ひねくれ魔法少女と英雄学校 作:安達武
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といってもひとつは千雨のステータス確認だから小説じゃないよ。
そろそろ前書きに書くことが無くなってきた、どないしよ。
ヒーロー基礎学を終えて放課後。
A組の教室前には多くの生徒が集まっていた。
人混みが嫌いな千雨はそれだけですでに不機嫌である。
「うおおお…何ごとだあ!!!?」
「何だよこの人だかり」
「事件について聞きに来たか、もしくは…」
「「敵情視察だろ」」
廊下に向かう爆豪と千雨の声がハモったため、お互いに一瞬だけにらみ合う。
気が合うというよりも同族嫌悪に近い。
「ヴィランの襲撃に耐え抜いた連中だもんな、体育祭の前に見ときてぇんだろ。
意味ねェからどけ、モブ共」
「知らない人のこととりあえずモブって言うのやめなよ!!」
相変わらずの傲岸不遜っぷりを発揮する爆豪に対して飯田が反論するも、聞いていない。
言うことを聞くならそもそもそんなこと言わないだろう。
「噂のA組、どんなもんかと見に来たが、随分偉そうだなぁ。
ヒーロー科に在籍する奴は皆こんななのかい?」
「ああ!?」
「こういうの見ちゃうとちょっと幻滅するなぁ」
人混みを掻き分けて前に出てきたのは深い紫の髪に隈の濃い目をした男子生徒。
肩章は真ん中を空けて2つ、普通科だ。
「普通科とか他の科って、ヒーロー科落ちたから入ったって奴、けっこういるんだ。知ってた?
体育祭のリザルトによっちゃ、ヒーロー科編入も検討してくれるんだって。
その逆もまた然りらしいよ…」
その言葉に千雨は納得した。
入試の実技は対ロボット。対人特化の"個性"では合格するのは難しい。
しかしヒーローの中には戦闘力は低くともヒーロー活動をしている者が多い。雄英のヒーロー科卒業生にも。
担任である相澤は体術も優れているが、何よりも対人において"個性"を消せるという強みを持っている。
学校側はそういった"個性"の生徒にもヒーローになれる可能性を残しているのだろう。
「敵情視察?
少なくとも俺は、調子のってっと、足をゴッソリ掬っちゃうぞっつ―――宣戦布告しに来たつもり」
大胆不敵な宣戦布告をして、その普通科生徒は去っていった。
「隣のB組のもんだけどよぅ!
ヴィランと戦ったっつうから話聞こうと思ってたんだがよぅ!!
エラく調子づいちゃってんなオイ!!!
本番で恥ずかしい事んなっぞ!!」
爆豪の不遜すぎる態度によって非難が集まる。自然とクラス全体から「どうしてくれるんだ」と言わんばかりの視線が爆豪に集まる。
しかし、爆豪は何も言わずに人混みをかき分けて帰ろうとした。
「待てコラどうしてくれんだ!
おめーのせいでヘイト集まりまくっちまってんじゃねえか!!」
「関係ねぇよ……」
「はァー!!?」
「上に上がりゃ、関係ねぇ」
そのシンプルな信念はいっそ清々しい。
「爆豪らしいが…ま、そうだな。
勝った奴が強い。強いから夢を叶えられる。そういうもんだろ」
「ちょっ!長谷川まで…!」
入り口に近付きながら言えば、上鳴が心配そうな顔で言う。クラス全体が悪く見られたくないのだろう。
その気持ちは分からなくもない。
「さっきB組の奴が詳細聞きに来たっつってたけど、そもそも詳細が伏せられているのは学校の方針だ。
それでも知りたいから聞きに来たって奴は…雄英のことも担任のブラドキング先生のことも信頼してないってことだろ」
「なっ!」
千雨がはっきりと告げた言葉に先ほどのB組男子生徒が声をあげる。
「他の生徒も詳細知りたくて来たなら、そういうことだろ。
言っておくが、私の"個性"で、廊下にいる聞きに来た生徒の顔写真とこの言葉を録音してある。このまま居続けるなら各担任に報告する。
ウチの相澤先生だったら除籍指導になるが、どの先生でも確実に指導が入るだろうし、最悪…体育祭の出場を停止にされるんじゃないか?」
千雨の言葉で廊下に集まっていた生徒たちは去っていった。
「…ハッタリだけどな」
「ハッタリだったのかよ!ビビッたわ!」
「見事に全員いなくなったな」
人ひとり居なくなった廊下は遠くにざわめきを残しながらも静かだ。
「なんであんな事言ったんだよ」
「お前ら、USJ事件の情報集めたりしてねぇのかよ…。
学校や警察がマスコミに伏せていることもある。私たち現場にいた生徒しか知らないこともある。
それを話したら生徒がマスコミにリークしたり、ネットに書き込む危険があるだろ。
そんなことを相澤先生が知ったら…」
「…し、知ったら?」
「―――話した奴と書き込んだ奴は、除籍される」
シン…と静まり返る。全員の脳裏には赤く目を光らせる相澤が除籍と告げる姿。
千雨の真剣な眼差しも相まって、思わずゾクリと背筋が粟立つ。
「い、いやいや…」
「いくら何でも、それは…」
「被害者でもあるのに事件を自慢気に吹聴し、マスコミに特ダネ落とす要因になるなど、ヒーローとして危機管理意識及び情報管理意識が欠如している。そんな奴は除籍されて当然…って言うね。
私の知っている相澤先生なら、言う」
「うわっ言いそう」
「怖いこと言うなよ!」
「ま、これで聞きに来るやつはもういねぇから心配しなくても良いだろ」
千雨の言葉に怯える芦戸と上鳴を無視してカバンを背負った千雨はそのまま教室を出る。
「あれ、長谷川帰るの?」
「いや、職員室行く。居なくなったら先生に報告しないとは言っていないから」
「鬼かよ!?」
「長谷川くん!先程は居続けたら報告すると彼らに言っていたではないか!それは嘘だったのかい!?」
右腕を伸ばしながら千雨の発言にツッコミを入れる飯田。
真面目すぎる飯田に思わずため息が出る。融通がきかないというか、正直すぎる。
「そりゃ各担任には言わねぇけど、相澤先生に言わねぇとは言ってねぇだろ。
報告、連絡、相談は社会人の基礎。学校側も生徒の動きを把握して手を打つ必要がある。
それになにより、自業自得。
名前と学科は言わないし、相澤先生に出来事を報告するだけだ」
「しかし…」
「A組だけでなく他クラスも危機意識をしっかりして貰わないと、この間みたいにマスコミが押し寄せてくる。
違うか?」
「それはその通りだ!」
飯田、ちょろい。
千雨は飯田を言いくるめて職員室へ向かうべく廊下に出た。
「飯田くんが言いくるめられた…!」
「本当に容赦ないな長谷川」
「5限で個性について話してた時の可愛げが完全に消えてる…」
うるせェ。あと5限の出来事は忘れろ。
「待って長谷川!今日駅まで一緒に帰ろ!」
「あ、ウチも!」
「それなら女子皆で帰ろーよ!」
「良いですわね」
芦戸を筆頭にして一緒に帰ろうと誘ってきた。どうせ断っても、この抱き付き魔4人はついてくる。
ため息交じりに了承すれば嬉しそうにしていた。すまない常闇。
「―――ということがありました。
B組をはじめ生徒の危機意識が酷いので警告しておきました。
あと、クラスメイトにも改めて、話したりネットに書き込まないように注意しておきました」
「ご苦労」
「うちの生徒がすまないな」
千雨は職員室にいた相澤とB組担任のブラドキングに報告した。
ブラドキングにも報告したのは同じく1年ヒーロー科の担任だからというのもあるが、先ほどのB組の男子生徒には厳しいことを言ったからだ。
「もし落ち込んでいたら話を聞いて慰めてあげて下さい。厳しいことを言いましたし、短い付き合いでもブラド先生のことを深く信頼しているでしょうから。
それでは失礼しました」
自分がしたことへのフォローを入れて、千雨は職員室をあとにする。職員室前で待っていたA組女子たちがすぐさま千雨が逃げ出さないように手を繋いだ。
もう好きにしろ。
職員室ではブラドキングが感心したかのように去っていった千雨を見ていた。
「…あの長谷川が、ああいう気遣いが出来るとはな」
「他の生徒以上に視野を広く持ち、先を見据えているだけだ。
今回もマスコミの情報と、学校側が生徒に向けて話したことを踏まえての行動だろう。
経歴が経歴だから他の生徒とは違って当然だが…USJ事件で変わったよ」
以前よりも周囲を思いやれるようになった。
口には出さないが、相澤にとってそれはUSJ事件を経て得た嬉しいことだった。
「千雨ちゃんって、そういえばどうしてヒーロー目指してるん?」
駅まで話しながら歩いていると、ふいに麗日が千雨にそう訊ねた。
麗日は家族を楽させるためにお金を稼げるヒーローを目指してるそうだ。
他の女子は憧れからや、人の役に立ちたいなど人それぞれ。
「長谷川は憧れてヒーロー目指してるって理由はなんかイメージと遠い」
「たしかに」
「私としちゃあ、耳郎が憧れからってのが意外だったけどな」
「い、いいじゃん私の事は!それより今は長谷川!」
顔を赤くした耳郎が話を無理やり戻す。
「私は生活のため、だな」
「…ということは、千雨ちゃんもウチと同じでお金稼ぐため?」
「千雨さんの個性は強力ですから、ヒーローを目指すのも分かりますわ」
「あれだけ強かったらねー」
「強いといえば体育祭、どうなるかな?」
「毎年恒例のトーナメントまで勝ち残りたいわね」
ワイワイと楽しげに、何でもない日常が過ぎていく。
ふいに千雨は足を止めて、少し離れた位置から騒ぐ皆の様子を見る。
学校行事の予定を話したり、駅前のクレープ屋で何が美味しいだとか、最近流行りの映画だとか、とるに足らない会話。
「…千雨さん、どうかされましたか?」
振り返って訊ねてきた八百万に何でもないと言って再び歩き出した。
最寄り駅から自宅に帰る道中で千雨のスマホが震える。電話だ。
誰からかを見て、来たかと思いながら電話に出た。
「もしもし、長谷川です」
「個性についてのメール、読んだわ」
「でしょうね。電話なんて初めてで驚きました。
…で、ご感想は?期待ハズレの能力だから支援打ち切りの電話ですか、会長?」
電話をかけてきた相手は公安委員会会長。
なんらかのアクションが返ってくるだろうとは思っていたが、電話は初めてだ。
「まさか。
むしろ能力からして、貴女だからそれほどの力にまでなったのだと思えたわ。その力がまだ伸びる可能性の高さも。
それに貴女が功績をつくってくれる分には文句なんてない。むしろ、ヒーローとしての活躍を期待されるなら大歓迎。
結果によっては支援金を増やすことも考える、それだけよ。
体育祭、楽しみにしているわ」
プツリと切れた電話。スマホ片手にため息をつく。
「…クソ面倒なことになったなぁ…」
面倒だから予選敗退しようと思っていたのに…結果次第じゃ支援金増額かぁ…。
…これ、活躍しなかったら減額とか…されないよな?
………。
体育祭まで残り2週間。千雨はこの短い期間中に新技の開発を進めることにした。
体育祭出場において、千雨は校長と相澤から試合中のアーティファクトアプリの使用を禁止させられている。
理由は強すぎるから。
千雨も全国放送される体育祭でアーティファクトを出すつもりは無かったので承諾したのだが、まさか会長から体育祭で入賞するように(意訳)という圧力の電話がくるとは思っていなかった。
「どーすっかなぁ…なるべく誤魔化しやすい技考えるしかねぇよな…。
しらたき、ちくわふ、だいこ。お前ら家に着くまでに良さげなアイディアを考えてリストにしてくれ」
「イエッサー!」
「久々の出番だね」
「久々のオーダー、お応え出来ないとね」
「…別にお前らを忘れていた訳じゃないからな?」
最近めったに呼び出すことが無かった電子精霊たちの言葉に、少し焦った千雨だった。
「ちう様、新技候補のリスト出来ましたー」
「ありがとな……ってオイ、お前ら」
渡された新技候補の一番上にあったのは、「エターナル・ネギ・フィーバー」の文字。
「全身から光線出すとかアウトだろ!
この技で岩山吹き飛んでたじゃねぇか!
そもそもあんな光線出せねぇよ!
つーか何でラカンのおっさんの考えた技使わなきゃなんねぇんだよっ!」
「ナイスツッコミですちう様」
「ちょっとおふざけし過ぎました」
「最初からふざけんなっての…。
で、次が魔法の矢か…でもこれ独学で2週間習得は無理だろ。他の魔法も難しいだろうし、拳法も独学じゃあなぁ…」
頭をかきながら新技候補にバツをつけていく。
「無音拳…これは悪くねぇけど、2週間で出来るかわかんねぇし練習場所…いや、それは学校の敷地内で放課後やればいいか。
あとは……!
なぁ、これマジで出来るのか?」
「はい、可能です」
「原理としては同じですから」
「あとは作成だけかと」
候補の一番下にあったものなら、千雨の能力を誤魔化しやすい。
早速作業に取り掛かる。
体育祭まで残り2週間はあっという間に過ぎた。