こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。すでに書店や問屋などの新刊情報に載っているのでご存じのかたもいるようですが、私の書き下ろし新刊が10月中旬に発売されます。
『歴史の「普通」ってなんですか? 忘れられた庶民の伝統』(ベスト新書)
今回は当初、「伝統の検証」というテーマで書きはじめまして、去年の秋口には3分の1くらいできてたのですが、その後個人的な事情で長らく執筆できなくなりました。その間に伝統というテーマに飽きてしまい(伝統なる概念が空虚な共同幻想にすぎないと、看破してしまったので)、ようやく書き上がるころには、伝統というテーマ以外のネタの比率が高まってしまいました。そこで書名は『歴史の「普通」ってなんですか?』になりました。
書店向けの内容紹介では、恵方巻のことが書いてありますが、これは他人が調べたことをさらっと紹介してるだけなんで、ここをフィーチャーされてもなあって感じなんですけども。どちらかというと、本の帯のほうが的確に内容をイメージできると思います。
保育園がうるさい! 建設反対!(昭和51年)
マニキュアしてるから、漬け物なんて作れなーい。(昭和13年)
祝日に国旗を掲揚する慣例はありません。(警視庁・大正9年)
生まれつきの茶髪を黒く染めろと先生に言われた。(昭和40年)
これ全部、むかしの日本であったこと。
昭和初期のギャルたちも、料理よりおしゃれが大事でした。庶民はもとより、官公庁でさえ、祝日に国旗を掲揚する習慣はありませんでした。祝日に国旗を掲揚する行為は、戦時体制下で強制されてはじまったことなので、日本の伝統ではありません。
今回いちばんの目玉は、これまでだれも教えてくれなかった、保育園と共働きの迫害の歴史です。
元の原稿では第3章だったのですが、これを冒頭に持ってこようという編集の提案に乗りました。私もこれをぜひ、できれば日本人全員に読んでもらって、あらためて日本庶民の近現代とはなんだったのかを、考えていただきたいので。それくらい重要な問題だったんです。
最近も保育園の建設反対運動が話題になりましたけど、40年前には、都内ほとんどの区で、反対運動が起きてました。いまはむしろ少なくなったくらいです。
保育士(保母)は60年前から低賃金重労働で離職者が多かったし、自治体が無認可保育所を支援する予算を組むと地方議員が妨害したりと、大正・昭和の日本人は、保育園と共働き夫婦を、執拗なまでに差別・迫害してきたのです。まさにヘイトとしかいいようがない実態を調べれば調べるほど、知れば知るほど、怒りをおぼえました。
たまに、こういう意見をいただきます。歴史もいいけど、前のように社会学、社会問題のほうに戻ってほしい、と。
いえ、私はずっと、社会問題に取り組んでるんです。いまの社会問題を正しく理解するには、いまだけ見ててもダメなんです。いま起きている問題の根は、必ず過去にあることを痛感したから、私はしつこく過去の社会と人間の実態を洗い直すのです。
社会問題の解明・解決のためには、ありのままの歴史を見る必要があります。極右みたいな連中は、過去の歴史を美化・捏造してお花畑にしてしまいます。だから彼らは、素晴らしい過去に戻せば社会は良くなるなどというデタラメな処方箋を書いてしまうわけです。
人間は歴史の失敗からしか学べません。いま保育問題の対応が後手に回ってるのは、1970年代までの失敗の歴史とその教訓が、80年代のバブル期にすっかり忘れられ、リセットされてしまったからなんです。だから90年代に問題が再燃したときに、またゼロからはじめるはめになりました。
これ以上詳しいことは、本でお確かめください。発売までひと月ほどなので、また発売日が迫ったら追加情報をお届けします。
[ 2018/09/21 09:24 ]
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