。

 彼が魔物運搬の責任者として、馬車の一行に同席して来た。

 やはり目的は堂々と魔物の国テンペストへ入国する事だったようである。

 入口にて検問を行っている上に、不法入国は徹底的に排除しているので、登録無く入国は出来ないのだ。

 冒険者ならカード情報を読み取るだけで入国可能。その他は紹介状が無ければ受け入れていない。

 国の礎が出来てないので、身元の判らぬ物達は受け入れる訳にはいかないのである。

 俺に挨拶に来たらしいハグレ者は、現在出来たばかりの宿場町に滞在している。

 そこで、建設の手伝いや、掃除などを行わせているようだ。

 それはともかく。


 ダムラダは、笑顔を浮かべて、俺に挨拶に訪れた。

 町の様子を一瞥し、感心したように頷きつつ、


「お久しぶりで御座います、魔王リムル様。ダムラダで御座います。

 本日は、約束通り、捕らえていた魔物の皆様を送り届けに参りました。

 入国許可、有り難く存じます」


 恭しく、一礼する。

 相変わらず、派手さはないが豪華な衣装である。


「うむ。我が国の民を丁重に扱ってくれたようだな。礼を言う。

 約束通り解放してくれたようだし、今回の事は水に流すよ。

 だが、理解してると思うが、次は無いぞ?」

「ははは、勿論で御座います。命を賭けるには、相手が悪すぎます」


 その短い遣り取りで、今後は敵対しないと匂わせるダムラダ。

 此方としても、裏組織相手に消耗戦は避けたい。正面からぶつかるなら問題ないが、裏で色々と工作されると厄介である。

 せっかく聖騎士達を生かして帰し、無害で有益な魔王であると宣伝してるのに、無駄にされかねないのだ。

 こいつらの目的は、俺に取り入る事だろう。

 態々敵対する事もない。まあ、次にチョッカイをかけてきたら、全力で潰すけどね。


「ところで、小耳に挟んだのですが……何でも武闘会を開催されるとか?

 私達も是非とも観戦したいのですが、許可して頂けないでしょうか?」


 自然な笑顔で切り出してくるダムラダ。

 此方の戦力分析をしたいのがミエミエだ。

 別にいいけどね。どうせ、示威行動も兼ねている。ただし、対価無しに許可を出すのも面白くない。


「許可を出すのは構わないよ。何なら、武闘会開催までゆっくり滞在しても良い」

「おお、それは有り難き事です。それでは……」

「ただし、お前達の中で最強の者に参加して貰おうかな。

 其方の戦力も見ておきたい。何しろ、今後とも付き合う事になるんだろう?」


 ニヤリと笑い、そう切り出した。

 向こうとしても、俺に対するアピールはしておきたい所。この申し出を断る事は無いハズ。

 案の定。少しの逡巡も無く、了承して来た。


「流石ですね、一方的に手の内を見るのは駄目でしたか。

 わかりました、ではこの者が……」


 一人の若者を俺に紹介しようとするダムラダ。チラリとその若者を見て、再びダムラダに視線を戻す。


「出場者はお前だ、ダムラダ。この中で一番強いのは、お前だろ?」


 ダムラダと俺の視線が交錯する。そして、


「敵いませんな。お見事です、良くお解りになりましたね。

 仕方ありません、私が参加する事に致します。

 ですので、滞在許可と観戦の件は、宜しくお願い致します」

「ああ、今後の付き合いも、お前の戦い次第だな。頑張るがいい」


 ダムラダは再度俺に礼をして、退出した。

 思った通り、ヤツが一番強かったようだ。身ごなしに隙が無いし、見る者が見れば一目瞭然だったけど。

 だがこれで。

 結構強力な参加者が一名増えた。

 身内だけでの戦いではイマイチ面白みに欠ける所である。少しは刺激が出来ていいだろう。

 馴れ合いで戦っても盛り上がりにかけるし、ダムラダの実力も判明する。

 武闘会。

 どうなるのか、今から楽しみになってきた。






 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−






 地下迷宮ダンジョンの作成は、ラミリスとヴェルドラが楽しそうにやっている。

 たまに捕獲した竜を抱えて、ミリムが空を飛んで来る姿が目撃されていたようだが、魔物の国テンペストの住人に驚きは無い。

 いつもの事と割り切っていた。

 3人の高笑いが響いていたとの報告も受けたが、気にしてはいけないのだ。

 招待すべき各国の重要人物については、ミョルマイルが選定し、招待状を出している。

 伝達は重要な仕事である。

 ミョルマイルにソウエイを引き合わせ、伝達に協力するように申し伝えていた。

 ソウエイ配下であるトーカとサイカ、ナンソウとホクソウの4名をミョルマイルの伝達要員として役立たせる事にしたのだ。

 ミョルマイルも人を扱うのは上手いので、直ぐに打ち解けて指示通り動いている。

 差別意識のようなものが無くて、本当に良かった。


 そちらも任せて大丈夫だろう。

 ミョルマイル曰く、貴族にはお抱えの冒険者や腕の立つ傭兵または、用心棒が多いとの事。

 つまり、そういう者達にこの迷宮をクリア出来れば莫大な利益があると思わせられたら、幾らでも支援金を出すだろうという目論みだった。

 そして、スポンサーの貴族様には魔物の国テンペストを堪能して頂くという寸法である。

 闘技場の再利用計画も考えているようだが、それはボチボチでいいだろう。

 幾らスポンサーでも、年がら年中滞在する訳では無いのだし、当初の予定通り年4回程度のイベントが出来れば、後は訓練にでも使用すればいい。

 しかし、スポンサーか。

 流石はミョルマイル、先を読んでいる。

 俺の考えでは、冒険者から金を巻上げたら終わってしまうのだが、無一文になった者達の扱いに困る事になる。

 そこでスポンサーの登場。

 となると、やはり宝くじのように、当たりを引く者達も用意した方がいいかも知れない。

 射幸心を煽る手口だ。

 希少レアアイテムをドロップさせたり、賞金を用意するのもいいだろう。

 ミョルマイルのヤツは、自由組合に依頼するという計画を立てていた。


「組合に依頼って、そんな事出来るの?」

「勿論ですとも。100階層クリアで褒章金貨1,000枚を考えています。

 100階層クリアは、事実上不可能なのでしょう?

 リムル様が魔王であると知っていれば、挑戦者も減るかも知れませんが……

 それに、何やら最近、竜が運ばれて来て迷宮に吸い込まれる現象が報告されております。

 ……どこに、竜を倒せる冒険者がおるのですかな?

 聖騎士の皆様方でさえ、クリアは難しいのではないか、と愚考しました。

 これは、貴族向けの撒き餌です。なので、大盤振る舞いの金額でも問題ありません。

 しかし、支払う意思はあると思わせる為にも、階層毎の賞金も用意します。

 10階層到達で金貨1枚。30階層到達で金貨3枚。という具合に。

 記録地点セーブポイント到達にご祝儀感覚で支払うというのはどうでしょう?」

「ははは。魔王だって知ってても、参加したがる者がいるような宣伝を頼む。

 それにしても流石、良く見ている。で、賞金は先着か? それとも、全員?」

「月毎で、先着5名程度で良いのではと考えております。

 PTを組んでいるならば、皆で分ければいい話ですし。

 そして、月毎の到達者を発表して貰えば、皆さんの競争心も煽れるのではないかと考えます」


 なるほど、な。

 先着なら、然程懐は痛まないし、射幸心や競争心も煽れる。

 素晴らしい作戦だ。まあ、クリアされる事は無いだろうけど、されても問題は無い。

 金貨1,000枚程度なら、また直ぐに稼げるだろう。

 いい宣伝になるだけだ。

 よし、それで行こう。


「ミョルマイル君、その方向で話を進めてくれたまえ!」

「はは、承りました」


 ミョルマイルの計画を承認し、宣伝を行う各国の状況や、有名どころの冒険者の名簿を見せて貰う。

 後は、入場に際しての注意事項。

 冒険者カードがある者ならば、それを利用して管理可能との事。

 登録されて居ない者で腕試しを行う者には、迷宮カードを発行する流れになった。

 カイジンに相談し、カード発行に関する相談を行うとの事。

 これにより、本人の状態管理も可能になりそうだ。

 迷宮への入場料は、一回銀貨3枚。

 カード作成は初回のみ無料。二度目から銀貨10枚。

 "蘇生の腕輪"は、最初の一回だけは無料で配る。入場料に料金を含めているのだ。

 どうせ復活するのは地上である。

 二回目からの購入は、銀貨2枚で売り出す。必須アイテムだから売れるだろう。

 再入場に際して、"蘇生の腕輪"を装着していない場合、アナウンスが流れるようにしておくとの事。

 その方がいいだろう。自己責任だが、死なれるといい気分では無いし。

 他にも、貸し武器や貸し防具と言ったアイデアがある。

 これは俺が思いつき、クロベエが細工してくれた。

 実際、どうなるかはやってみないとわからないけど、結構繁盛しそうな気がする。

 地下迷宮ダンジョンを解禁するのが楽しみだ。






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 武闘会の運営計画や、地下迷宮ダンジョンの宣伝はミョルマイルが頑張ってくれている。

 だが、実際に差し迫っているのは武闘会なのだ。

 地下迷宮ダンジョンは完成間近なので、武闘会の開催ついでに宣伝するつもりなんだけどね。

 ついつい力を入れすぎているが、メインは武闘会である。

 忘れてはいない。

 しかし、一回こっきりで終わる予定の武闘会より、今後の基盤になりそうな地下迷宮ダンジョンに力が入ってしまうのは仕方ないのだ。

 だが、開催時期も迫ってきたし、そろそろ真面目に組み合わせについて考えないといけないだろう。

 ミョルマイルは運営に関する事で忙しく、とてもではないが選手の管理には手が回らない。

 実際、何名参加するのかも申請を受け付けているだけで、集計が出来ていないのだ。

 俺に訪問して来た各種族代表達も、参加の意思を示す者達がいたのだし、結構な人数が参加する事になると思う。

 気持ちを切り替えて、武闘会について検討を開始する事にしよう。




 まず、参加メンバーを再確認する。

 まず参加する魔物の国テンペストの幹部達。

 ベニマル,ディアブロ,ランガ,ソウエイ,シオン,ハクロウ,ゲルド,ガビル,ゴブタ。

 以上、9名。

 事の発端である、宴の際、参加表明した者達である。

 実際、誰が一番強いのだろう? 俺の予想ではディアブロだけど、トーナメント形式ならば勝負は判らない。

 回復するから疲労による影響は無いかと言うと、そうでも無いのだ。

 何しろ、体力が回復しても使用した魔素量エネルギーまでは回復しないのだ。上手く配分しないと連戦になった時に厳しい。

 どうなるかはやってみるまで不明であった。

 今回、序列がどうのこうの言っていたから、本来は総当たり戦がいいのだろうけど、流石に面倒である。

 上位4名でいいだろう。

 問題は、トーナメントにするにも人数が少ない事だ。

 8名だったら丁度良かったが、一人多い。

 ということで、一般参加を募ってるわけなのだが、どうせならブロックを分けて全16名による勝ち抜き戦にしようと思う。

 なので、後7名、参加者を募りたいのだ。


 主催者特別枠として、各魔王にも声を掛けてみた。


「はいはーーーい! アタシのベレッタはやる気満々よ!?」


 一名ゲット。

 予定通りである。


「ふっふっふ。その言葉を待っていた! ワタシの舎弟にも強制参加させてやろう!」


 謎の覆面、獅子覆面ライオンマスクとしてな! そんな言葉を残して、高速で飛び去るミリム。

 薄々、誰を参加させるつもりなのか、理解してしまった。

 いいのか? この大会、かなりレベルが高いってもんじゃなくなりそうだ。

 他の魔王とはそこまで親しくないし、こんな所か。


 後は、先日参加交渉した、ダムラダである。

 奴ら、堂々とこの町を堪能し尽くすつもりなのか、一番良い旅館を貸切にして占領している。

 金持ちなのは間違いない。

 王族が来た時用に、部屋を抑えておいて正解だった。

 あの男、間違いなく強い。一般参加と同じ扱いにして疲弊させるより、体力全開でどこまでヤルか、見てみる方が面白そうだ。

 という事で、特別枠に放り込んだ。


 これで、残るは4名か。

 東西南北で、バトルロイヤルして決めればいいか。

 そう考えていた時、


「リムルさん、呼んだかい?」


 と、声を掛けてくる者がいる。

 いや、別に呼んではいないのだが。

 見ると、聖騎士最強の男と言われる、アルノー・バウマンだった。


「何か用か? アルノー」

「ふふ、今度の大会、この俺も参加したいと思ってな。

 ここ最近、ハクロウさん相手に鍛え直しているんだよ。

 ぜひ、この俺も参加させて欲しい」


 いいのか? ここでサボってて。

 そんな事をチラッと思ったが、ヒナタは本国に帰ってしまって、ここには居ない。

 残った聖騎士は8名程。

 結界を張る手伝いをお願いしたかったけど、一人抜けても問題は無いか。

 人数も足りてないし、弱すぎる者を間に合わせで入れても仕方ない。

 一般参加者の部門は、3名でもいいだろう。


「それじゃ、参加して貰おうかな。

 でも、無様な戦いを見せたら、各国への示しがつかないぞ?」

「大丈夫だ。次は負けない!」


 何やら自信ありげに言い切っている。

 クロベエが鍛えた剣を手に、装備も一新しているのが自信の根拠だろうか?

 精霊武装とやらより、格段に性能向上させた試作型を試して貰ってるのだ。まあ、試作型なので、量産には程遠いのだが。

 それだけ自信があるなら問題ないだろう。

 恥をかいても知らないし、責任も持たないけどね。


「いいけど、覆面か何か被っとけよ。目立ったら、マジで示しつかないぞ?」


 どうせ獅子覆面ライオンマスクとか言う色物も参加するのだし、聖騎士として参加するよりはマシだろう。


「判った。保険として、仮面でも着けておく。参加を認めてくれた事、感謝する」


 負けなかったらいい話しなんだけどな、等と言いながら、アルノーは去って行った。

 余程自信アリなのだろう。

 アイツ、ディアブロに心折られてるのに、タフなヤツだ。

 ひょっとすると、バカなのかも知れないな。

 初っ端でディアブロに当たらなかったらいいけどね。俺は心の中でそう呟いた。




 よし、これで残り3名。

 残りは一般受付の参加者を見てから考えよう。

 ジュラの大森林に棲息する、知恵ある魔獣や魔物達。

 群れでは無く、個で覇を競う者達が、参加を表明しているらしい。

 そうした者を競わせ、残り3名を選出しよう。

 さて、誰が勝利するやら。

 序列はともかく、そろそろ役職を決める必要もあるだろう。

 勝っても負けても、いつまでも幹部と言う呼び名のままでも具合悪かろう。

 国家として国の重責を任せられる者達なのだ、それ相応の指揮権も与えるべきである。

 そう考え、俺は国家の体制についても思いを馳せるのであった。






 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−






 武闘会前日。

 魔物の国テンペストに続々と各国の代表使節団が到着していた。

 早い者達は、一週間も前から滞在している。

 俺が送った案内状だけではなく、ミョルマイルが出した招待状を持ってやって来た豪商もいて、町は活況に満ちていた。

 一度来た事のある者達は自慢気に、初めて訪れた者達を案内しているようだ。

 各国の重鎮や王族方も、見慣れぬ異国の様相に興味深々といった具合だった。

 どうやら意図通り、上手く行きそうである。

 とは言え、魔物の国テンペストで持て成せる人数はせいぜい3,000名程度。

 一般人ならば1万人でも宿泊可能なだけの設備はあるのだが、上流階級を持て成すとなると、3,000名が限界であろう。

 俺がそうした心配をしていたのだが、そこはミョルマイル。

 抜かりなく、宿の割り振りまでこなしてみせた。

 当然、リグルドやリグル、その他魔物の国テンペストの住民の頑張りは賞賛に値するものであったのは間違いない。

 大きなクレームが出る事もなく、無事に武闘会開催前日を迎えられたのは、皆の頑張りの賜物である。


 そして、その夜。

 いつもの宴会用の大広間に、各国の重鎮が一同に会していた。

 前夜祭である。

 慣れぬ座布団に戸惑いつつも、思い思いに寛ぐ姿が目撃される。

 大風呂は好評だったようで、一日に何度も入る人も居たらしい。

 支給された浴衣を着て、お互いの姿に感想を述べ合っているようだ。

 ここまでは成功と言っていい。

 護衛の者は交代で番をしていたり、大広間の外で護衛任務についている。

 護衛のプロらしく、差し入れを申し出たのだが辞退された。

 毒物を警戒しているのだろう。

 まあ、その気になれば毒とか不要で実力行使で問題ないのだが、それは言わぬが花なのだ。


「ええ、本日は良くぞお出で下さいました。ワタクシが、この度魔王になりました、リムルです。

 今日は軽い挨拶に留め、皆さんには是非とも、魔物の国テンペストの料理を堪能して頂きたい。

 長話は苦手ですので、早速始めましょう!」


 俺と一対一で会いたいという者には会っているが、面会希望を受け付けてからになる。

 なので、初めて俺を見た者達も多く、好奇の視線に晒された。

 俺が魔王と名乗った事で青褪める者や、逆に観察するように眺めてくる者まで様々だ。

 そういう視線が苦手なので、 軽く挨拶をしたら、宴の開始である。

 寛ぐ者達の前に、料理が運ばれていく。

 さて、反応はどうだろう?

 今回は、寿司。そして刺身に天麩羅とお吸い物。

 魚は取れたて新鮮。何しろ、俺が行って捕獲して来たのだ。

 手当たり次第に、飲み込み、毒を解析し分解してある。

 水中行動も上手くなったし、いい経験だった。

 が、次からは人に任せた方が良さそうだ。

 魚を捌いたのはハクロウである。

 クロベエの鍛えた包丁で、一瞬で生け造りも用意してくれた。

 シュナも驚きの手際よさで、捌くその姿は職人である。そして、寿司を握ったのもハクロウ。

 思わぬ特技だ。

 何でも、先代に習ったそうだが、異世界から来た人って江戸の人? でも、時代が合わない気がするが……

 まあいいや。そんな事はどうでもいい。

 シオンが、俺がプレゼントした包丁を握って手伝いたそうにしていたが、今回は我慢させている。

 当然だ。

 国家の重鎮を招いて、下手な物は出せないのだ。洒落ではすまないのだよ。

 問題は、醤油。

 何とか、醤油モドキが出来ていたので、それで代用する。

 色が薄い感じだが、味は似たような出来栄えだったので、問題ないだろう。

 山葵はあった。でも、これは好みが分かれるし、初めて食べる人にはキツイと思う。

 なので、寿司のは抜いて握ってもらっている。

 準備は出来た。

 料理とは、御もてなしの心。

 俺達の誠意が伝わればいいのだが。


 そして、開催される前夜祭。

 冷えた麦酒ビールに、歓声が起きたのが始まりだった。

 炭酸系が乏しいものしか飲んだことのない人々にとって、魔物の国テンペスト製の麦酒ビールは驚きだったのだろう。

 何よりも、ガンガンに冷えている。

 冷やしたガラス製のグラスを用意しておくという、徹底した日本式サービスを指導したのだ。

 自分の為にも、ここは妥協出来ない所である。

 長耳族エルフの仲居さんが、お酌をしてまわる。

 強制ではないよ? 自主的に手伝いたいと申し出た者に手伝ってもらっているのだ。

 これもまた大成功。

 三つ指突いての挨拶は、何と言うか万国共通で男心をくすぐるのだろう。

 酔ったわけでもなく顔を赤らめる者もいたようだ。

 何しろ、浴衣の胸元が、ね。

 ふふふ。計算通りである。


 そんなこんなで、宴は進んだ。

 どうやら、概ね大成功だと言える。

 目の前で魚を捌く所も見学させたりと、なかなか凝った趣向もこらしたのだ。

 当然、捌いてすぐに刺身として食せるのだ。不味いわけがない。

 この魚はAランクの……、等と、無粋な事に気付く者もいたけど、そこは味とは関係ないのだ。

 魔法使いによる毒鑑定は用意させているので、皆躊躇わずに口にしていた。

 というか、普段内陸に住んでいる者にとって、生の魚など食べる機会はほとんどないのかも知れない。

 何しろ、運搬が問題だからね。

 馬車では少量しか運べない以上、余程の金持ちでなければ、生で魚を食べる事は出来なかっただろう。

 そういう意味でも、大好評の内に宴は進んだのだった。

 まあ、これも計算通り。

 今後、俺達と交流するなら、こういう食材も流通出来ますよ! とアピールを忘れない。

 俺の仕事はこうした宣伝である。

 贅沢をするだけでは無いのですよ。俺が我侭なだけではなく、こういう機会にそなえての事だったのだ!

 という事にしておこう。


 こうして、各国の重鎮への宣伝効果も兼ね備えた前夜祭は、無事に終了したのであった。

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