ひねくれ魔法少女と英雄学校   作:安達武
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短くなってしまった・・・!前話がちょっと長かったから許して。
文字量を安定させたいジレンマ。

そして今回は番外編。
体育祭前に挟んどきたかった短編3つです。


 番外編・長谷川千雨の影響

街中のとあるビルにある薄暗いバー。その一室の空中に黒い穴があく。

 

その黒い闇から這うようにして不気味な格好をした男、死柄木弔が現れる。

USJにて両手足に銃創を負った彼は血を流し、床に伏せた状態で恨み言を口にする。

 

「両腕両脚撃たれた…完敗だ…。

脳無もやられた。手下共は瞬殺だ…。子供も強かった…。

平和の象徴は健在だった…!

話が違うぞ、先生……」

「違わないよ」

 

死柄木の恨み言に答えた声は、一台のモニターから聞こえた。

 

「ただ見通しが甘かったね」

「うむ…なめすぎたな。敵連合なんちうチープな団体名で良かったわい」

 

モニター越しにいるのは2人。どちらも男性だ。モニターに姿は映っていない。

 

「ところで、ワシと先生の共作脳無は?回収してないのかい?」

「吹き飛ばされました。正確な位置座標を把握出来なければ、いくらワープとはいえ探せないのです。そのような時間は取れなかった」

 

黒霧の言葉に自分のことをワシと呼ぶ男性は落胆したかのような声を出した。

 

「せっかくオールマイト並みのパワーにしたのに…。まァ…仕方ないか…残念」

「パワー…そうだ……。

2人…オールマイト並みの速さを持つ子供がいたな…」

 

死柄木の言葉に間をあけてから、へぇという声が響いた。

 

「あの邪魔がなければ、オールマイトを殺せたかもしれない…。

ガキがっ…ガキ…!

あの女の方のガキもだ…あいつがいなければ…!」

「女のガキ?」

「オールマイト並みのパワーに加えて…俺の手で触れたのに、崩れない妙なハリセン持ってた…。

あのガキがいなければ、せめて1人はガキを殺せたのに…!」

 

死柄木は思い出す。

最後のチャンスを狙った死柄木と黒霧に向かって飛び出して邪魔をしてきた癖毛の子供。それを守るようにして現れた赤茶色の髪の子供。そして、その手に突如現れたハリセンが自身の手を弾いた。

死柄木の"個性"は五指で触れたものが崩れるというもの。

触れたハズのハリセンは崩れる様子すらなく、そのまま黒霧のモヤも払ってみせた。

 

「超パワーに加えて…弔の個性が効かなかった…?

成る程、それは面白い。その子供については僕も調べてみよう」

「畜生…畜生っ…!」

「悔やんでも仕方ない!今回だって、決して無駄ではなかったハズだ」

「精鋭を集めよう!

じっくり時間をかけて!」

 

先生と呼ばれた男が死柄木を叱咤激励する。

 

「我々は自由に動けない!

だから、君のような"シンボル"が必要なんだ。

死柄木弔!!

次こそ君という恐怖を世に知らしめろ!」

 

不気味な手を模したマスクの間から、憎悪のこもる濁った赤い眼が空を睨んだ。

 

 

 

悪意は加速するように、その闇を濃くしていく。

この平穏に穴を開けようと。

ヒーローの、光の時代を終わらせようと。

 

 

 

 

 

 

USJ事件の二日後の午後。

事件の担当となった刑事、塚内直正は今日も再び雄英高校に訪れていた。

雄英高校の校長である根津が塚内に渡したいものがあると連絡をしてきたのだ。

事件の何か証拠が出てきたのだろうか。塚内は雄英高校の校長室にやってきた。

 

「校長、なにやら渡したいものがあるそうで…」

「先日の事件について、生徒の1人から有益なものを今日渡して貰えたのさ」

「これは…USBメモリーですか?一体何の…?」

 

校長から塚内に渡されたのは、どこにでもある市販の黒いUSBメモリー。

500円で安売りされていそうな、いたって普通のものである。

 

「今回侵入した敵、その主犯である死柄木という男と黒霧という男の画像と動画に加えて音声データだよ」

「これにそのデータが?」

「"個性"を使って得たデータを記録媒体に保存する関係上、その日のうちに渡せなかったと言っていたよ。

このデータを捜査に役立てて欲しいそうだ」

 

昼休み、千雨が自身の能力について話す前に校長に渡したのだ。

電子精霊たちが姿を現さないでいたが、音声を録音していたのと、渡鴉の人見の映像記録も保存していたため、それを自宅のパソコンを経由して記録媒体に保存したのだ。

 

「捜査協力ありがとうございます、校長。より詳しくこちらでも調べます」

「よろしく頼むよ」

「にしても、こんな事が出来る生徒ですか…もしかして、あの長谷川さんですか?」

「知っていたのかい?」

「事情聴取で何人もの生徒から名前があがりましたから。

敵との戦闘もさることながら…状況把握、緊急時の指揮、優先順位の判断、怪我人の応急処置。

プロヒーローの活躍を知っている警察だからこそ、彼女はあのクラスにおいて飛び抜けすぎていると思いました」

 

沢山のプロヒーローと連携し、数々の事件を乗り越えてきた塚内。

そんな塚内だからこそ、千雨の特異性に気付いた。

敵の奇襲を受けてすぐ状況に合わせて行動し、怪我人を安全地帯に運んで応急手当、最前線へ増援として向かい敵の主犯に立ち向かう。

これがプロヒーローであれば何の違和感もないが、15の高校入学直後のヒーロー科の学生がそこまで動けるというのは異常だ。

 

「一体、どんな経験があればここまでの事が出来るのか…。何はともあれ、彼女が雄英に入ったのは幸運だったと思います」

「…僕ら教師も、彼女の過去は知らない。どんな環境で育ち、何があったのか。

でも、彼女もまた他の子と同じだ。人を信じ、人を思いやり、人のために動ける。そんなヒーローの卵さ」

 

根津は昼休みに見た千雨を思い出す。

居場所を、仲間を得て、ようやくこの世界での支えを得た彼女。まだ苦難は多い。それでも、一歩一歩前へと進んでいけることを信じている。

 

「将来、一緒に仕事が出来る日が来るのが楽しみです」

「僕も彼女が活躍するのが楽しみさ」

 

彼女の未来を照らす光が強くなっていくことを信じて。

 

 

 

 

 

 

 

 

「メール…こんな時間に…?」

 

都内のとあるオフィスの一室。

ヒーロー公安委員会の会長は13時頃に千雨から届いたメールに訝しんだ。

 

千雨は毎日1回、19時頃にその日もしくは前日にあったニュースや出来事に関するメールを会長に送っている。

精神状態の把握として始めたことだが、その内容は15歳の高校生が書いているとは思えないほど鋭い切り口と、大人顔負けの考察を毒混じりに書いていて、中々読ませる文章である。

 

メールを開くと、そこには千雨の個性について書かれていた。

 

個性届に書いたものが本来の能力であること。

千雨がアーティファクトアプリと呼ぶものは、作成したプログラムを基にして実体化させる技のひとつであり応用であるため個性届には書かなかったこと。

委員会に開示していた道具の幻灯のサーカスと渡鴉の人見以外に、新珍鉄自在棍という棍と匕首・十六串呂という短刀の情報。

 

そして、メールの一番下にはこう書かれていた。

 

 

 

少しだけ信じてみます。学校の関係者だけでなく、あなたのことも。

 

 

 

「…そう」

 

あの鋭い眼差しで真っすぐと見てきた眼を思い出す。

恐怖を隠し、まるで痛手などないと言わんばかりの大胆不敵な笑みを浮かべて、堂々と交渉してきた少女。

おそらく今回のUSJ襲撃事件でも動いたのだろう。その関係で情報を開示したのかもしれない。

 

「……体育祭、楽しみね」

 

会長の口元には笑みが浮かんでいた。

千雨の変化を成長したとして喜んでいるのか、それとも個性の詳細を知れたことを喜んでいるのか。

それを知るのは会長のみである。

 

 

 

 








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