ひねくれ魔法少女と英雄学校   作:安達武
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第二種目の騎馬戦は書くこと多すぎて分割しました。
2日も空けてしまうとは・・・すまない、本当にすまない。


第二種目は戦略的に

スタートからおよそ1時間。

 

「ようやく終了ね、それじゃあ結果をご覧なさい!」

 

経営科の一部は売り子をしているため学年の221人全員が参加している訳ではないが…ようやく最後の1人がゴールした。

 

ディスプレイに表示される43名が予選通過者だ。

A組21人全員、B組20人全員、サポート科と普通科から1人ずつ予選通過している。

 

青山はギリギリの43位だったが…"個性"であるネビルレーザーを使いすぎたのか、腹を抑えてうずくまっている。そんな青山がこのまま第二種目に挑戦するのは難しかったのだろう。泣く泣く辞退し、予選通過者は42名に減った。

 

予選のため繰上げはないそうだ。

ドンマイ、見知らぬ44位。

 

「残念ながら落ちちゃった人も安心しなさい!まだ見せ場は用意されてるわ!!

そして次から、いよいよ本選よ!

ここからは取材陣も白熱してくるよ!キバリなさい!!!

さーて、第二種目よ!!私はもう知ってるけど―――…何かしら!!?

言ってるそばから…」

 

ドラムロールと共に、ミッドナイトの後ろにある大画面の文字がスロットのように回っていく。

 

「コレよ!!!」

 

 

画面に表示されたのは、騎馬戦。

 

 

ルールは以下の通り。

42名が2から4名で騎馬を組み、ポイントを奪い合う。

ポイントは第一種目の順位によってそれぞれ振り分けられ、42位が5ポイント、41位が10ポイントと、下から5ずつ増えていく。

ただし1位は1000万ポイント。

上位の者ほど狙われる、下克上サバイバル。

 

「上を行く者には、更なる受難を。

雄英に在籍する以上、何度でも聞かされるよ。これぞPlus Ultra!

予選通過1位の緑谷出久くん!!

―――持ちポイント、1000万!!」

 

いや…受難とかそういうレベルじゃないだろ、それ。

A組のみならずB組や他科を含めた全員の視線が緑谷に向かう。獲物を狙う肉食系の目だ。

 

「制限時間は15分。

振り当てられたポイントの合計が騎馬のポイントとなり、騎手はそのポイントが表示された"ハチマキ"を装着!終了までにハチマキを奪い合い保持ポイントを競うのよ。

取ったハチマキは首から上に巻くこと。

とりまくればとりまくる程、管理が大変になるわよ!」

 

それぞれ5、10、15、20のポイントを持った4人が騎馬を組んだ場合、合計の50ポイントのハチマキとなる。

また、ハチマキは取りやすいマジックテープ式だ。

 

「そして重要なのは、ハチマキを取られても。また、騎馬が崩れても、アウトにはならないってところ!

"個性"発動アリの残虐ファイト!

でも…あくまで騎馬戦!!悪質な崩し目的での攻撃等はレッドカード!一発退場とします!

それじゃこれより15分!チーム決めの交渉タイムよ!」

 

前置きも一切なく、交渉タイムが始まった。

千雨はまっすぐと台の上にいるミッドナイトに近付く。

 

「ミッドナイト先生。

ルールの騎馬から落馬しないというのは―――…」

 

千雨はルール説明で語られなかった聞きたいことをミッドナイトに個人的に聞く。

雄英は"自由"な校風が売りであり、それは体育祭でも適応される。第一種目でもコースさえ守れば自由と言っていた。それは第二種目においても覆されていない。

"ルールさえ守れば何をしても良い"というのは、セーフかアウトかの判断も主審の"自由"ということ。

だからこそ、ルールに接触するギリギリ行為をするならば情報収集をしておく必要がある。

 

ミッドナイトは千雨の質問に対して笑顔で答えた。

 

「"個性"使用でのテクニカルとして、許可するわ!」

「ありがとうございます」

 

 

 

 

「長谷川!組もうぜ!」

「千雨ちゃん!組も!」

 

ミッドナイトのもとから戻ってきた千雨に、A組の面々が自身を売り込む。

第一種目で見せたマンタや普段の授業で使っている超パワーと超スピード。

攻撃力も機動力も長けているため騎手に良し、騎馬に良し。

1位の緑谷とは組みたくないことと、轟、爆豪に並ぶ優秀さと注目度の高さ。既に轟がチームを決めたのも要因だろう。

 

群がるクラスメイトたちを押し退けて、1人に声をかける。

 

「常闇」

「長谷川」

 

名前を呼びあい、握手する2人。

一番信頼出来る常闇なら連携しやすい上に互いの弱点を知っているからこそカバーしあえる。

 

相変わらず仲良しか!と葉隠がツッコミを入れるものの、無視して周囲を見回して目当ての人物を探す。

 

「緑谷、組もう」

「一位の方、組みましょう!」

「長谷川さん!常闇くん!あと誰!!?」

 

千雨は麗日と一緒にいた緑谷に声をかけた。同時に声をかけた女子を見る。

スチームパンクなゴーグルを着けた女子だ。

 

「その格好…サポート科か?」

「はい!サポート科の発目明です!あなたのことは知りませんが、立場を利用させて下さい!

あなたと組めば注目度がNo.1になるじゃないですか!?私のドッ可愛いベイビーたちが大企業の目に留まるわけですよ!それってつまり大企業の目に私のベイビーが入るってことなんですよ!!」

「待って、ベイビーが大企業…?どういう意味なん…?」

 

早口でまくし立てるように話す発目。その会話内容についていけない麗日が訊ねるが、発目はそれを無視。

緑谷にとことん自身の有用性アピールすべくベイビーこと作成したサポートアイテムの披露をしている。

 

どことなくマッドサイエンティストの葉加瀬を思い出す自作アイテムのアピールっぷりだ。

発明家というのはこんな奴ばかりなのだろうか。

 

「騎馬の上限は4名だろ?

私はすでに常闇と組んでいるんだが…?」

 

この場にいるのは5人。1人多い。

 

「ちょっと待って!僕は出来ればフィジカルの強い飯田くんが欲しいんだけど…!」

「飯田はすでに轟が交渉中のようだな」

「もし飯田と組むなら常闇との二人組か誰か入れて3人でやるよ。

ただ、誘ってみて駄目だったら教えてくれ」

「わかった」

 

一度緑谷から離れて他のチームの組み合わせを確認していく。

轟は八百万と上鳴は確定、飯田は緑谷と話している。

爆豪はわからないが、切島は確定のようだ。

峰田は障子と組んだらしい。B組はB組で固まっている。

やはり同クラスの方が信頼出来る上に個性を把握しているからだろう。

 

そして何より、A組はその注目度からB組に敵視されているから、組むことはほぼ無い可能性が高い。

 

「…現時点トップの緑谷か。長谷川、何を考えているんだ?」

「逃げに徹すりゃ勝てるなんて楽だろ。

追いかけ回して残りポイントを気にしなくて良いし」

「…長谷川らしいな」

 

楽が出来るなら楽をする。

千雨のそのスタンスを知っている常闇からすれば、その理由は充分納得出来る。

 

少ししてから緑谷が千雨たちのもとへとやって来た。

 

「長谷川さん、常闇くん!飯田くんは轟くんと組むって」

「そうか。で、どうする?」

「えっと、いくつかベイビーを見せてくれた発目さんには悪いけど、最初に声を掛けてくれた麗日さんと個性を把握している長谷川さんたちと組むよ」

「そうですか…では私はこれで!」

「諦め早っ!」

「いつまでも固執していても時間は有限ですから!」

 

発目はさっさと踵を返して他の選手に話しかけていく。

切り替えの速さが尋常じゃねぇ。

 

「…そんで、三人とも。このメンバーでチーム組んで良いんだな?」

「うん!千雨ちゃんも常闇くんも頼りになるし!」

「僕も組んでくれるなら、大歓迎だよ!」

「問題ない。

それより長谷川、当然作戦が有るのだろう?」

「常闇はやっぱり察しが良いな。

この騎馬戦の必勝法、それは…―――」

 

 

15分の交渉タイムを終えて、全ての騎馬が出揃う。騎馬は12騎。

大画面に常に保持ポイントによる順位が表示されているようだ。

 

千雨のいる緑谷チームのポイントは以下の通り。

17位麗日、135ポイント

8位常闇、175ポイント

4位長谷川、195ポイント

1位緑谷、1000万ポイント

 

―――トータルで1000万505ポイント。

 

スタートの合図と共に、騎馬が緑谷チームに向かってくる。

 

「実質1000万の争奪戦だ!!!」

「はっはっは!!緑谷くん、いっただくよー!!」

「いきなりの襲来とはな…まずは2組。追われる者の宿命、選択しろ、緑谷!」

「うん、長谷川さんお願い!」

「ああ。

スカイ・ホエール上昇」

 

地面に光が広がり、まるで地面を盛り上げるようにしてその姿を現す。

事前にデータの展開を済ませていたため、キーワードで現れるようにしていたのだ。

 

 

スカイ・ホエール

全長8~18メートルの白いマッコウクジラ型プログラム。千雨の作成した中でも大型プログラムの分類に入る。

最大積載量5トン、最大時速30キロ。内部はデータを少しでも軽くするために空洞化している。勿論内部に物を入れることも可能だ。

 

 

クジラは千雨たちを頭部に乗せたまま上昇していく。

その大きさに思わず見ていた観客も生徒たちもポカンと口を開けてしまう。

 

「ク…クジラ!?」

「マンタよりデカイ!!!スタジアムで悠々と泳ぐクジラ!!!マジでシヴィー!!!

ファンタジックにも程があるってんだろ!!!?」

「長谷川と麗日が緑谷の両脇で警戒し、さらに緑谷の背後を常闇の個性が常にカバー、クジラの実体化を長谷川か。

あの様子じゃ、審判のミッドナイトの許可も貰っていたんだろう。

空に逃げているから機動力もある。考えたな」

 

 

 

交渉・作戦タイムのうちに千雨が伝えた戦術。それこそが航空戦術だ。

 

 

「航空戦術…!?」

「ああ。騎馬戦のルールは騎馬から将が落馬しないことと、ハチマキを取られないこと。

ミッドナイトに確認したが、将が落馬して地上に落ちなきゃ飛行などはテクニカルで問題ないそうだ。

―――勿論、"個性に乗ること"も、な」

 

その言葉に緑谷たちの目が見開かれる。

 

「個性に乗るって、それまさか…!」

「確実に1000万の取り合いになり四方から攻撃が常にくるのは必然的。だから空へ逃げる。

飛行してりゃ敵からの攻撃が当たりにくい上に、ステージで一番の機動性と空間確保が可能だ」

 

淀みなく告げられる戦術は説得力がある。

まるでこうした乱戦の経験でもあるのかと思ってしまうほどだ。

 

「空中移動や遠距離攻撃が出来そうな敵は今のところ爆豪、轟、八百万…。

いや、轟自身は仲間を凍らせる危険があるからそこまで考えなくてもいいが、爆豪の単騎突撃と八百万の創造が危険だな。あとは中距離から捕縛の出来そうな瀬呂とか。

八百万と瀬呂は常闇がいれば大丈夫だと思うが…爆豪は厳しいか」

「俺の個性では爆豪は厳しいな」

 

常闇の個性"黒影"の弱点は光。

闇が深い程攻撃力が増すが獰猛になり制御が難しい。日光下では制御こそ可能だが攻撃力は中の下となる。

この欠点はチームを組んだ緑谷と麗日と千雨、それから口田しか知らない。

 

「麗日、お前のキャパは高校生3人なら大丈夫か?」

「高校生3人は余裕で大丈夫やけど…ウチ自身を軽くすると酔ってまうんよ」

「そうか。じゃあ麗日自身が軽くならなくても良い。飛行に関しては私の個性の出番だからな。

…1位通過するぞ」

 

 

 

騎馬戦開始直後から圧倒的な"個性"を見せつける千雨。

第一種目から集めていた注目から観客席にいたプロヒーローたちが興奮気味に周囲と話す。

 

「あの4位の子、スゴすぎる!」

「これで1年生というのが信じられん」

「特別枠入学者って聞いてたけど、これなら納得」

「推薦入学でもおかしくない強さだろ!今年の1年A組、ヴィランを対処したっつーけど…こりゃヤベェわ」

「エンデヴァーの息子さん同様、あの子もサイドキック争奪戦だな!」

 

そんな観客席の声を知ってか知らずか、両手から爆発の勢いでクジラの上にいる千雨たちに迫る人影がひとつ。

 

「乗れる実体があるなら、攻撃して落とせば良いだけだろ!!!」

 

爆豪が空を飛んできた。予想通り、単騎突撃である。

 

「かっちゃん!?」

「早速来たか、爆豪!さっさと落ちろ!

フェイク・マンタ×30!スカイ・マンタ!

スカイ・ホエール終了!」

 

爆豪の単騎突撃に対してポケットに突っ込んだ片手で無音拳を放つ。アゴを狙ったが、動く的に当てるのは難しく、額に一発なんとか入れて押し返し、地上へ落とした。

落下の途中で瀬呂のテープが爆豪を騎馬へと戻すのが見えたため、失格にはなっていない。

そしてクジラが姿を消すと同時に、31体のマンタの群れが現れ、そのうちの一体の背に乗ってそのまま更に上昇する。

 

「おおおおおおおっ!!?

クジラの姿が消えたと思ったら!中から大小様々な白いマンタの群れだー!!

ビューティフル!アンド!エンターテイメント!!

緑谷チームの姿が地上からは完全に見えなくなっているぜー!!

爆豪は騎馬に戻ったな!!!もちろん落馬してないから失格じゃねぇぞ!」

 

観客席の熱は最高潮にまで盛り上がっている。

今の高さはおよそ、15メートル。スタジアムの中央付近だ。観客席のある2階席の上部や3階席、解説席からは千雨たちの姿が見えている。

周囲を旋回する他のマンタのお陰で狙われにくいだろう。

 

「スゴいよ長谷川さん!」

「これ、マンタの群れ!?」

「観戦中の者も驚愕しているな」

「そりゃそうだよ!こんな事個性で出来るヒーローは今までいないから!

この個性があれば街中でも事故現場でも空中移動という地上の状況に左右されないアドバンテージを持っている訳だし僕たちみたいに他のヒーローを同乗させることが出来るだろうしむしろマンタに他のヒーローたちだけで乗ることが出来るのならより用途は増えるし」

「緑谷ストップ。今は試合中だ、油断するな」

 

ヒーローオタクの熱が入った緑谷にストップをかける。というか今の一息で言うの、スゴく怖い。

 

「乗ってるコイツ以外のマンタは触れない立体映像、フェイクだ。

さっきのクジラや予選のマンタで一体しか出せないと思わせて、かつすべて実体があると誤認させているから出来る作戦だな」

「スゴい…千雨ちゃん、そんな先まで見据えていたなんて…!」

「深謀遠慮、千思万考…」

「第一種目の時からそこまで考えて…!」

「そ、そんなんじゃねぇよ!…普通だ、普通!」

 

自身の策に対する自信はあるが、そこまで誉められると流石に照れる。

 

「取り敢えず、しばらくはこのままで大丈夫だ」

「え、でも…これじゃ見つかってまうよ?」

「見つかってもさほど問題ない。それを振り切る速度で移動すれば良いだけだ。

麗日、こうしたポイントの乱戦において何が大切だと思う?」

「えっ!?大切なもの?…機動力とか?」

「正解は妥協。

下の様子を見ろ。1位チームが無敵の飛行状態…そうなりゃ狙われるのは…」

 

爆豪の騎馬が周囲を爆発させて牽制しているが、囲まれている。轟の騎馬もまた同じように狙われている。

 

「2位から4位…そうか!」

「みんな1位を諦めて、ポイントをとにかく集める方針ってこと!?」

「そうだ。手の届かない場所で不確定要素の強い私がいる1位より確実性を取る。

特にB組はな」

「B組が……あれ!?」

「爆豪がB組の騎馬にハチマキを取られているな」

 

大画面に表示されている爆豪の持ちポイントがゼロになったのを見る緑谷たち。

どうやらB組の物間チームの騎馬にハチマキを奪われたようだ。

 

「ああなりゃ上を気にしてる暇なんて無い。プライド高い爆豪なら尚更だ。

他の奴らも同様にポイントの奪い合いをしてる」

「なるほど…」

「逆に0ポイントになった奴は何でも仕掛けてくる可能性があるから、黒影で周囲を警戒してくれ」

「承知」

 

そろそろ5分経過。残り10分。

このまま逃げ切れば1位通過だ。

 








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