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【社会】「空母化」ありき 現場困惑 政府、違憲否定「F35B常時は搭載せず」
政府・与党が策定中の新しい防衛大綱に、海上自衛隊の護衛艦「いずも」の事実上の空母化を盛り込む方針が十一日、固まった。政府は戦闘機を常時搭載しないことを理由に、憲法上、保有できないとされる空母ではないと主張するが、専守防衛の根幹が揺るぎかねない。「運用のあり方があいまい」「財政危機につながる」。自衛隊関係者や専門家からは疑問や批判が出ている。 (原昌志、鷲野史彦、中沢誠) 「太平洋側には中国(の艦船や航空機)がしょっちゅう来ている。空母的な機能で、どこからでも航空戦力を展開できる意味は大きい」 防衛大綱などに、事実上の「いずも」の空母化が盛り込まれることを自衛隊の首脳の一人はこう評価しつつ、新たに購入する米国製の戦闘機「F35B」は常時搭載しないことを強調した。「あくまでF35Bも積めるというだけ。普段は他の航空機を運用する」 大綱の骨子案には、どのような時に搭載するかについて「必要な場合」と記した。 自民党の国防族の一人は「もし太平洋側から攻撃されたら、基地から戦闘機を出動させても間に合わない。どこから攻撃されても対応できる防衛力を備えることが抑止力につながる」と説明する。 だが、「必要な場合」とはどんな事態を想定しているかについて、大綱の骨子案を了承した十一日の自民、公明の両党のワーキングチームの会合後も説明がないまま。今後、両党はいずもを「空母化」しないことを確認する文書を取り交わすものの、内容は一枚程度にとどまり、「必要な場合」をどこまで明示するのかは未知数だ。 海自内でも好意的な評価ばかりではない。ある幹部自衛官は「運用構想があって、何に使うかを考えるのが本来なのに、空母化ありきで進んでいる印象だ。現場は困る」と案じる。別の幹部も「戦術的に意味を持つような気がしない」と語る。 財政的な懸念もある。防衛省は事実上の空母化に向け、米国から二十~四十機のF35Bを輸入することを検討している。今年、米政府がF35Bを購入した価格は一機百三十億円。四十機なら五千二百億円が必要で、さらに三十年間の維持整備費も数千億円に上るとみられる。このほか、空母化には甲板の耐熱強化や管制機能の追加などの改修が必要とされる。 「パイロットの養成や訓練費用もかかるので、とてつもなく金がかかるだろう」。軍事評論家の前田哲男氏はこう指摘した上で、懸念を示す。「日本が、いくらいずもは多用途運用護衛艦だと言い張っても、中国をはじめアジア諸外国は空母としか見ないだろう。いずもの空母化が中国の軍拡をさらにエスカレートさせ、軍拡のシーソーゲームを招きかねない」
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