糸井重里が毎日書くエッセイのようなもの

12月10日の「今日のダーリン」

・世の中にはいろんなコンサートがあるのですが、
 ひとりずつの人を追いかけて長いこと観ていると、
 アーティストの「セットリスト」の変遷には、
 わりと似たような傾向があると思うんです。

 1)まずは、デビュー期、新人期です。
 これは、持っているありったけの曲を演ります。
 ひとつのコンサートを完成させるだけの曲数を、
 持っているだけですごいことだとも言えます。
 だから、カヴァー曲などが混じることもあります。

 2)続いては、知られた曲に、新曲が加えられます。
 自信作であろうが、迷走中であろうが、新曲を入れます。
 聴衆からは、あたたかく迎えられる分量で、新曲が入る。

 3)さらに続くと、新しい曲よりも、
 新人当時の曲のほうに客席の要望があったりして、
 「いつまでも、オレは同じことやってないよ」と、
 意地になっているかのように新曲の割合を増やします。
 しかし、昔の曲のほうがウケたりして…悩ましい時期。

 4)…それでは、と、客席が望むセットリストとは
 どんなものなのかと、アンケートなどをとって、
 「名のある歌」と「通好みの歌」で構成されていく。
 ここまでたどり着いたらもう、すごい大物になってます。
 でも、新曲がちゃんと入っているのが、最高のかたち。

 5)そして、この先はもうありませんというのが、
 新しいとか古いとか、知ったことじゃありません段階。
 どういうコンサートにするかを自由に考えて、
 古い曲も新しく歌えちゃうし、知られてない曲も演る。
 新曲は新曲で、やりたいからやっているだけ。

 昨夜、矢野顕子「さとがえるコンサート」でしたが、
 もともとヤノは、ずっと(5)だったのに、さらに、
 (5)を撹拌して煮詰め、新素材加えて特製にした感じ。
 歌手であり演奏家でありプロデューサーであるヤノが、
 「矢野顕子にもがんばってもらおう」と、
 「おもしれぇぞう」というコンサートを企画して、
 バンドやゲストをまじえて大盛りにした感じでした。

今日も、「ほぼ日」に来てくれてありがとうございます。
新しさを強調している時期って、まだ自信がないんだよね。