岡本太郎美術館でのデート後、私は初めて哲学青年の住まいのアパートに行った。哲学青年のアパートの部屋は小さいけど誇りに満ちていた。まるで古城の趣だった。部屋の家具はコンパクトにまとめられ、本棚が大中小とあった。本棚にある本がなんて素晴らしい!まるで図書館だ!本棚の本に感動する私の様子に哲学青年は驚いていた。そして哲学青年と初めてキスをした。哲学青年は私を抱きしめた。哲学青年あんな細い身体をしても力強いなあ……。男の人の腕力って女性と違うんだなあ……。しばし陶酔の世界……。
それから私は彼の部屋について質問した。この地図はなあに?部屋の壁には地図二枚に赤い魔法陣が書かれていた。哲学青年は驚くべき言葉を発した。僕は魔術をやっている。それも白魔術だ。白魔術とは神の技だから安心してくれと哲学青年は言う。
魔術!私はびっくりした。そう言えば違う位置の壁には聖母マリアや天使の絵が3百枚くらい貼られている。そして私に似ている陶器のマリア像もある。机には2016年2月に渡した私の人形作品の写真が置いてあった。そのときは2016年8月の始めの日曜日、何故半年も前に渡したものが机に乗っている?ああ、この頃から私のこと思っていたんだと、わかった。
中くらいの本棚には岩波文庫の本が60冊が新品状態で積んである。これが今でも謎だが、哲学青年の趣味の本じゃない。全部私が好きだといった本のタイトルが並んでいる。微かな違和感を感じた。しかも哲学青年の部屋にはエロ本の類無し!あるとすればフロイトのエロス論の本だけだった。哲学青年は下品なエロは嫌いと言っていたし……。さっきまで軽く愛を交わしたけど、とても紳士的だった。
ところで寝るのはどうしているのか聞いたら、そのまんま床で寝ている!?赤い絨毯が敷いているけど、それじゃ痛いよね!?じゃあスペースあるし、ベッド買わない?いい通販があるんだ!
哲学青年は承諾した。
しかし、当時の私、無防備すぎ!突然男性の部屋に行きたいというわ、ベッド買わない?とかいうし……。哲学青年が紳士的な人間じゃなかったらどうするよ!軽く愛を交わすだけでは済まないよ~。
こうして私と哲学青年は別れた。私は哲学青年の部屋にこれ以上滞在できなかった。明日に父親と山梨の避暑地に旅行する。しばしの別れに哲学青年は悲しんでいた。その日のデートは心交わすデートで、キスまでもしたのだから、余計別れは互いに切なかった。
今こうやって書くとこのことが何故悲しい事件にまでなってしまうか私当人にもわからない。多分、この恋は純粋過ぎる恋だったのだろう。