長期の視点で原油相場の安定へ努力を

社説
2018/12/12付
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サウジアラビアなどが加盟する石油輸出国機構(OPEC)とロシアを中心とする非加盟産油国は、原油生産を来年1月から日量で計120万バレル減らすことを決めた。10月に記録した約4年ぶりの高値から3割も急落した原油価格を支えることが狙いだ。

日本などの消費国にとって、原油価格は安いほど消費者や企業の負担が少なくてすむ。ただ、価格急落は産油国を直撃し、世界経済の波乱要因にもなる。2016年初めの1バレル30ドルを下回るまでの急落場面では、産油国が投資資金を引き揚げるとの見方も出て、主要国の株安を加速させた。

原油価格の急落は必要な開発投資を遅らせ、将来の高騰要因にもなる。国際エネルギー機関(IEA)は、開発投資の鈍化が20年代以降に供給不足をもたらすリスクを警告している。

IEAが11月に発表した予測では、電気自動車(EV)などの普及が進んでも、40年までは世界の石油需要は減少しない。新興国の需要拡大を賄うために一定の投資を維持するなど、長期の視点で相場安定に努める必要がある。

ここ2カ月、原油価格を急落させたのは米国政府が対イラン原油制裁で日本など8カ国・地域を適用除外とし、当面の供給不安が後退したことなどが要因だ。

しかし、原油市場が主要産油国の生産余力が世界需要の数%しかない状態で綱渡りしていることに変化はない。産油国に供給不安が台頭すれば、原油価格が再び高騰する可能性は高い。

OPEC加盟国で、世界屈指の天然ガス産出国でもあるカタールは来年1月にOPECを脱退することを決めた。背景にはサウジアラビアとの断交や、カタールが関係を強めるイランとサウジの対立もあったとみられる。

著名記者の殺害事件をきっかけにサウジアラビア情勢も一段と不透明になった。各国が中東地域の安定に取り組む努力も重要だ。強硬な対外政策とともに、目先の価格を下げるために産油国に圧力をかけ、原油市場を揺さぶる米トランプ大統領の言動は世界経済に対するリスクを高める。

米原油先物市場に積み上がっていたヘッジファンドなどの買い残高は7月のピークから3割強も減り、当面の相場下落にかける売り残高が大幅に増えた。投資マネーが原油価格の動揺を増幅させる構図にも注意が必要だ。

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