まさにあぜんとする展開だ。産業革新投資機構(JIC)の民間出身取締役全員が辞任表明した。官と民が合同で新たな産業を育てる仕組みがそもそも必要なのか、存在理由をあらためて問いたい。
官民ファンドは安倍政権の成長戦略の目玉だ。二〇一二年以降、各省が競うように立ち上げ、現在十四ファンドが存在する。民間は融資しにくいが成長の見込める事業を発掘し、資金を注いで新産業を生み出すのが目的だ。
このうちJICは九月に前身の産業革新機構を改組して発足した。旧機構は、経営難の企業ばかり救って産業創出につながらないという批判を浴びた。その反省からJICは、バイオなどのベンチャー企業に焦点をあて、もうかるビジネスを育てようとした。
だが、一部役員の年収が最大で一億円を超えることが判明した後、「高すぎる」との批判が噴出して迷走状態に陥った。
経済産業省は、いったん約束した年収の減額のほか、投資の手法など業務への管理を強めようとした。経営陣は約束反故(ほご)に加え、国の管理下では素早く自由な投資が行えず、前身の二の舞いになってしまうと反発した。
実は国の関与のあり方こそが官民ファンド最大の課題だった。ファンドの主な原資は、財投債という国債の一種で調達した資金などを元手にした財政投融資特別会計で、返還が前提。国は可能な限り業務を監視したい。これに対し経営陣は、国に指図されず自分たちの目利きと裁量で投資をしたい。
双方の違いは当然ながら事前に調整し、役割分担を明確化してスタートすべきだった。この点をあいまいにした経産省のかじ取りは極めて甘かったといえる。
さらに、官民ファンドが持つコスト面での課題も指摘せざるを得ない。
民間のファンドは、資金集めに最も苦労するとの見方がある。しかし、JICをはじめ官民ファンドは国が資金を出すのでその心配がない。官僚の予算執行のような形であり、コスト意識がどうしても芽生えにくい。
実際、会計検査院が四月に公表した報告書によると、昨年三月末時点で海外需要開拓支援機構(クールジャパン機構)など六ファンドが事実上赤字だった。こうした中、JICの役員に高額報酬を払うことへの理解は得にくい。官民ファンドは存廃も含め根本からあり方を見直すべきだろう。
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