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日本人はカホコを笑えないかもしれない(夏ドラマ評)

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。『会社苦いかしょっぱいか』に書きましたが、最初に「過保護」と呼ばれたのは、タモリさんくらいの世代の人たちです。彼らが大学を出て新入社員になったとき、呼んでもいないのに入社式に母親がついてくることが話題となり、過保護、甘ったれ、ママゴン息子などとからかわれたのです。
 この世代は老人になったいま、地域の子どもの見守り活動とかにもやたらと熱心です。自分が過保護に育てられ、自分の子どもも過保護に育て、過保護をあたりまえと考えているから、よその子も過保護に見守ったほうがいいと考えるのでしょう。
 そんな過保護世代が過保護に育てた娘、さらに過保護に育てられた孫娘が登場する『過保護のカホコ』は、五〇年以上続いてきた過保護の歴史的背景を的確に描きつつ、ドラマとしても続きが楽しみな傑作に仕上がってました。
 あの一族が醸し出す不気味な家族愛をブラックユーモアとして描いてやろうとほくそ笑む、遊川さんの顔が目に浮かびます。
 でもみなさんに、あの一族を笑う資格がありますか? 世界一安全な日本で、地域の子ども見守り活動なんてのをおおげさにやってる姿は、外国人の目には心配性の過保護に映りますが、みなさんは疑問を持つこともなくやってますよね? もうすでに日本のみなさんは、過保護に慣れきってしまってるんです。
 遊川作品のヒロインはクセが強いことが多いので、演じる女優にも抜きんでた演技力と表現力が求められます。そのなかでも私の印象に残ってるベスト2が、『女王の教室』の天海祐希さんと『曲げられない女』の菅野美穂さん。そこに今回の高畑充希さんも加わるんじゃないかと期待が持てます。
 今回も、こんな女と絶対関わり合いたくないよと腹立つキャラなのですが、それをおもしろがって見ていられるように演じちゃう高畑さんは、やっぱり上手いんです。芸達者ですよ。
 遊川作品に馴染みのない視聴者は初回を見て、これからロマンスが発展することを期待するかもしれませんけど、鬼の遊川は必ずや、甘く平和な恋物語を望む視聴者をどん引きさせるような展開を用意しているはずなので、それも楽しみです。

 もう一本、予想以上の出来だったのが、『警視庁いきもの係』。おふざけのキワモノだろうと冷やかし半分で見たら、謎解きの経緯とかひねりかたとかが、ちゃんとミステリになってます。渡部篤郎さんはなんであんな芝居なの? と不思議だったけど、初回のラストでその妙なリアクションの意味があきらかにされるのもミステリっぽい仕掛け。よくできてると思ったら、原作の小説があるんですね。
 橋本環奈さんが口とんがらかしてガサガサの声で食ってかかる姿は妙におもしろい。いつか椿鬼奴さんと母娘役でガサガサの共演をしてほしい。

 まだはじまってないけど、『わにとかげぎす』はどうなんだろ。一応見るつもりです。原作のマンガがとても好きだったんで。ちなみに『ヒミズ』と『ヒメアノール』は好きじゃないです。

 そうそう、ところで春ドラマの『みをつくし料理帖』は、久々に傑作と呼べる時代劇でした。ケチつけるところがほとんどないし。回を重ねるごとに黒木華さんが役をどんどん自分のものにしていきます。もうあの役は黒木さん以外考えられません。続編作らないとはいわせませんよ、NHKさん。
 まさに関西風の澄んだおダシのようにあっさりしつつも味わい深い。あれをもの足りないという人は、親子愛の特盛り・友情の絆のつゆだく、みたいな感動押し売りドラマの見過ぎで感受性がマヒしてるんですよ。気をつけてくださいね。
[ 2017/07/15 22:20 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)
プロフィール

Author:パオロ・マッツァリーノ
イタリア生まれの日本文化史研究家、戯作者。公式プロフィールにはイタリアン大学日本文化研究科卒とあるが、大学自体の存在が未確認。父は九州男児で国際スパイ(もしくは某ハンバーガーチェーンの店舗清掃員)、母はナポリの花売り娘、弟はフィレンツェ在住の家具職人のはずだが、本人はイタリア語で話しかけられるとなぜか聞こえないふりをするらしい。ジャズと立ち食いそばが好き。

パオロの著作
歴史の「普通」ってなんですか?

世間を渡る読書術

会社苦いかしょっぱいか

みんなの道徳解体新書

日本人のための怒りかた講座

エラい人にはウソがある

昔はよかった病

日本文化史

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13歳からの反社会学(文庫)

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続・反社会学講座(文庫)

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反社会学の不埒な研究報告