ひねくれ魔法少女と英雄学校 作:安達武
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そろそろ未登場のアーティファクトが出したい気分
出るのは多分次回だけど
先日のマスコミ侵入騒動の際に、食堂でパニックとなった雄英生を鎮静化させた飯田。
そのことがきっかけで緑谷が飯田に学級委員長を譲り、最終的に委員長が飯田、副委員長が八百万になった。
やりたい奴がやればいいんじゃないの。
ちなみに千雨は他の委員会決めも上手いことかわして役職無しだ。
マスコミ侵入騒動から数日たったが、いたって普通の『平穏な高校生活』と呼んでいい。
訂正。ひとつだけ出来事があった。
マスコミ侵入騒動の翌日、何故かオールマイトに話し掛けられた。個性について聞かれたのだ。
「君の個性は何だい?」
そう聞いてくるオールマイトの様子が何やらおかしいと感じた。何やら鬼気迫るというか、なんというか。
むしろ教師であるオールマイトに、逆に知らないのかと千雨は聞いた。
どうやら相澤から直接聞くようにと言われていて、個性の情報は無いらしい。
何故学校側はオールマイトに言っていないのか疑問が残るものの…おそらく、会長との取引やら事情を知らないからだろう。アレは他言無用だ。
オールマイトには個性届の個性を伝えた。
個性届に書かれているものは千雨の能力で間違いないので伝えても問題ないからだ。
念のため個性届のコピーも後日見せれば、納得半分といった様子だった。おそらく日頃見せているパワーの説明がつかないからだろう。超パワーについてそれらしい理由を適当に伝えたら、最終的には納得してもらえた。
もちろん、個性については個人情報だから誰にも言わないで欲しいと伝えたところ、疑念を感じつつも了承してもらえた。
「もし誰かに言うつもりならオールマイトの個性や秘密を暴いてばらまく。超スピードで尾行して全部暴く」とちょっと大きめな独り言を言ったが…別に、大したことではないだろう。うん。ただの独り言であってそれまでの会話と全然関係ないし、全然問題ない。
それ以外は、特にこれといった出来事はない。
「今日のヒーロー基礎学だが…俺とオールマイト、そしてもう一人の三人体制で見ることになった」
「ハーイ!なにするんですか!?」
「災害水難何でもござれ、人命救助訓練だ!」
質問した瀬呂に答えるようにして、相澤がRESCUEの文字の書かれたプレートを見せる。
「レスキュー…今回も大変そうだな」
「ねー!」
「バカおめー、これこそヒーローの本分だぜ!?
鳴るぜ!!腕が!!」
「水難なら私の独壇場、ケロケロ」
「おい、まだ途中」
喋りだしたA組の面々をひと睨みで黙らせる相澤。すでに教師と生徒の間に信頼関係が生まれている。相澤の無駄嫌いに対する信頼だが。
相澤は手元のコントローラーで壁のコスチュームケースが入っている棚を動かした。
「今回コスチュームの着用は各自の判断で構わない。
中には、活動を限定するコスチュームもあるだろうからな。
訓練場は少し離れた場所にあるから、バスに乗っていく。
以上、準備開始」
千雨は迷うこと無くコスチュームを手にした。
…気に入っている訳ではない。まだデザイナーとはヘッドギア無線機について交渉中である。…まぁ、体操服より良いとは、思う。
バスに乗り移動するため、飯田の指示で2列に並んだのだが、飯田の想像していた前向きシートではなかった。
バスのタイヤ上部に1人掛けが左右に1つずつ。運転席側に相澤、扉側に千雨が座る。
その後ろの前扉から中扉までが向かい合う形の4人掛けベンチシートに、砂藤、緑谷、蛙吹、切島の4人と、飯田、芦戸、青山、上鳴。
他の生徒は中扉から後方の2人掛けシートとなっている。
施設につくまでしばらくかかる。その間、バスの中ではワイワイと話す声が響く。
「あなたの“個性”、オールマイトに似てる」
「そそそそ、そうかな!?いや、でも僕はそのえー」
「待てよ梅雨ちゃん、オールマイトはケガしねぇぞ。似て非なるアレだぜ」
蛙吹と緑谷の会話に隣に座っていた切島が口を挟む。
「それに、どっちかと言えば長谷川の方がオールマイトに似てるだろ、あのパワーを怪我しないで発揮してるんだし」
「確かに、千雨ちゃんもオールマイトみたいなパワーよね。
千雨ちゃんはケガをしないみたいだけど…どんな仕組みなのかしら」
3人の視線が1人席に座っている千雨に向かう。
ここからでは顔が見えないものの、猫耳のようなヘッドギアが椅子の上から見えた。
緑谷から見た長谷川千雨というクラスメイトは、『興味深い個性』を持つ『凄いけど謎の人物』であった。
長谷川さんは日頃の様子は基本的には1人で過ごしているか、常闇くんと行動している。休み時間はタブレットPCで何やら作業しているのを見かけることが多い。
クラスにおいて人付き合いがほとんど無いため、どこか浮世離れしているようなのだが…学級委員決めの時に彼女が話した内容は、緑谷にとって飯田と代わるべきだという考えの後押しにもなった。
かっちゃんやオールマイトとは違う意味で―――『凄い人』。
個性把握テストで見せた超スピードと超パワーは、オールマイトから継承した力を正しく制御して使ったかのようだった。
先日の戦闘訓練では1番目に試合を行い、怪我をして保健室に担ぎ込まれたため見れなかったが…飯田くんいわく、訓練でも超パワーをつかってビルに穴を開け、蹴りで風を起こしたそうだ。
その話を聞いてオールマイトの『TEXAS SMASH』のパンチを蹴りにしたかのようだと思った。
それから、これは飯田くん含め他のクラスメイトから聞いたのだが…あの日の放課後に行われた反省会にて、長谷川さんの個性は『複数』あるかもしれないということが話題になったらしい。
もしかしたら、僕がオールマイトから受け取った"ワン・フォー・オール"と同じように、継承される力なのかと考えてしまった。
勿論、"個性"についてに加えて、超パワーの扱い方についても一度聞いてみた。
が、個性については話す気はないと一蹴されてしまったのと、超パワーの扱い方については教えられないと、こちらも一蹴されてしまった。
それでもどうしても気になって、教師であるオールマイトにも長谷川さんの個性について電話で聞いた。
が、どうやらオールマイトはA組の面々よりも知らなかったらしく…"複数の個性"というところに引っ掛かりを覚えていたのが印象的だった。
後日オールマイトが長谷川さんに聞いたところ個性は1つだと言っていたそうだ。個性届も見せてもらったらしい。どんな個性かは本人から口止めされてしまったそうだが。
そんな凄くて謎だらけの長谷川さん。
同じクラスの仲間だから、もっと仲良くなりたいが…その道のりはそう簡単にはいかないのかもしれない。
「…しかし緑谷もそうだけど、増強型のシンプルな“個性”はいいな!派手で出来ることが多い!
俺の“硬化”は対人じゃ強ぇけど、いかんせん地味なんだよなー」
「僕は凄くかっこいいと思うよ、プロにも十分通用する“個性”だよ」
「プロなー!
しかしやっぱヒーローも人気商売みてえなとこあるぜ!?」
「僕のネビルレーザーは派手さも強さもプロ並み」
「でもお腹壊しちゃうのはヨクナイね!」
派手さと強さという点から、プロとして活躍していく上での話になる。
そっと自画自賛した青山の言葉にツッコミを入れた芦戸。反論出来ない正論に青山は黙る。
「派手で強ぇっつったら、やっぱ轟と爆豪と長谷川だな」
先日の戦闘訓練において、緑谷と派手な戦闘を見せた爆豪と、ビル一棟まるごと凍らせた轟。派手さのみならず攻撃力は言わずもがなだ。千雨もまたノーリスクでの超パワーが評価される。
その評価に対して爆豪は下らないと言わんばかりにケッと言う。
「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気出なさそ」
「んだとコラ出すわ!!!」
「ホラ」
蛙吹は緑谷に対する時と同じく思ったことを正直に言っているのだろう。それに噛みつく爆豪の様子が余計に説得力を増す。
「この付き合いの浅さで既にクソを下水で煮込んだような性格と認識されるってすげぇよ」
「てめぇのボキャブラリーは何だコラ殺すぞ!!!!」
「低俗な会話ですこと!」
「でも、こういうの好きだ私」
「爆豪くん、君本当口悪いな」
ワイワイと騒がしくもバスは施設へと向かっていく。
「もう着くぞ、いい加減にしとけよ…」
しかし底冷えするような相澤の声に、全員返事をして黙った。
千雨は1人頬杖をつきながら窓の外を眺めていた。
バスはしばらくしてからドーム状の建物内に到着。中にはまるでテーマパークかと錯覚するようなその施設。燃えるビルや湖に浮かぶクルーザー。土砂崩れ。様々な災害を再現した設備が備わっていた。
「すっげー!USJかよ!?」
「水難事故、土砂災害、火事…etc。
あらゆる事故や災害を想定し、僕が作った演習場です。
その名も…Uウソの、S災害や、J事故ルーム!」
USJ…その略称でいいのだろうか。怒られそう。
訓練で使う施設USJの入り口、セントラル広場前で待っていたのは宇宙服姿の教師。会長との取引の時に扉近くに立っていたヒーローだ。
今日のヒーロー基礎学の指導に加わるスペースヒーロー、13号の登場に、緑谷と麗日が歓声を上げた。
「スペースヒーロー『13号』だ!
災害救助でめざましい活躍をしている紳士的なヒーロー!」
「わー!私好きなの、13号!」
ヒーローネームそれで良いのかとツッコミすべきか。
千雨の目がチベットスナギツネのようになっている横で嬉しそうにしている麗日。
相澤が13号と何やら話している。ここに来ていないオールマイトについてだろうか。
「えー始める前に、お小言を1つ2つ…3つ……4つ…」
…増えてる。
どうやら13号は話すことをまとめるのがあまり得意ではないらしい。
「皆さんご存知だとは思いますが、僕の“個性”はブラックホール。
どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます」
「その"個性"で、どんな災害からも人を救い上げるんですよね」
「ええ…しかし、簡単に人を殺せる力です。
皆の中にもそういう"個性"がいるでしょう」
…その言葉を、クラスメイトたちはどう考えているのだろう。
千雨からすればこの場の全員が"個性"という武器を携行していて、それを振るえるという認識だ。とても恐ろしい。
どんな"個性"であれ…簡単に人を殺せてしまえるのだから。
勿論、そんなものは使い方次第。包丁を調理道具とするのか凶器にするのかを人に説くような者はいない。
だからこそ余計に…ここが"現実"なのだと実感させる。
「超人社会は“個性”の使用を資格制にし、厳しく規制することで一見成り立っているようには見えます。
しかし、一歩間違えれば容易に人を殺せる“行き過ぎた個性”を個々が持っていることを忘れないで下さい。
相澤さんの体力テストで、自身の力が秘めている可能性を知り。
オールマイトの対人戦闘で、それを人に向ける危うさを体験したかと思います。
この授業では…心機一転!
人命の為に"個性"をどう活用するかを学んでいきましょう。
君たちの力は、人を傷付けるためにあるのではない。救けるためにあるのだと心得て帰って下さいな。
以上!ご清聴ありがとうございました!」
「ステキー!」
「ブラボー!!ブラーボ―!」
その言葉を終えて、13号は一礼した。13号の話に対して生徒たちからの拍手喝采が起きる。
千雨も小さく拍手した。
「そんじゃあ、まずは…」
言葉を口にしかけた相澤。それと同時にセントラル広場の噴水前に、奇妙な黒い穴が音をたてて開く。
相澤が目をこらしていると、少しずつ広がる黒い穴から人の指がのぞき…"悪意"が出てきた。
「ひとかたまりになって動くな!!」
「え?」
「13号!生徒を守れ!」
簡潔に指示を出しながら、相澤はゴーグルを装着。突然の指示についていけていない生徒たち。
相澤が見ている噴水前を見ると、たくさんの人の姿と、謎の黒い闇。
「何だアリャ!?また入試ん時みたいなもう始まってんぞパターン?」
「違う!あれはヴィランだ!!!!」
底の見えない闇が広がり、闇の中から沢山の悪意がやってくる。
さっきまでの平穏が崩れていく音が聞こえる。
「13号にイレイザーヘッドですか…。
"先日頂いた"教師側のカリキュラムでは、オールマイトがここに居るはずなのですが…」
「やはり先日のはクソ共の仕業だったか」
黒いモヤのようなヴィランが話した内容からようやく気付いた。先日のマスコミ侵入騒動は彼らの仕業だと。
千雨はそんなことにも気付けなかった自身の腑抜け具合に後悔し、すぐに行動を開始した。
全員の意識が敵に向いている間に、こっそりと電子精霊へ校舎へ連絡するように指示する。だが、妨害されていて通信しようにもノイズが酷すぎる。送受信共に強力なジャミングが掛けられている。さらにこのジャミングはハッキングでの解除が出来ない。
おそらく"個性"によるものだろう。
機械なら何とでもなるのだが、厄介すぎる。
「どこだよ…せっかくこんなに、大衆引き連れてきたのにさ…。
オールマイト…平和の象徴…居ないなんて…」
ヴィランの中央にいる手のような気味の悪い飾りを着けた痩身の男が話す。
ゾワゾワと全身の毛が逆立つような、気味の悪さ。底知れない闇。
危険だと本能が告げてくる。
「…子どもを殺せば来るのかな?」
悪意が、牙をむいた。