ひねくれ魔法少女と英雄学校   作:安達武
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寝落ちしたので朝投稿


コードネーム決め

朝から騒がしい教室も、本鈴と同時に教室へ入ってきた相澤を前にすれば全員行儀よく静かに席についている。

時に冷徹とも呼べる相澤の合理主義を理解しているからだ。

それと同時にクラスの担任であり、USJ事件では傷だらけになっても生徒を守ろうとしてくれたヒーローである。相澤を第二の親のように慕っているため、相澤の小さめの挨拶に声を揃えて挨拶する。

 

「相澤先生、包帯取れたのね。良かったわ」

「婆さんの処置が大袈裟なんだよ」

 

蛙吹の言葉に左目の下を左小指で掻きつつ言葉を返す相澤。右目下の傷跡以外に目立った傷は無い。2週間ほどであの大怪我が完治するのは流石はリカバリーガールと言うべきだろうか。

 

「んなもんより今日の“ヒーロー情報学”。ちょっと特別だぞ」

 

相澤の言葉にクラス全体に緊張感が走る。相澤の“特別”は生徒にとって“試練”ということは入学してから今日までの間に散々思い知らされている。

そしてヒーロー情報学は本日の1限にして、ヒーロー関連の法律や様々な社会制度を専門的に学ぶ授業。覚えることが多い科目でもあるため、相澤の“特別”発言に身構える――――――が、

 

「『コードネーム』ヒーロー名の考案だ」

「胸ふくらむヤツきたああああ!!!」

 

良い意味での“特別”にクラスが沸き立ち、歓声と共に立ち上がる生徒多数。

やかましい。

千雨のそんな気持ちは相澤も同意見なのか、相澤が“個性”を発動させることでクラスが一瞬で静まり返った。

 

「……というのも、先日話した『プロヒーローからのドラフト指名』に関係してくる。

指名が本格化するのは経験を積み、即戦力として判断される2、3年から……つまり、今回来た“指名”は将来性に対する“興味”に近い。

卒業までにその興味が削がれたら、一方的にキャンセルなんてことはよくある」

「大人は勝手だ!」

 

机を叩きながらの峰田の言葉は尤もだ。

しかしまだ伸び代が多く技もほとんど定まっていない入学したての1年生相手なのだから当然だろう。

1年生における指名で見られるのは、“個性”の威力とその系統、現時点での特性と応用力。そして周囲より“特化した素質”があるか否か。

この“特化した素質”というのはヒーローとしての素質……それこそ千雨が学級委員決めの時に告げた、脅威に立ち向かう勇敢さや俯瞰して物事を見る冷静さ。危機への判断力と柔軟な対応、外見及び内面の魅力、競技で勝つための対策をはじき出す知力、人々を惹き付けるカリスマ等を指す。

将来プロヒーローとして活躍する有望株の中で、どの素質が光っているのか。それが今回の指名に繋がってくる。

 

「頂いた指名がそんまま自身へのハードルになるんですね!」

「そ。

で、その指名の集計結果がこうだ。

例年はもっとバラけるんだが……3人に注目が偏った」

 

黒板に指名件数をグラフにしたものが映写される。

指名の結果は上から千雨が4473、轟が4051、爆豪が3056、そこから下は3桁と2桁になっており上から常闇390、飯田301、上鳴152、八百万108、切島68、麗日20、そして瀬呂13の計10名。

千雨がトップである。

 

「だー白黒ついた!」

「見る目ないよね、プロ」

 

評価の無いものはその結果に嘆き。

 

「1位2位3位逆転してんじゃん」

「長谷川は実質2位だったようなもんだし」

「まぁ表彰台で拘束された奴とかビビるもんな……」

「ビビってんじゃねーよプロが!!」

 

指名数に納得する者、キレる者。

 

「流石ですわ轟さん、千雨さん」

「俺はほとんど親の話題ありきだろ……それより長谷川凄いな」

「まぁ目立ったし、ウゼェほど話題になったから……にしても多すぎる……」

 

順当な結果だと受け止める者、呆れる者。

 

「わああああ!」

「うむ」

 

素直に喜ぶ者。

 

「無いな!

長谷川がお前の意図を汲んで轟と試合してたけど、やっぱあんな無茶すっから怖がられたんだよ」

「んん……」

 

指名結果を冷静に分析する者。

十人十色な反応をしつつも、相澤が再び話し出す時には静かになった。

 

「これを踏まえ……指名の有無関係なく、いわゆる職場体験ってのに行ってもらう」

「!!」

「おまえらは一足先に経験してしまったが、プロの活動を実際に体験して、より実りある訓練をしようってこった」

「それでヒーロー名か!」

「俄然楽しみになってきたァ!」

 

USJ事件でプロの戦う本物のヴィランと戦ったA組。

とはいえ現役のプロヒーローたちの日常を見て体験するというのは、ただヴィランと戦うのとは違う経験となる。

ヒーロー活動で目立つのはヴィラン退治や救助活動の時だが、ヒーローの普段の過ごし方を知ることが出来るのは貴重だ。

 

「まァ仮ではあるが、適当なもんは……」

「付けたら地獄を見ちゃうよ!!」

「!!」

「この時の名が!世に認知されそのまま、プロ名になってる人多いからね!!」

「ミッドナイト!!」

 

かっこよく相澤のセリフを横取りしながら教室に入ってきたのは、体育祭で主審をつとめていたミッドナイト。

……打ち合わせとかしていたのだろうか。

 

「まァそういうことだ。その辺のセンスをミッドナイトさんに査定してもらう。俺はそういうのできん。

将来自分がどうなるのか。名を付けることでイメージが固まり、そこに近付いてく。

それが『名は体を表す』ってことだ。

“オールマイト”とかな」

 

配られたボードとペンを手に、千雨は何にするか考える。

 

白き翼、アラ・アルバ……意味も伝わらないし個性と関連性がない。

白を意味するアルバ……コスチューム黒いだろ。やめよう。

かといって、黒猫ってのもなんか違う。ヘッドギアの変更届け出したし。

あと思い付くのなんてビブリオルーランルージュしかねぇ。しかも能力に掠りもしてねぇし意味も特にない。

マジでどうしよう。千雨は頭を抱えることとなった。

 

ボードを渡されてから15分。ミッドナイトが出来た人から発表と言ったことに何人かが驚く。

ヒーローネームは将来プロとなってから周囲に認知される名前だ。クラスメイト相手に恥ずかしがっていては名乗れない。

しかしこの発表形式によって、クラスメイトのネーミングセンスやヒーロー名の付け方を知れるチャンスととらえて、千雨は一旦考えるのを止めてクラスメイトの発表を聞くことにした。

 

青山の短文ヒーローネーム、芦戸の問題ありすぎるネーミングセンスとツッコミが入る発表が最初に続いてしまい、ボケてはツッコミを受ける大喜利のような空気になってしまったが、その空気は蛙吹のフロッピーによって変わる。

そこからは真っ当なヒーローネーム決めになっていった。

憧れへのリスペクト、個性や外見からの連想、わかりやすさ。それぞれ考えていたのだろう。クラスメイトたちの発表したものを参考にしながら考える。

 

「ヒーローとしての名前……」

 

ちうはネットアイドルとしての名前だし、何か良さげなものはないだろうか。

とりあえず、なんたらヒーローってのはウィザードでいいか。ハッカーとか電賊だと違法な感じがあるし。

そう考えてマジックをホワイトボードに走らせる。あとは本題のヒーローネームだ。

 

意味から考えるのも手だろうが、思い付かない。

千雨の将来なりたいヒーローは究極的に言えばただの引きこもり。言えば確実に怒られる。

なら、将来の夢からの連想はどうだろうか。

自分の夢……ネットアイドルクイーン?いやどう考えてもアウトだろう。

相談役……ヒーローっぽくないな。やめよう。

ネギ先生の目指していたマギステルマギ…これもアウトだな。そもそも魔法は使えるけどネギ先生や綾瀬のような魔法使いタイプじゃないし。

本名はダメだ。絶対ダメ。つーかよく本名でやろうと思えるな、轟の奴……。

 

そして爆豪の提案した爆殺王が却下されたのを見て、アウト判定のラインをなんとなく察した。

 

「思ったよりずっとスムーズ!

残ってるのは再考の爆豪くんと…飯田くん、緑谷くん、そして長谷川さんね」

「あー……何も思い付かねぇ……」

「珍しい、長谷川が悩んでる」

「意外とヒーローネーム決めてないんだな」

 

千雨が悩んでいる間に飯田が発表した。飯田も自身の名前をヒーロー名にするようだ。

続いて発表した緑谷に、クラスがざわついた。

 

「えぇ緑谷、いいのかそれェ!?」

「うん、今まで好きじゃなかった。

けど、ある人に“意味”を変えられて…僕には結構な衝撃で……嬉しかったんだ。

―――これが僕のヒーロー名です」

 

そう言って発表した緑谷のヒーローネームは“デク”だった。

 

残ったのは再考の爆豪と千雨だけ。

爆豪が爆殺卿と発表して再度再考するように言われたのを見て、千雨は観念してホワイトボード片手に教壇前に出てミッドナイトに申告した。

 

「ミッドナイト先生、思い付かないです」

「思い付かないなら誰かに付けてもらうのも手よ?

イレイザーヘッドはマイクに付けてもらったそうだし」

「そうだったんですか!?」

 

相澤のヒーローネーム命名の意外な裏話にクラス全員が食いつく。そして千雨はミッドナイトのその助言を受けて思い付いた。その手があったか、と。

 

「お前ら集合!ヒーロー名の案を出せ!」

「ちう様の突然の無茶ぶりにも応える、それが我々電子精霊千人長七部衆!」

 

敬礼しながら千雨の背後に現れた電子精霊たち。その様子を見ていた瀬呂がそれアリかよと驚く。アリです。

右から順に手を上げて立案していく。

 

「トップバッターねぎ立案、プリユアブラック!

ニチアサ女児向けアニメでおなじみプリユアシリーズ初代の」

「却下。それ商標とかもろもろアウトだろ」

 

ねぎが最後まで説明をする前に千雨はその案を切り捨てた。そういうギリギリのラインを攻めろとは言っていない。

 

「に、2番手こんにゃ立案!魔法少女☆ミラクルガール」

「却下。つか魔法少女もガールもやめろ、後ろにカッコで32って付けて名乗れるものを考えろ」

「年齢後ろにつけると、たしかにガールとかって無理があるよね」

「それを言うのはやめなさい。ウチの影の支配者が怒るわよ」

 

ミッドナイトの言葉でクラス全員の脳裏に保健室の主の顔が浮かんだ。これ以上はやめておこう。

 

「3度目の正直!だいこ立案!クイーンダークナイト」

「無いな」

「4番バッター、はんぺ立案!ブラックマジシャンレディー」

「バッターじゃねぇし。あとその名前は決闘者が湧くから絶対に却下」

「闇のゲーム……」

 

千雨は容赦なく切り捨てていく。

これで7匹のうち4匹終わった。残り3匹。

 

「5番、きんちゃ立案!サイバージェネラルC」

「ださい、却下」

「6番、ちくわふ立案!マジシャンズブラック!」

「魔術師の赤もじりじゃねぇか!却下!」

「長谷川ジョジョ知ってるんだ」

「俺5部派」

 

ちなみに千雨が好きなのはジョジョ4部である。日常的なのが良いからだ。

話題が完全に逸れてしまったが、次で最後。

 

「ラスト!しらたき立案!クイーンプリユア!」

「誰が最初に戻れっつった!!

使えねぇ案ばっか出すんじゃねぇ!頼りにならねぇな!!」

 

7匹全ての立案が全滅したことによって振り出しに戻った。オチもついた。

見ていたクラスメイトたちは個性が自我を持ってるとああいうことが出来るのかと最初は感心していたが、完全な大喜利になっていたため、千雨のツッコミに笑うしかなかった。

そこへ投げ込まれる爆弾。

 

 

「……『ちう』じゃないのか?」

 

 

首を傾げながら投下された轟の発言に千雨の全身が硬直する。

千雨は錆びたブリキのおもちゃのようにギギギという音を立てんばかりにして轟を見た。

何故“ちう”を知っている者がいるのだ。アイドルデビューもしていないというのに。いやマジでなんでだ!?

 

「轟……お前それどこで知った!?」

「電子精霊たちが呼んでいるだろ。

てっきりヒーローネームだと思ったんだが……違ったか?」

「ああ、確かにちう様って呼んでるよな」

「可愛らしいですわ」

「良いじゃない!キュートでとっても素敵よ!」

 

この流れはまずい。すぐさま回避しなくてはならない。直感的に危険察知した千雨が口で丸め込もうとする。

 

「いやそれは」

「良いじゃん!『ちう』で決定!」

「何ヒーローが良いかな?」

「それは考えていたみたいね、ウィザードヒーロー」

「ウィザードヒーロー、ちう……良いと思いますわ!」

「コスチュームも可愛いし、うん。似合ってる!」

 

賑やかしメンバーを中心にクラス全員が楽しそうに決定だと言わんばかりの空気をかもし出す。

 

「似合っ…いや、良くねェ!つーかお前ら何で」

「長谷川の助けになるならと思って」

「ケロッ、千雨ちゃんが困ってるなら力になりたいわ」

「そうそう!」

「仲間なんだし頼れって!」

 

ほぼクラス全員からの好意と善意によるヒーローネーム決め。四面楚歌状態から好意を向けられ慣れていない千雨が回避することは出来ず。

 

「じゃあこれで爆豪くん以外は全員決定!爆豪くんは課題としてヒーローネームを後日提出ね!」

 

―――千雨のヒーローネームは『ウィザードヒーロー、ちう』に決まってしまった。

 

轟の過去話立ち聞き、エンデヴァーとの接触、全国規模での祭り騒ぎ、会長からの呼び出し、一般人に囲まれ遠退く平穏などなど。

体育祭から何故か続く大小様々な不幸の連続に、千雨は自身の席に戻って突っ伏した。

 

 








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