ひねくれ魔法少女と英雄学校   作:安達武
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ようやく体育祭おわりました
長かった


決勝戦とその行方

歓声が響くスタジアム。

雄英体育祭1年トーナメント、決勝戦。ステージに立っているのは轟と爆豪。

 

「さァいよいよラスト!!

雄英1年の頂点が、ここで決まる!!

決勝戦!!

轟 対 爆豪!!!

今!!

スタート!!!!」

 

スタートと同時に轟は大氷結を使用。爆豪は爆発で身体が凍るのを防ぎ、掘り進んできた。

そして轟の赤髪と左側の体操服を掴んで爆破の勢いを利用して投げ飛ばす。

 

「氷壁で場外アウトを回避ーーー!!!

楽しそう!!!」

 

爆破しようと右のおお振りをする爆豪に、右手に纏った炎で爆豪を牽制する。

 

「轟、左側の炎を使って牽制!

これまで試合後半になるまで使わなかった炎を最初から使ってくるとはな!」

「爆豪の奴、左側を掴んだり、爆発のタイミングだったり……研究してるよ。

戦う度にセンスが光ってくな、アイツは」

「ホウホウ」

「轟も……長谷川との対戦で調子を取り戻した上に左側も使うようになったが……強力な個性故に、攻撃が大雑把。それに長谷川との対戦の疲労もあって動きが悪い。左側を掴まれて即座に炎熱が使えていない所からして、かなり消耗しているな」

 

担任である相澤が冷静に分析する。

緑谷、長谷川との激しい戦闘で消耗している轟。腕の火傷の治癒でも体力を使っている。

対して爆豪もまた体力をある程度消耗しているものの、轟程ではない。

 

とはいえ、最初から全力で戦おうとする轟に、爆豪は悪人面を笑みで歪ませながら爆破攻撃をする。

 

「そうだ、全力でかかってこい半分野郎!

テメェの全力、俺が全部まとめて上から捩じ伏せて勝つ!!!」

 

――――決勝の試合が始まる前。

千雨が決勝進出をかけた轟との再戦を辞退したと聞いた時、爆豪は腹立たしかった。

 

爆豪は入学初日の個性把握テストからその強さを知った。USJ事件で、その強さを間近で見た。クラス上位3名と言えば爆豪、轟、千雨の名前が上がる程度には強いことも知っている。競う相手として不足は無い。

体育祭でも予選の時からその強さを見せつけてきた。超パワー、超スピード、新技のマンタやクジラ、見えない攻撃、電撃。そのどれもが、自分と戦うに足る。

それに加えて、あの昼休憩での言葉。全力で戦う気概。

口に出すのは癪だから絶対にするつもりは無いが、爆豪は千雨に対して一方的ではあるが、そこそこ腕のたつ……好敵手と思っていた。

そんな相手が許容量で辞退するとは思ってもいなかった。

 

いや、それだけならまだ良かった。それ以上に爆豪の神経を逆撫でするものはこの決勝にあった。

決勝試合だというのに、轟は炎熱も使うようになったものの体力を消耗していて準決勝ほどの動きを見せない。

更に、轟と千雨の試合が実質的な決勝だったと言わんばかりの観客席の顔と態度。

 

……ふざけるな。

全力で勝つためにここまで来たのに。何なんだ!

俺は強い。誰よりも、強い。それを証明するというのに!まるで、この試合に意味がないかのような目で!

劣っているかのような目で!!

俺を!!!見るな!!!

 

「俺は!完膚なきまでのトップになるんだよォ!!」

 

どうにもならない現実の鬱憤を晴らすかのように、爆破の勢いと共に空中を移動し、両手から爆破を繰り返して体を捻り、回転するようにして轟に攻撃を仕掛ける。

爆豪が体育祭に向けて編み出した新技だ。

轟は背後に氷壁を作り出し、足を吹き飛ばぬように氷で固定して左手を爆豪に向ける。

左手から赤い炎が現れるのを見て、爆豪はわらう。

 

「榴弾砲、着弾!!」

 

轟の炎熱による爆風をかき消す勢いの攻撃。

ステージは爆発による煙幕で何も見えなくなっていた。

 

「麗日戦で見せた特大火力に、勢いと回転を加え、まさに人間榴弾!!

轟は緑谷戦と長谷川戦で見せた超爆風を撃とうとしていたが、果たして……」

 

煙が晴れていくステージには、爆豪の攻撃で最初の大氷結で出来た氷が砕かれている。

その中央で、割れた氷壁を背に仰向けに倒れている轟と、うつ伏せに倒れている爆豪。

確かに左側をつかった。しかしそれは強くなく、爆豪の攻撃であっさりと消えてしまうほどの小規模なものだった。

轟は、大規模な炎を出そうとしていた。しかし……既に、体力の限界だった。

 

予選から氷結の多用。

トーナメント全体で大技の連発。

緑谷と千雨の消耗戦による体温の急激な変化の連続。

戦いによる怪我の治癒。

そして、爆豪の攻撃とそれへの防御がトドメになった。

 

しかしそんなことでは納得出来ない爆豪は、最大火力の使用で痛む腕を無視して立ち上がり、気絶し倒れている轟に向かっていく。

 

「オイっ……ふっ!ふざけんなよ!!

テメェ、こんなっ!こんなのっ……っ!!」

 

倒れていた轟の胸ぐらを掴みあげる爆豪。その顔は行き場のない憤りと困惑でぐちゃぐちゃになっていた。

追撃しないように、即座にミッドナイトの個性で眠らされた爆豪。

ミッドナイトによって爆豪の優勝を告げられた。

 

「以上で全ての競技が終了!!

今年度雄英体育祭1年優勝は――――」

 

 

「A組、爆豪勝己!!!!」

 

 

プレゼント・マイクによる実況も、優勝への万雷の喝采も、栄光の音も、それらを一身に浴びる筈の勝者はその音を聞くことなく。

爆豪はただ、眠っていた。

 

 

 

 

煙菊が弾ける午後の空。

 

「それではこれより!!表彰式に移ります!」

 

体育祭の全競技を終えて、表彰式。

生徒たちが並ぶ後方にて柵越しにマスコミのカメラも総動員されている。

生徒たちの前に並んだ3つの台にはそれぞれ入賞者たちが立っているのだが、その中央でガチャガチャと音を立てて暴れている者が1人。

 

1位の爆豪である。

 

宣言通りに1位となった爆豪だが、気に食わない最後であったため轟に追撃しようとしたのをミッドナイトに個性で眠らされ、轟と揃ってハンソーロボに保健室に運ばれて治癒された。

そして、表彰式の時間には起きるようにと浅く眠らされていた爆豪は、目覚めてから「あんな決着は認めねぇ!」「再戦させろ!」と暴れ続け…─。

 

――――最終的にはセメントスにより捕縛され、授業で使う凶悪敵への拘束具をつけられて無理やり表彰台の上げれていた。

 

「もはや悪鬼羅刹」

「どうみても凶悪犯じゃん、ヤベェな」

 

背後にセメントスが作り出したコンクリート柱に胴体を固定され、両手両足、口までふせがれている。さらには太い鎖も使われている。

ほぼ全身を拘束されているにも関わらず、轟に向かってヘドバンを繰り返し、口の拘束具越しに何やら叫んでいる。

轟はそんな爆豪を気にするでもなく、俯いていた。

 

爆豪は千雨の言葉も聞こえていたのか、千雨に向かっても睨んで何やらわからないが叫んできた。

そんな爆豪を無視してミッドナイトは主審として司会進行を続ける。

 

「メダル授与よ!!今年メダルを贈呈するのは、もちろんこの人!!」

「私が!

メダルを持ってき」

「我らがヒーロー、オールマイトォ!!」

 

スタジアムの天井から跳んできたオールマイト。ミッドナイトの言葉が思いっきり台詞に被った。

 

「常闇少年、おめでとう!強いな君は!」

「もったいないお言葉」

 

常闇がメダルを贈呈されている間も隣で無言でヘドバンしている爆豪に、千雨は思わず視線が向いてしまう。

 

「ただ!相性差を覆すには"個性"に頼りっきりじゃダメだ。

もっと地力を鍛えれば、取れる択が増すだろう」

 

オールマイトに抱き締められた常闇の目が見開いている。抱き締められるのは想定外だったらしく驚いたのだろう。かわいい。

 

「……御意」

 

常闇はメダルを手に、オールマイトの言葉を胸に刻んでいる。

オールマイトはそのまま常闇と同じ台に立っている千雨にメダルを差し出した。

 

「おめでとう、長谷川少女」

 

千雨は黙ってメダルを首にかけてもらう。

 

「許容量での辞退は悔しかっただろうが、君の多彩な個性の応用は素晴らしかった。

そして何より、轟少年への言葉はとても良い言葉だった!

……私の胸にも響いたよ」

「……ありがとうございます、オールマイト」

 

赤金色のメダルを首からさげて、オールマイトのハグを受け入れる。

恥ずかしいが、マスコミの前でオールマイトのハグを断るよりかはマシかもしれない。

 

「轟少年、おめでとう。

決勝のあの瞬間で許容量上限は惜しかっただろうが、最後までよく健闘した」

「……緑谷戦できっかけを貰って……長谷川に色々言われて……前を向こうと思えました」

「…………」

「あなたが奴を気にかけるのも、少しわかった気がします。

俺も、あなたのようなヒーローになりたかった。ただ……俺がこのまま胸に抱えて進むには……今のままじゃ、駄目だと思った。

前に進むために、俺自身が向き合わなきゃならないモノが……俺自身が受け入れ、清算しなきゃならないモノがまだある」

「……顔が以前と全然違う。

深くは聞くまいよ。今の君なら大丈夫。ちゃんと向き合えて受け入れ、清算できる」

 

グッと抱き締められた轟。

その表情は以前の憎悪に染まった顔とは程遠いものだった。

 

「さて、爆豪少年!!

っと、こりゃあんまりだ……。伏線回収、見事だったな」

 

オールマイトが爆豪の口に取り付けられた拘束具を外す。

 

「オールマイトォ、こんな1番……何の価値もねぇんだよ。

世間が認めても、俺が認めてなきゃゴミなんだよ!!全力の相手に勝たなきゃ意味がねぇんだよ!!

クソアホ毛もあっさり辞退しやがって!!!死ぬ気で勝ちにこいやこのクソ共が!!!」

 

目を90度に吊り上げて叫ぶ爆豪。顔が人間のしていい顔ではなくなっている。

というか、言っていることが無茶苦茶すぎるだろう。

 

「うむ!相対評価に晒され続けるこの世界で、不変の絶対評価を持ち続けられる人間はそう多くない。それに、運も実力のうちだ。

受け取っとけよ!"傷"として!忘れぬよう!」

「要らねぇっつってんだろが!!!」

 

オールマイトに無理矢理メダルのリボンを口に咥えさせられる。

 

「さァ!!今回は彼らだった!!しかし、皆さん!

この場にいる誰もが"ここ"に立つ可能性はあった!!

ご覧いただいた通りだ!

競い!高め合い!さらに先へと、登っていくその姿!!

次代のヒーローは、確実にその芽を伸ばしている!!

それでは皆さんご唱和下さい!!せーの」

 

「プル…」

「プルス…」

「プ…」

「お疲れ様でした!!!!!!」

「スウル…」

「…ルトラ」

「ウル…えっ!?」

 

ここでまさかのオールマイトの天然が炸裂した。

 

「そこはプルスウルトラでしょ、オールマイト!!」

「ああいや…疲れたろうなと思って……」

「…しまんねぇ最後だな」

「同意」

 

観客席と生徒からのブーイングが響く。

千雨の呆れが混ざった呟きとそれに返す常闇。

そんなぐだぐだした空気を最後に、体育祭は無事に終了した。

 

終わった後も体育祭の熱はまだ冷めていない。

クラスの賑やかしでもある芦戸と上鳴を中心にスタジアムから校舎へと歩いて移動しながら騒がしく話をする。

 

「凄かったねぇ体育祭!」

「そういや長谷川二回戦の時、めっちゃキレたよな」

「確か、デスメ」

「あ?」

「何でもないです!!」

 

禁句を口にしかけた峰田を睨み付ける千雨。女子のしていい顔と声ではなかった。

ちなみにガンの飛ばし方については麻帆良で身に付いた。なにせ麻帆良では工科大と麻帆大の格闘団体のケンカが日常的であるのだ。自然と身に付く。

まぁそうしたトラブルや抗争が沢山起きるからこそ広域指導員がいるのだが。

 

「堂に入ったガンの飛ばし方だ…」

「そういや、テメェにゃチア姿の礼をしてなかったな……峰田ァ」

「ギクゥ!!!」

 

逃げようとした峰田の首根っこを後ろから掴みあげる。

峰田は真っ青になって震えているが、容赦はしない。

 

「電力20%解放」

「あああああっ!!!」

 

バリバリという音と電光を立てて峰田から煙が昇る。容赦のない一撃だった。

 

「千雨ちゃん、許容量大丈夫なん?」

「回復したからな。ほら、さっさと着替えて教室戻ろう」

 

千雨はゴミを捨てるかのように峰田を放り投げた。本来なら一番に心配する飯田は家の事情で早退してしまった。また、次に心配する緑谷も試合の大怪我で助けられない。

結局憐れんだ障子がボロボロの峰田を抱えて更衣室へと向かっていった。

 

 

 

「おつかれっつうことで、明日明後日は休校だ」

「!!」

 

あれからスタジアムを後にして更衣室にて制服に着替え、教室に戻って行われたホームルーム。

 

「プロからの指名等をこっちでまとめて休み明けに発表する。ドキドキしながらしっかり休んでおけ」

 

相澤の言葉を聞きながら、千雨はこの連休は部屋に引きこもろうと思っていた。

 

 








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