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【社説】

ノーベル文学賞 再生へさらに改革を

 ノーベル賞の授賞式があったが、今年は文学賞の受賞者はなし。関係者の性的醜聞を巡る混乱で、発表が見送られたためだ。改善策は示されたが、世界で最も影響力のある文学賞は再生できるのか。

 文学賞の選考に当たるスウェーデン・アカデミーでは昨年、会員の夫による性的暴行が発覚した。しかしアカデミーは「証拠がない」として不問に付した。これに抗議する会員たちが次々と辞任。トップの事務局長も辞任するなど混乱が広がり、例年なら物理学賞などと合わせて十月に行われる賞の発表は見送りとなった。

 この異常事態にアカデミーは、従来は会員だけで構成していた賞の選考委員会に、外部の専門家を加える改善策を発表した。組織の大幅な刷新を求めていたノーベル賞の運営財団も「正しい方向への一歩」と評価しており、来年は再開される可能性が出てきた。

 だが、文学賞の問題はこれだけではない。暴行問題に後ろ向きだったアカデミーの保守的な体質に加え、関係者が事前に受賞者の名を漏らした疑惑も見過ごせない。受賞者を当てる賭けで利益を得られる可能性があり、アカデミーも漏えいの事実は認めている。

 また、選考委員が候補者について予断を抱いていたり、受賞者と親しい関係にあったりと、個人的な思惑や利害が選考をゆがめる懸念もかねて指摘されてきた。

 そもそも、ノーベル賞の候補となる水準の文学者と作品に優劣を付けること自体、至難の業だ。

 物理学など科学の分野なら、論文の引用回数をはじめ、比較的明確な判断の材料がある。だが文学は、用いる言語もその母体となる文化も異なれば、表現の形式も詩から長大な小説まで多種多彩を誇る。それを一列に並べて比較するのは、文化的な営みというよりは「異種格闘技」に近い。

 それだけに、賞の信頼の回復には外部委員の招致にとどまらず、選考の公正さを保つ体制づくりなど、さらなる改革が必要だろう。例えば、現状では、候補者への評価や選考の経過は半世紀も公開されない。そうした秘密主義が賞の権威を高めてきたという側面もあるが、公開までの時期を短縮するなどして、受賞者を決める過程の透明性アップにつなげるのも一案ではないか。

 日本国内にも、賞の選考にもの申せる識者がいよう。この伝統ある賞の再生に向けて、そうした人もより積極的に意見を述べ、アカデミーに働きかけてほしい。

 

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