糸井重里が毎日書くエッセイのようなもの

12月11日の「今日のダーリン」

・はじめて観た映画はなんですかと質問されたら、
 ぼくは『赤い靴』だったと思います、と答えていた。
 それがたしかな記憶なのかは、よくわからなかったのだ。
 しかし、いまはインターネットで調べられるので、
 そういう映画があって、じぶんが観たであろうことが、
 実は正しい記憶だったと簡単に判明してしまう。
 バレエ映画の不朽の名作であるらしい。
 1948年製作、日本での公開が1950年ということだから、
 ぼくが観たのは、この作品にちがいない。
 父と観たのだけれど、退屈だったし、とても怖かった。
 表現されている内容のほとんどが理解できないので、
 たいていの幼いころに観た映画には、
 怖かったという思い出が貼り付いている。
 それにしても、『赤い靴』は怖かった。
 日常には見慣れない「狂的」なものを感じていた。
 この映画についての情報が手に入れられたせいで、
 ぼくが感じていたはずの「狂的」なものは、蒸発した。
 まんが映画の『ダンボ』だって、怖かった。
 『紅孔雀』や『笛吹童子』だって怖かった。
 探偵ものの映画も怖かったし、特撮怪獣ものも怖かった。
 映画というのは、みんな怖いものだった。
 怖いけれど、そこはがまんしながら観る娯楽であった。

 前にここで書いたような気がするけれど、
 ぼくの性的トラウマになっている映画が、
 『憲兵とバラバラ死美人』という
 おどろおどろしいタイトルのものだった。
 映画がはじまって間もなく、女性が押し倒され、
 服がはがされ、乳房が半分くらい見えた。
 怖いに加えてエロティックなものが混じりこんでいた。
 少年として、見てはならないもののように感じられて、
 家に帰ってからも、映画のことを親には言わないでいた。
 友人に、その記憶を話したことは何度かあるのだけれど、
 その映画のことはだれも知らなかった。

 …しかし、2018年の現在になって、
 ぼくはこの映画をアマゾンで見つけてしまった。
 ほんとうに、『憲兵とバラバラ死美人』はあったのだ。
 探せばなんでもあるのかよ、と腹が立つような気もする。
 まだ、怖いし、仕事が忙しいしで、そのDVDは観てない。

今日も、「ほぼ日」に来てくれてありがとうございます。
『透明人間と蝿男』というのも見つけたので、つい買った。