ひねくれ魔法少女と英雄学校 作:安達武
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千雨ちゃんは戦うのか、逃げるのか。
今回初登場となるアーティファクトとは。
そして作者はどこまで連日投稿記録を伸ばせるのか───!
「ヴィランンン!?バカだろ!?
ヒーローの学校に入り込んでくるなんて、アホすぎるぞ!」
ヴィランが続々と闇の中から現れてくる。
状況をきちんと読めていない誰かの声が響く。
「先生、侵入者用センサーは!」
「もちろんありますが…!」
「ダメだ、センサーも電話も通信関係は全部ジャミングされてる!
おそらくそういう"個性"が敵にいる!」
千雨は持っていたスマホでも確認したが、やはりここら一帯が電波妨害されているのか、圏外表示で電話も繋がらない。
千雨のアーティファクト、力の王笏は電子機器および魔法関係へのハッキング。"個性"は身体機能の一部であるので、ハッキングによる解除が出来ないのだ。
電子精霊はオフラインでも機械が動いていれば実体化していられる。また、アーティファクトアプリもダウンロード済みのデータを使っているため使用可能だ。
「現れたのはここだけか、学校全体か…。何にせよセンサーが反応しねぇなら長谷川の言う通り、向こうにそういうことが出来る"個性"がいるってことだな。
校舎と離れた隔離空間、そこに少人数が入る時間割…。
バカだがアホじゃねぇ。
これは、何らかの目的があって、用意周到に画策された奇襲だ」
轟が冷静に状況と敵の分析を行う。
そう、この敵はバカだがアホではない。だからこそ頭を回さなくてはならない。
「13号、避難開始!センサーの対策も頭にあるヴィランだ…上鳴、お前も"個性"で連絡試せ!」
「っス!」
「先生は!?1人で戦うんですか!?
あの数じゃいくら"個性"を消すっていっても!!
イレイザーヘッドの戦闘スタイルは敵の個性を消してからの捕縛だ。正面戦闘は…」
ヒーローオタクの緑谷だ、相澤の戦闘スタイルからして不利だとわかるのだろう。
緑谷が話しかけている間に飯田と八百万、13号と共に避難指示をする。
また、13号は"知っている教師"だ。小声でいざという時は補佐しますと告げれば頷いたので、そのまま13号の横につく。
本心を言えば敵に向かう相澤の補佐をしたいしすべきだろう。しかし、戦闘スタイルを知らない者同士では互いの邪魔になりかねない。
相澤が1人で立ち向かうのは生徒たちを避難させるため。
クラスメイトたちを安全な場所まで避難させることこそが、相澤を救けることになる。
「一芸だけじゃ、ヒーローは務まらん。
13号!任せたぞ」
噴水のある広場へと相澤は飛び出した。
相澤の…イレイザーヘッドの個性は"抹消"。ヴィランの個性を消しながら捕縛布を使った肉弾戦を仕掛ける。
敵は誰が消されているのか分からないため個性が使えず、発動型や変形型の個性は大抵個性を使わない戦闘方法などほぼ持たない。持っていてもそれは対処可能なレベルなのだろう。個性を"抹消"出来ない異形型も、消せないからこそ対策を立てている。
一対多で華麗に立ち回るイレイザーヘッドの戦闘技術は、たゆまぬ訓練によってつくられたものだ。
緑谷はそれを見て感心していたが、最後尾にいた飯田に急かされて避難する。
「させませんよ」
生徒を先導して避難していた13号と千雨の目の前に、あの黒いモヤの敵が立ち塞がった。
「初めまして、我々はヴィラン連合。
僭越ながら…この度ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせて頂いたのは―――平和の象徴オールマイトに、息絶えて頂きたいと思っての事でして」
「!」
「本来ならば、ここにオールマイトがいらっしゃるハズ…ですが、何か変更あったのでしょうか?
まぁ…それとは関係なく…」
平和の象徴を殺害する宣言に生徒が息を呑む中、自己主張を続ける黒いモヤの敵。
13号が右人差し指の先の蓋を外し、攻撃態勢に入る。
千雨もいつでも迎撃できるよう構えた。
モヤ状態の敵で13号が"個性"を使うならば、近距離攻撃と身体強化での風圧は使えない。遠距離攻撃かつ、13号の個性に影響されないで敵に確実に当てられるもの。
「電子の王、再現。匕首・十六串呂」
アーティファクト、匕首・十六串呂。
柄に飾り房のついた刃渡り30センチほどの匕首(短刀)型のアーティファクト。最大16本に分裂が可能。念じることで飛翔させ、自動追尾で対象を攻撃することが出来る。
鞘のついた匕首を左手に持ち、13号の攻撃に合わせようと相手の動きを警戒する。
そしてその時、飛び出した人影が2つ。
「私の役目はこれ」
話し続けている敵に、大きな爆発音と爆煙が広がる。
「その前に俺たちにやられることは、考えてなかったか!?」
飛び出したのは左腕を硬化させた切島と、右手で爆破を使った爆豪。
よく言えば勇猛。だが、この時ばかりはただの無謀な突撃でしかなかった。
2人が攻撃するべく勝手に行動したせいで、13号は“個性”を使えない。
「危ない危ない……そう…生徒といえど、優秀な金の卵」
ユラ、と揺らめくモヤ。
何かをする気だと気付き千雨は警戒する。
「駄目だ、どきなさい二人とも!」
13号の声に二人は振り返った。しかし遅い。
敵の黒い闇が広がった。
千雨は二人のそばに瞬動術で移動して離脱を図るが、黒い闇はそれよりも素早く呑み込む。
「散らして」
飲み込まれながら振り返って見えたのは、クラスメイト全員を覆いつくすように広がる闇。
離れてしまう前に匕首を手放して爆豪の右手と切島の左手を掴む。
「嬲り」
闇に飲まれて分断されていくクラスメイト。
飯田や障子が個性で黒い霧に包まれる前に助けられるクラスメイトを助けて回避している。
「殺す」
「皆!」
完全に闇に包まれきる刹那、緑谷の声が聞こえ、途切れた。
そして一瞬暗転したと思えば、空中に放り出されていた。近くには崩れかけたビルがいくつか建っている。
爆豪と切島、そして手放した匕首も一緒にワープさせられていた。
「空中っ!?
テメェら、舌噛むなよっ!?」
「うぉっ!?」
「なっ!?」
掴んでいた2人の手を引くようにして、空中に飛ばした匕首・十六串呂の柄を足裏で掴み、跳ぶ。
虚空瞬動はまだ使えないため、浮遊させられる匕首・十六串呂を出していて正解だった。
引っ張られた2人はそのスピードに驚きの声を隠せない。
千雨は壁の壊れた部分からビルの屋内に入り、2人を投げ床に転がす。ワンフロアになっている屋内に敵の姿は無い。
「クソガキ共、なんで飛び出した!戦えって言われてねぇだろ!!」
「は、長谷川っ!?」
千雨の粗暴な口調での叱咤に切島が驚く。
先日の戦闘訓練で組んだ際や委員長決めの時には冷静沈着で丁寧な姿勢だったのだ。荒い口調とは程遠い性格だと思っていたから余計に驚いたのだろう。
爆豪は眉間に皺を寄せて千雨と睨み合う。
「お前らの行動がプロの足引っ張って、その結果クラス全員が避難出来ずに分断された!
幸い施設内だったがワープの最大距離が分からないし敵数不明の個性不明なのに、よくもバカやってくれたな!
飛び出してなきゃ13号先生が対処したってのに!」
「それは…!」
「テメェらがバカだってのは良くわかった!
バカはバカなりに気張れ!
ヴィランだ!!」
異形型、発動型、変形型問わず、ヴィランが6人。千雨の声が聞こえたか、建物に飛び込むのを見られていたのか。階段を登ってやって来た。
千雨はいまだに座り込んでいる二人の前に立ち、匕首・十六串呂を16本に分裂させて、敵1人につき4本ずつ飛ばして峰打ちと柄での殴打攻撃。
そして瞬動術で異形型に近付き1人蹴り飛ばして、一番遠くにいた発動型らしきヴィランに激突させる。
「こちとら戦闘は苦手なんだよっ!はよ立てや!」
「いやメチャクチャ強いだろ!?てかそれ!その短刀何だよ!!?」
切島が千雨の匕首・十六串呂についてツッコミをいれるが無視。
倒しても再び現れたヴィランたちを身体強化と匕首・十六串呂で攻撃する千雨の背後で、爆発音が響いた。
背後を見れば、ヴィランを爆破して倒す爆豪。
「丸メガネ!俺の邪魔するんじゃねぇぞ!」
「今は丸メガネじゃねぇよバカ!テメェも足引っ張んなよボンバーヘッド!」
「うっせぇアホ毛!」
言い争いながらもヴィランを撃破して移動する千雨と爆豪。
「爆豪も…俺も負けてられねぇ!」
2人に触発された切島も加わり、3人は襲い来るヴィランに立ち向かった。
「―――これで全部か、弱ぇな」
「っし!早く皆を助けに行こうぜ!
俺らがここにいることからして、皆USJ内にいるだろうし!
攻撃手段すくねぇ奴らが心配だ!」
廃ビルの一室に何人もの侵入してきた敵が倒れている。
全て千雨と爆豪と切島の3人が倒したヴィランだ。ちなみにこの部屋の外や別室にも何人か倒れている。
「俺らが先走ったせいで13号先生が後手に回った。長谷川の言う通り、先生があのモヤ吸っちまえばこんなことになっていなかったんだ。
男として、責任取らなきゃ…」
「行きてぇなら一人で行け。俺はあのワープゲートぶっ殺す」
悔やんだ表情で呟く切島に爆豪が冷たく言いあしらう。
「はあ!!?この期に及んでそんなガキみてぇな…それにアイツに攻撃は…」
「うっせ!
敵の出入り口だぞ、いざって時逃げ出せねぇよう元を締めとくんだよ。
モヤの対策もねぇわけじゃねぇ」
「おい爆豪…!」
爆豪の言う事は一理ある。
逃げられたらそれこそ何の成果無しなのだ。出入口から潰すのは道理にかなっている。
しかし、千雨としてはそんな話をしているよりも言わなければならない事があった。
「つーか、生徒に充てられたのがこんな三下なら、大概大丈夫だろ」
「…それもそうか」
背後から忍び寄っていたカメレオンの個性らしきヴィランの攻撃を爆豪はかわして左手で爆破の勢いで床に頭を叩きつける。
伝えるよりも攻撃した方が早かったようだ。
「つーか、そんな冷静な感じだっけ?おめぇ…」
「俺はいつでも冷静だクソ髪野郎!!
クソアホ毛!テメェもヴィランに気付いてて言わなかっただろ!」
「ああ、そっちだ」
「いや、声かけようとした時に襲ってきたからな?
あとアホ毛言うなや爆発頭」
爆豪も千雨も口調が荒いためどちらも喧嘩腰に見える。
「じゃあな、行っちまえ」
「待て待て、ダチを信じる…!男らしいぜ爆豪!ノったよおめェに!」
「まぁワープ野郎を押さえるのは一理あるし、押さえとけば敵の増援もねぇ。対策もあるんだろ?
ここまで事態が変わったら、逃げるより立ち向かうしかねぇしな」
千雨はため息混じりにそう言って爆豪を見る。
賛同されたのが意外すぎたのか、少し驚いてから眉間に皺を寄せて好きにしろと言った。どうやらOKらしい。
「ところで長谷川、その口調って素なのか?」
「どうせ口が悪ぃよ。文句あんのか?素を出さねぇように気を付けてたってのに……ハァ。
爆豪、あのワープ野郎見つけて最短ルート出してやるから待て」
「…わかんのか」
「舐めんな、余裕。
電子の王、再現、渡鴉の人見。
1は待機、2から6は施設内全体の様子を偵察、黒モヤを探せ」
偵察ゴーレムたちを施設内に飛ばして各ゴーレムからの映像を待ちながら3人は廃墟のビルを出た。
ゴーレム同士の映像のやり取りは電波とは関係ないため、外部への電波がジャミングされてても使えるのは助かったと言えよう。
「さっきの短刀もだけど、そのロボも長谷川の個性?」
「…まぁな」
「おいアホ毛、テメェ超パワーだけじゃねぇのか」
「個性について話す気はねぇよ爆発頭」
「あ?」
「やんのか?」
互いにメンチを切り合う爆豪と千雨。
人の名前すら呼べねぇ奴に教えたくねぇよ爆発頭vsいいからとっとと吐けやアホ毛。
移動しながら言い争うそんな2人を宥める切島。
「落ち着けよ2人とも…つーかお前ら、口調丸っきり同じだな」
「「一緒にすんじゃねぇよ!…真似すんな!」」
「シンクロしてんじゃん…」
一字一句同じ言葉で罵倒した千雨と爆豪は互いに舌打ちした。
そんな雑談を挟んでいたところ、映像に黒いモヤの敵が映った。
「クソワープはヴィランのボスっぽいやつとセントラル広場!倒壊ゾーン出て目の前!相澤先生がやべぇ!」
「そんじゃ急ぐぞ!」
走りながら他のゴーレムからの映像を確認する。
「上空から見た限り、このゾーンにはもう敵の姿はねぇ。
他のゾーンは…火災と暴風はわかんねぇけど、反対側の水難はどうやら無事…いや、敵に近いな。
土砂ゾーンは轟の氷がえげつねぇ範囲を制圧してやがる。あと山岳ゾーンで八百万と耳郎と上鳴が戦闘中か…他は大丈夫みてぇ」
「色々分かるんだな!」
「制限あるけどな。渡鴉の人見、終了。
爆豪、次の角を右!そっから直線!お前なら先行けるだろ」
「当たり前だ!爆速ターボ!」
「うぉっ!」
両手から爆発を起こして一足先に広場へと向かう爆豪。
「ほら、私らも行くぞ切島!」
「おう!噴水の所ならあの敵の親玉っぽい奴もいるしな!次こそは先生の役に立つ!」
爆豪の後に続くようにして倒壊ゾーンを抜けて着いたセントラル広場。
そこにはバックドロップの体勢のオールマイトと、地面に開いたワープゲートでオールマイトの両脇腹に指を突き立てている黒い肌に脳みそを晒した巨体の敵。
オールマイトが脱出出来ていない様子からして、オールマイト並みのパワーを持っているのだろう。オールマイトを殺すと言っていた、奴がそのための存在と分かる。
そのそばにいるのは、敵の親玉らしき手型の装飾品だらけの悪趣味な格好の男と、黒モヤのワープ野郎。
少し離れた場所には蛙吹と峰田が運ぶ、血を流して傷だらけの相澤。
「オールマイトォ!!!!」
そして、敵に駆け出していく緑谷。
「どっ……け邪魔だ!!デク!!」
緑谷に襲いかかろうとしていた黒モヤを、横から飛び出してきた爆豪が爆破する。その爆風でモヤを吹き飛ばし、首元らしい部分を掴んで地面に叩き伏せた。
同時に、オールマイトを捕らえていた脳無の身体の右半身だけが白く凍りつく。
「てめェらがオールマイト殺しを実行する役とだけ聞いた」
轟だ。どうやらほぼ同時に駆け付けたらしい。
「!」
「だぁー!」
硬化した腕で不意を突いて手が沢山ついた敵に腕を振りかぶった切島だが、直前でかわされてしまう。
「くっそ!!いいとこねー!!」
「スカしてんじゃねえぞモヤモブが!!」
「平和の象徴はてめェら如きに殺れねぇよ」
「かっちゃん…!皆……!!」
爆豪、切島、轟の加勢により、これで3対5。
轟が脳無を半分だけ凍らせて拘束が緩んだところをオールマイトが脱出した。
悪意との戦いはまだ終わらない。
男子の呼び方
常闇、上鳴、切島他、ガヤ担当の男子:長谷川
緑谷、尾白、口田他、大人しめの男子:長谷川さん
飯田:長谷川くん
人を呼び捨てにするのは良くないと教えられたため
爆豪:丸眼鏡→アホ毛
見た目から命名。爆発的センスの無さ。
丸メガネはコスチュームではかけてないと言われたため、アホ毛に落ち着いた。
千雨:爆豪、たまに爆発頭と呼ぶ
男子も基本的に名字にさん付けだった。
爆豪たちにキレて敬語をかなぐり捨てて素の口調になっているため、呼び捨てに。