ひねくれ魔法少女と英雄学校 作:安達武
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ここのところ21時越えが癖になってきているけど、投稿時間はどの時間帯が一番いいのだろうか?
「あーあ、来ちゃったな…ゲームオーバーだ。
帰って出直すか、黒霧…」
教師陣を見て面白くなさそうな声を上げる死柄木は黒霧と黒いモヤの名前を呼ぶ。
ここまできて、あっさりと引き下がろうとする。それまであった感情の高ぶりが嘘のように消え失せている様子は、壊れたおもちゃを投げ出す子供のようにも感じた。
しかし、帰ろうとした敵を教師陣がそのまま逃がす筈もなく。教師陣のうちの1人、スナイプが弾丸の雨を降らせて死柄木の両腕両足を撃ち抜いた。
死柄木は血を流しながらも黒霧のワープゲートで逃走を図る。
「この距離で捕獲可能な“個性”は……」
スナイプの言葉に応えるかのようにして、モヤがUSJ入り口に向かって吸い込まれるように引っ張られる。
その現象に黒霧は驚きながらも、階段の上を見る。それを出来るヒーローは1人しかいない。
そこにあったのは、黒霧が深手を負わせて行動不能にしたはずの13号が地面に這いつくばりながら“個性”を使う姿だった。
「僕だ……!!!」
右腕を伸ばし、指先のブラックホールで敵ヴィランを捕らえようとする13号。
しかし距離がありすぎたのか、怪我のためか、完全に引き寄せ吸い込む前にワープゲートは徐々に小さくなっていく。
「今回は失敗だったけど……今度は殺すぞ。
平和の象徴、オールマイト」
死柄木の呪いじみた言葉を残して、黒いモヤはその穴を閉じていった。
両足をフルパワーで動かせなくなった緑谷を抱えていた千雨は、終わったのかと思い、ハマノツルギを解除する。
「……何も…出来なかった…」
「そんなことないさ。
あの数秒がなければ、私はやられていた…!
また、救けられちゃったな」
「……無事で…良かったです…!」
砂埃が未だに互いの視界を塞ぐ中で言葉を交わすオールマイトと緑谷。
突然の脅威に晒されながらも、勇猛果敢に救けようと飛び出した緑谷は、オールマイトの言葉に救われた心地だった。
「いや良くねぇよ、テメェが無事じゃねぇわ」
「は―――長谷川さん!?」
思わず慌てる緑谷。そういえば居た!といった心情がありありと顔に出ている。
おう、居るわクソが。つーかお前を抱えてるだろうが。
なに2人の世界みたいなの展開してやがる。
千雨は右脇に抱えていた緑谷を横抱きに抱え直す。オールマイトには背を向けていたため振り返ってみるものの、先ほどの着地の際に起こした砂埃で姿は見えない。
「緑谷、じっとしてろ。どうせ両足バキバキなんだろお前。パワー調節出来ないし」
「あああ、あの長谷川さんっ!近い!近いですっ!」
「近いのはしゃーねぇだろ、抱えてんだから。つーか…オールマイトに何かあるのか?砂埃でよく見えないけど」
「いやいやいや大丈夫!私は大丈夫だから!
長谷川少女は緑谷少年を頼むよ!!」
「……追及すっから、覚悟しとけよクソ共」
「っ!!!」
千雨はオールマイトも緑谷も見ないで言いきった。
その言葉に師弟揃って顔にヤバいと出ているが、それを知るものはいない。
真っ赤になった緑谷を抱えたまま入り口に向かっていく。
「おーい!大丈夫かよ緑谷!長谷川!」
「私は大丈夫。
緑谷が両足フルパワーで例のごとくやらかした」
「つ、つい…というか、本当に長谷川さん下ろして!?重いでしょ!!?」
「あぁん?足思いっきり落として二度と使えねぇ位ぐちゃぐちゃにすんぞテメェ」
「怖いっ!!というか、口調が…!」
緑谷の幼馴染みである爆豪を彷彿させるような荒々しい口調に思わずビビる緑谷。
もはや癖である。
「こっちが長谷川の素なんだと。
長谷川、緑谷運ぶの代わるか?お前かなり無茶しただろ、さっきの着地とか」
「コレは緑谷への罰も兼ねてるから。教師の所行くぞ突撃バカ共。
返事は?」
「「イ、イエッサー!」」
この二人が今の千雨に逆らえる筈がなかった。どちらも無謀な突撃をして助けられている。
そこへ教師の1人、セメントスがやって来た。
「オールマイトは僕が対処するよ。生徒は一ヶ所で安否確認だ、ゲート前に集まってくれ」
「セメントス先生!ラジャっす!!」
「セメントス先生すみません、そこの地面ちょっと砕きました。
切島、お前は先に行って緑谷の両足重傷だから担架か救護ロボか車椅子を用意して貰ってこい」
「お、おう!」
セメントスにオールマイトは任せ、切島に指示を出し、緑谷を抱えて入り口へ向かう。
千雨はため息をひとつこぼして緑谷に声をかけた。
「…救けられたオールマイトが感謝してるから、飛び出したことについては深くは言わねぇ」
「長谷川さん…」
「だが、足壊すのは二度とするなよ。
次やったら画像加工してリアルっぽい女装画像をテメェの自宅近所とネット上にばらまいて社会的に殺す」
「絶対に気を付けます!」
思春期男子に恐ろしい呪文を唱えた。
いや、思春期男子でなくとも普通に恐ろしい呪文だった。
「デクくん!長谷川さん!」
「緑谷くん!両足をやられたのか!?」
ゲート前に待機していた麗日と飯田が近づいてきた。
緑谷と仲の良い2人だ、心配そうな表情をしている。
「これは緑谷の自爆だ。切島、頼んだものは?」
「ハンソーロボ用意してもらった!」
「ありがとな。
校長先生、緑谷は"個性"のフルパワー使用で両足重傷です」
「報告ありがとう長谷川くん。保健室へ運んでもらうよ」
ハンソーロボに乗せられて運ばれていく緑谷。
「緑谷の奴、長谷川と密着しやがって羨ましい…!」
「密着ってか、運ばれてたけどな…お姫様抱っこで」
「あの密着は男として遠慮したいよな…」
各ゾーンに散らばった生徒の救助にむかう教師たちの横で、待機していた峰田は1人歯軋りしている。
女子に抱えられるというのはかっこいいヒーローを目指している男子からすれば恥ずかしすぎることだが、峰田にとっては関係ないらしい。
「16…17…18…19…20…両足重傷の彼を除いて…ほぼ全員無事か」
敵が去ってからしばらくして、警察が到着した。
USJの出入口から敵のチンピラが連行されていく。その横でA組の面々は警察の指示で点呼を受けた後、しばらく待機するように言い渡されていた。
そんなわけで暇を持て余していたため、全員どこにワープさせられて何をしていたのかを話していた。
「切島は長谷川と爆豪が一緒だったのか。俺は八百万と耳郎」
「常闇は口田と2人か。無事で何よりだったぜ!」
「そういやぁ俺たちの所の奴ら、数は多かったけどチンピラくれぇだったな」
「そうか、やはり皆のとこもチンピラ同然だったか」
「ガキだとナメられてたんだ」
ワイワイと騒がしくしつつも、警察や教師からの指示を待つA組の面々。
「とりあえず生徒らは教室に戻ってもらおう。すぐ事情聴取ってわけにもいかんだろ」
「刑事さん、相澤先生は…」
蛙吹が警察に指示を出しているトレンチコート姿の刑事に相澤先生の安否を尋ねる。蛙吹と峰田は相澤を運んだから、余計に安否が気になるのだろう。
その刑事はちょっと待ってね、と一言置いてどこかに電話を掛け始めた。
二言三言喋った彼は、スピーカーにして全員に通話が聞こえるよう操作する。数秒置いて、ばたばたと忙しい物音をバックに医者らしい男の声が聞こえた。
『左腕の粉砕骨折と顔面の軽い骨折…幸い、脳系の損傷は見受けられません。
ただ、眼窩底骨の一部が粉々になってまして…眼に何らかの後遺症が残る可能性もあります。
擦り傷などは傷口の洗浄がされていたので感染症もなさそうですし、腕もきちんと固定してあり適切な応急処置でした』
「だそうだ…」
「ケロ…」
相澤の個性の発動は目である。そこに後遺症が残る可能性を指摘され、峰田が震え、蛙吹が悲しげな声を漏らす。
そんな2人を元気付ける千雨。
「先生はまだ生きてるんだ、医者を信じよう」
「ええ、そうね…」
「13号の方は、背中から上腕にかけての裂傷が酷いが命に別状はなし、彼もまた応急手当のお陰でそこまで酷くないそうだ。
オールマイトも同じく命に別状なし。彼に関してはリカバリーガールの治癒で充分処置可能とのことで保健室へ」
「デクくん…」
「緑谷くんは…!?」
緑谷と仲のいい麗日と飯田が眉を下げて二人の安否を問うと、一瞬刑事はピクリと眉を動かした。
「緑…ああ、彼も保健室で間に合うそうだ。私も保健室に用があるから後で寄る。
さて…すまないが、保健室に用があるのでこれで失礼するよ。
三茶!後頼んだぞ」
「了解」
三茶と呼ばれた猫頭の警察とミッドナイトに付き添われて教室へ戻るためにバスに乗る。早く着替えたい。
バスは行きと同じ三方シートタイプのものだったが、座る席は異なっていた。
バスのタイヤ上部にある1人掛けは警察とミッドナイトが座っている。
その後ろの前扉から中扉までが向かい合う形の4人掛けベンチシートに、青山、千雨、蛙吹、八百万の4人が扉側。瀬呂、切島、常闇、麗日がその向かい側。
他の生徒は中扉から後方の2人掛けシートとなっている。
「長谷川、今日は敵との戦闘だけじゃなく相澤先生と緑谷を運んだり、大変だったな」
「先生たちへ応急手当もしとったしね」
「ええ、とても頼りになったわ。私たちだけじゃ何も出来なかったもの」
「…別に、大したことじゃねぇだろ」
やはり話題はどうしても事件での出来事になってしまう。
そこでハッと何かを思い出したかのようにして瀬呂が声をあげた。
「というか長谷川、切島から聞いたぞ!
なんか短刀を沢山出したり、良くわかんない飛行ロボとか出したって!
お前マジで個性なんなんだよ!?」
「教える気はねぇ」
瀬呂の追及に冷たく返す。
そんな千雨に蛙吹が思ったことを口にする。
「千雨ちゃん、口調そのままなのね」
「もう取り繕うのも面倒だしな…どうせいつかは素の悪さが出るし」
「その、ずいぶん男勝りな口調なんですね」
「コスチュームとのギャップが激しい☆」
「怒られた時はマジでビビったぜ、俺…」
八百万、青山、切島が三者三様の反応をする。
切島については自業自得だ。
「悪かったな見た目と中身が違って」
「俺以外知らなかったのか」
「あのな常闇、こんな中身だって知られて喜ぶ奴がいる訳ねぇだろ。だから猫被ってたんだし。
…まぁ、もう知られちまったから被らねぇけど」
「ケロケロ、千雨ちゃんは中々自分のことを話してくれないから、仲良くなれそうで嬉しいわ」
「…そうかよ」
「そうそう!」
2人掛けシート最前列に座っていた上鳴が会話に交ざる。
「長谷川は付き合い悪いの直そうぜ!
そうだ、今度俺と食事行かね?」
「お断りいたします」
「距離空けられた!?何で!?」
「上鳴ざまぁ」
「耳郎お前さぁ!」
普段通りの会話をする上鳴と耳郎のおかげで笑いがこぼれる。
「長谷川さん自身のこと、私も知りたいですわ」
「私も知りたいわ」
「長谷川に質問タイムしよ!」
「…なんで、皆して私なんかに構うんだか…」
ワイワイと千雨の話題で盛り上がる周囲に対し、千雨は眉間にしわを寄せて冷めた態度で居続ける。
「千雨ちゃんはお友達で、助け合える仲間だもの。
仲良くしたいわ」
「一緒に戦ったクラスの仲間ですわ」
「友であり、大切な仲間だ。気にして当然だろう」
「……『仲間』…?」
「まだ知り合ったばかりだけど、僕らはきらめきあえる仲間さ☆」
「良いこと言うな、青山」
千雨にとっての『仲間』とは3-Aのメンバーであった。騒がしくて、うるさくて、トラブル多くて、お気楽で、バカで、アホで…協力しあえて、頼りあえて、絶対に信じられる仲間。
―――もう、会えなくなってしまった…大切な『仲間』。
この世界での千雨は孤独だった。
大人も子供も簡単には信じられない。認めたくない世界と常識。訳のわからないヴィランとヒーロー。
それらの非日常をなんとか呑み込んで、沢山の秘密を抱えて警戒していた。
それは光のない無限の闇に突き落とされたかのよう。
だからこそ千雨は自分の"現実"が遠ざかることに恐怖し、過去のよすがにしがみつくように"魔法"に手を伸ばした。
それらしい理由を取り繕って。あの"現実"が"夢"にならないように。
なんとかこの世界で前を向いて生きようとしても"違い"を見つけてしまい、自分を抑えることで息をしていた。
ここで…この世界で、新しい『仲間』を見つけても良いのだろうか。
彼らを『仲間』と呼んでも良いのだろうか。
協力しあうには弱く。頼りあうには頼りなく。信じるには何もかも足りない。
それでも。
信じてくれるなら、その信頼に応えたい。
「…『仲間』……そうか…『仲間』か」
ひとり噛み締めるように、繰り返す。
それは、失っていたものが戻ってきたかのような。ずっと欲しかったものが手に入ったかのような。
―――大切な『宝物』を、慈しむかのような声だった。