ひねくれ魔法少女と英雄学校   作:安達武
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9月からキンクリして入試の2月まで進めました。
常闇と仲良くなる過程が思い付かなかった訳ではないんだ!マジで!チロルチョコ賭けてもいい!

入試に関しては捏造満載です。


乗り越えるべき壁

転校してから時は過ぎ…2月26日。

 

今日は「雄英高校一般入試」の日である。

 

国立のため、受験科目は国語、数学、英語、理科、社会の5科目。ヒーロー科はさらに実技。

午前中に筆記試験3科目、昼休みを挟んで午後に2科目。その後に着替えなどの時間を挟んでから10分間の実技試験。

全試験の終了予定時刻は4時。

受験者数が多いため、時間にゆとりを持たせている。

 

ちなみに雄英は全学科同日試験で他科との併願が可能。ヒーロー科を受験しなければ筆記試験で解散だ。

しかし、ヒーロー科単願かヒーロー科と他科の併願が多いため、実技の受験人数が大きく減る事はない。

勿論、サポート科などヒーロー科以外を単願する生徒も中にはいる。

 

雄英は千雨の居た世界における神奈川県西部の小田原近郊に。円扉は静岡県東部の富士市、富士山の山裾付近にある。

距離はあるものの、どちらも新幹線が停車する駅が近いため交通の便はわりと良い。

円扉から最寄り駅まで電車で40分。そこから校舎まで歩いて15分ほど。校舎は小高い山の上にあるため、駅からすこし時間がかかる。

山の上にある全面ガラス張りの大きな建物。正門から見ればHの形に見えるのが雄英の校舎だ。続々と集まる受験生たちの流れに乗って、校舎へ入っていった。

 

 

 

午前中は受験番号ごとに割り振られた部屋で筆記試験。半数が大講堂での試験。半数が大教室などでの試験になる。

試験官はプロヒーローであるが、案内などは普通科や経営科の生徒が手伝っているようだ。

 

 

筆記試験は社会科目だけが不安だが、全体的によく出来たと思う。

 

麻帆良では737人中450から500位付近にいたが、勉強が出来ないからではない。

では何故この順位だったのか。それはテストで良い点を取ったところでメリットがなかったからだ。

 

学年でのテストクラス順位が2年の期末までA組がずっと最下位だったのを1位に上げるのに貢献出来るだけの勉強はしていたのだ。帰宅部だったのも理由だが、いくら非常識なクラスだからといって、その非常識の中で馬鹿なのはお断りだったし、バカレンジャー入りはしたくなかった。

夏休み明けからバカブラックの綾瀬、バカピンクの佐々木の2名がバカレンジャー卒業。そのため新メンバー入りしそうになった成績順位後半組が必死にバカレンジャー回避の勉強をしていたのも記憶に新しい。

また、この世界に来てからもしっかり勉強していたことも要因だ。

 

 

 

筆記試験を終えたら案内に従って、実技試験の説明会場でもある大講堂へ向かう。1万人近くの受験者全員が入れる大きさの大講堂はとてつもなく広い。

常闇とは学校が同じため、隣の席である。

 

時間になると雄英教師でもあるボイスヒーロー、プレゼント・マイクが実技演習の説明を始めた。

ラジオDJのテンションのまま、説明を開始する。

 

実技試験は10分間の『模擬市街地演習』で、道具等の持ち込み可。

演習場には"仮想敵"を三種・多数配置。

それぞれの"攻略難易度"に応じてポイントが設定されている。各々なりの"個性"で仮想敵を"行動不能"にし、ポイントを稼ぐこと。

他の受験者への攻撃や妨害は禁止。

 

配られたプリントの内容を簡潔に分かりやすく、それでいて少しコミカルに話している。

 

受験生からの質問もあったが、座席の都合上、質問者の声はあまりよく聞こえなかった。

ロボットの種類について聞いたというのはプレゼント・マイクの返事でわかった。

プレゼント・マイク曰く、ポイントのある3種のロボット以外に、0ポイントのお邪魔虫ロボも出てくるそうだ。

 

プリントの下部に書かれていたロボットの名前は、1ポイントが『ヴィクトリー』、2ポイントが『ヴェネター』、3ポイントが『インペリアル』、そして0ポイントが『エグゼキューター』の四種類だ。

訳すと勝利、狩猟、帝国、執行者。ヴェネターだけ何故かラテン語である。

 

というかこの名前の並び、完全に遠い銀河系が舞台の某SF映画の宇宙戦艦じゃねぇか。そうなるとエグゼキューターってまさか…。

いや、まさかな。そんなバカなことをする学校じゃないはずだ。だって国立で最難関校だぞ。今年の偏差値79で毎年倍率300になる学校だぞ。

きっと製作者か命名者あたりがファンだっただけだろう。きっと。

千雨は自身にそう言い聞かせながら説明に集中する。

 

 

「―――俺からは以上だ!!

最後にリスナーへ、我が校"校訓"をプレゼントしよう。

かの英雄、ナポレオン=ボナパルトは言った!

『真の英雄とは、人生の不幸を乗り越えていく者』と!!

"Plus Ultra"!!

それでは皆、良い受難を!!」

 

実技の説明をそう締めくくったプレゼントマイクはやはり根っからのエンターテイナーなのだろう。

会場内にいる受験生たちのやる気と熱が一気に高まる気配がした。

 

「常闇とは別会場だ」

「孤独な戦場…ではないか」

「オレガイルゼ!」

「ちう様、我々もおります!」

 

千雨と常闇の会話に入ってくる電子精霊と黒影。互いに互いの"個性"との信頼関係の強さは短い付き合いながらも知っている。

それ以上の言葉を交わさずに、それぞれ指定された更衣室に向かっていった。

 

 

 

7つある演習会場のうち、常闇がA、千雨がBだった。

受験番号で指定された女子更衣室で着替えて演習会場に向かう。会場の出入口には1000人を超す受験生が集まっている。

倍率を考えれば1万人近くの受験者がいるのだからこうなるのは当然か。

 

開始時間まで待つ間に情報収集をする。会場は500メートル四方の250000平方メートルを2メートル以上のフェンスで囲われている。会場内にはビルが沢山建てられており、道路も標識も街路樹もある。本物の街そのままだ。

 

千雨の格好はどこにでもある普通の紺色ジャージ。右手首にバングルを着け、スマホをネックストラップでジャージの中に首から提げている。ポケットだと落として壊す危険があるからだ。

仮契約カードも念のためスマホケースにいれている。

 

この実技試験は千雨にとって相性抜群。

ロボを行動不能か撃破してポイントを稼ぐそうなので、ハッキングによる停止でも良いしアーティファクトや身体強化を使って壊しても良い。手っ取り早いのは撃破だろう。

開始までもうしばらく時間がある。その間に魔力による身体強化をした。

 

「借りるぜ、朝倉、くーふぇ。

電子の王、再現。渡鴉の人見、神珍鉄自在棍」

 

スマホケースに入っているカードとバングルが光ったのがわかる。光は千雨のそばでその形を変形させた。

 

アーティファクト、渡鴉の人見。

先が丸い円柱が組合わさったような形で、白とオレンジ色をした飛行ゴーレムだ。最大6体のゴーレムを遠隔操作することが出来るスパイアイテム。1500キロ近くの超々遠距離まで飛ばせて、映像や音声を他のゴーレムと共有することが可能。

ちなみに1500キロは東京から沖縄くらいの距離だ。

 

アーティファクト、神珍鉄自在棍。

見た目は赤い柄の両端に金色の箍がついている棒。通常時は2メートルほどで、鉄製のため重さはおよそ20キロ。

太さと長さを自在に変えられる棍で、西遊記に登場する孫悟空が持つ如意金箍棒の複製品とも言われている。

 

2つのアーティファクトを再現して、スタートの合図を待つ。

 

「お前ら、始まったらポイント取れるロボの位置を全て割り出して状況把握しろ」

「もちろんです!」

「我らにお任せあれ!」

 

敬礼する電子精霊たち。

彼らも久し振りの活躍の場でもあるため、やる気は十分だ。

 

「はい、スタート」

 

スタートの合図と共に開いたゲートをくぐりグッと足に力を込めて走る。

踏み込む足は魔力によって強化されており、まるで足にロケットエンジンでも着けているかのようだ。

 

そのまま見つけた1ptとペイントされたロボのヴィクトリーに棍を振るえば、ロボごと地面のアスファルトを砕く威力を見せる。

その音に引き寄せられてきたのか、3ptとペイントされたロボのインペリアルも火器を使われる前に叩き潰していく。

 

「悪いが、ポイントは貰ってくぜ」

 

電子精霊とゴーレムの情報を元に、迷うことや探すこともせず、周囲より早くロボを撃破していく。

 

「な、なんだあの女子!速さヤベェだろ!?」

「急げ!ポイントが無くなる!」

 

魔力による身体強化をした状態でロボットを伸珍鉄自在棍で上から叩き潰すようにしてビルや他の受験者に被害が出ないようにポイントを稼いでいく。

千雨の目の前で瓦礫に躓いた太い尻尾の男子が2ポイントのロボに襲われかけるのが見えた。距離にして10メートル。千雨は右手の棍を強く握って突き出す。

 

「伸びろ!」

「うわっ!?」

 

貫くようにしてロボを破壊する。これで合計35pt。

棍を縮めながら男子に近付き手を貸す。

 

「おい、大丈夫か?転んでる暇なんざねぇぞ?」

「あ、ありがとう!君の個性って…」

「じゃ、これで」

「早い……って、俺も急がないと!ポイント!」

 

無事を確認したらさっさと移動して、ロボットを倒していく。

 

「これで40!

もう残り少なくなってきたな…」

 

1000人の中に戦闘力が有るもの無いもの様々だから不向きの個性もいるだろう。しかしそれでも受験者が多い。ロボットはあっという間に破壊されていく。

 

「ちう様、後ろ後ろー!」

「なんだよアレは!?」

 

電子精霊と近くにいた受験生の声に振り向いた。

そこにはビルより大きなロボット、エグゼキューター。

 

「アホかーーーッ!!!」

 

千雨は思わずツッコミいれてしまった。

 

「あれがゼロポイントのお邪魔虫!?デカすぎだろ!バカだろ!?バカだろこの学校!?非常識ここに極まれりだぞ!?」

「ブルーシートのかかった工事現場に擬態させてたみたいです」

「ちうたま、街が破壊されちゃいますよ」

「怪我しそうだね」

「ふざけんな!こんなん逃げるしかないだろ!」

「ちう様、逃げ遅れた人がいます」

「ハァ!?」

 

振り向くと恐怖で竦んでしまったのか、座り込み全身を恐怖で震わせる受験生。

手が、足が、震える。こんなのただの女子校生に立ち向かわせるものではない。

救けるなんて出来ない。出来るはずが無い。

でも、恐怖に震える気持ちがわかる。救けを求める気持ちがわかる。

 

「―――ああくそッ!」

 

千雨はロボの方角へ走り出した。

今すぐ逃げたい。危険だと脳内警鐘が鳴り響いている。

それでも千雨の知っている"真の英雄"は―――脅威に背を向けず人を救ける、偉大な魔法使いなのだ。

 

「そこの女子!逃げないと危ないですぞ!?」

 

毛むくじゃらの受験生に声をかけられるが、足を止めない。

座り込んだ受験生の前に飛び出し、棍を構える。

 

「伸びろ!」

 

棍の端を地面につけて伸ばす。直径が3メートルほどの太さになり、巨大ロボの胴体にぶつかり、背後のビルに押し付けることに成功した。それでも動きを止めないロボットはその腕で棍を掴もうと無理矢理動いている。

一度戻して振り下ろそうにも、張り巡らされた電線が邪魔になる。本物の電線同様に電気が走っているため火災の危険がある上に感電する。

また、巨大ロボの装甲をビルと挟んで潰そうにも、ロボより先にビルが壊れてしまう。

思わず舌打ちがもれる。

 

「お前ら!やれ!!!」

 

千雨の声に呼応するようにして黄色い7つの光球が現れ、形を変える。

 

「電子精霊千人長七部衆、只今推参!」

 

敬礼しながら現れた電子精霊たちが、そのまま報告する。

 

「システムハッキング完了!」

「クラッキング進行中!」

「完了です!」

「エグゼキューターの機能停止を確認!」

 

その言葉を証明するかのようにギギギギギと大きく金属の軋む音を立てたあと、巨大ロボットの頭部らしき部分のランプが消えて動きを止めた。

それと同時に終了のアナウンスが入り、試験終了。

千雨は試験が終了したことよりも巨大ロボを停止させられたことに安堵のため息をつく。

 

「あの巨大ロボを止めるなんて…凄いわあの子」

「格が違うっつーか…」

「ありゃ合格しただろうなぁ」

 

受験生たちが巨大ロボを見上げ、千雨を評価する。

理不尽なまでの脅威に立ち向かい止めてみせたその姿は、紛れもなくヒーローだった。

助けられた受験生が千雨に泣きながらありがとうと感謝し、千雨は恥ずかしいのか顔を赤くして素っ気ない態度を取り、巨大化した棍とスパイゴーレムを手元に戻してアーティファクトプログラムを終了させる。

 

しばらくしてからやって来た雄英の看護教諭である妙齢ヒーロー、リカバリーガールが怪我人の確認をして、一通り治癒をしていく。

千雨もお疲れさんと声を掛けられ、レモン味のキャンディーを渡された。ヒーローがヒーローヘッドのディスペンサーを持ってるというのは中々シュールである。

幸いなことに怪我人はそれほど居なかったのか、すぐに演習会場Bの受験生は入り口にあるバスで校舎に戻って良いと言われた。

 

 

 

更衣室で着替えていると、常闇から共に帰ろうとのお誘いがあったので、着替え終えてから待ち合わせ場所の校門前に向かう。

 

「おつかれ」

「その様子からして…互いに健闘したようだな」

 

落ち込んでいない様子から推測したのだろう。そのまま実技試験についての話となった。

 

「そっちにも出たのか、巨大ロボ」

「うむ。圧倒的脅威に太刀打ち出来ずにいた。流石は雄英」

「いや、あれはアホなだけだろ…。

結果は1週間後か」

「ああ。一念通天、互いの努力が報われることを願っている」

 

常闇と最寄り駅でわかれた千雨。

マンションの自室につくと、荷物を置いてベランダに出た。そしてそっとスマホケースにいれていた仮契約カードを取り出す。

アイドルスマイルをしている自身の姿が映ったカードは変わらずにいる。

 

「もうすぐ3月か」

 

この半年間で現実味のない人間離れした力や技能を身に付けてしまった自身にたいして頭を抱えたくなる。一般人とはもう呼べない自分にもあのクラスの影響があったのかと思いながらカードを裏返す。

ネギ・スプリングフィールドの従者。ラテン語で書かれたその文字を親指でなぞる。

 

茶々丸から聞いた、超が学園での生活を指して夢のような世界と評したという言葉がよみがえる。

超にとって"夢"と言われたあの世界が千雨にとっての"現実"であった。

しかし、夢とは、現実とは、なんだろうか。

あの世界で知った"夢"のような魔法は"現実"で。

先生は魔法世界という"夢"を夢のまま終わらせず。

千雨の"現実"には"夢"のように帰ることが出来ず。

かけ離れた"この世界"もまた千雨の"現実"で。

 

「胡蝶の夢か…いや、こちらもあちらも全て現実…全て夢じゃねぇんだよな」

 

見下ろす街並みには様々な人がいる。昼の喧騒も、夜の静寂も、何も変わらない。

目の前の現実を生きる。それが千雨に出来る唯一のことだった。

 

 

 

 

雄英の実技試験と筆記試験から1週間。卒業式が近付くころ、雄英から手紙が届いた。

ハサミで切ると封筒の中には数枚の書類と空中投影器が入っており、投影器を起動させるとそこには見知った白い毛並みにつぶらな瞳。

 

「やぁ!犬かネズミか何者か、僕は雄英高校の校長さ!

動画とはいえ久しぶりだね、長谷川千雨くん」

 

どこかのバラエティー番組のようなセット背景に、根津校長が映し出される。

 

「長谷川千雨くん。早速だけど君の合否を伝えよう。

筆記は全5科目問題なし。

実技は敵ポイント40ポイント、そして、他の受験者を守ったことから審査制による救出活動ポイントで50ポイント!

合計90ポイントで、文句無しでの合格さ!」

「!」

「しかし!」

 

千雨は喜んだ瞬間に区切られた言葉で身を固める。

 

「―――しかし、一般入試の募集人員は36名ではあるものの…君は一般枠とはまた異なる、特別枠としての入学となるのさ!」

「…特別枠?」

「勿論、突然知らされた特別枠が何か気になると思う。

これはヒーロー公安委員会との取り決めでね。君の筆記と実技が合格点となる場合は、長谷川くんを特別枠として入学を許可して教育することとなっているのさ!」

「は?」

 

突然出てきた公安委員会の名に疑問を抱く。

 

「これは君を1人前のヒーローとして"教育"していくためのものであり、君自身を"守るため"の安全装置でもあるのさ。

君がもし全力を出してしまっても対応出来る人材が雄英にはある。それから他の生徒と区別するためだね。

だから一般合格枠は削らずに1枠増やしたのさ」

 

千雨は公安委員会の裏事情を知らないが、校長の言葉からある程度は推測出来た。

この世界についてまだ詳しくない千雨が将来ヒーローとなった際に困らないようにするため。

教師全員が千雨のストッパーであり、外からの壁となるため。

他の生徒と区別することで"個性"の隠蔽をスムーズに行うため。

千雨を守るためなのだということが伝わってきた。

 

「正直、僕としてはあまり気乗りしないけど…委員会もなるべく穏便に君の力を把握したいんだろうね。

研究対象として…フフフ…ハハハ…ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

「や、病んでやがる…!」

 

笑う校長の目はつぶらではあるが、光は無く濃い闇を纏っていた。校長の過去に何か有ったのだろうということが伝わってくる。

普通に怖い。

 

「…話が逸れてしまったね。

そういう訳で、君は晴れて特別枠として雄英のヒーロー科に入学が決まった。

おめでとう長谷川千雨くん、雄英で君の活躍を待っているよ!」

 

それからは制服や必要書類などの説明がされた。

改めて、手紙の中にある合格通知書を見る。合格の二文字は今日までの頑張りが認められた証。

しかし特別枠という言葉に、素直に喜べない自分もいた。

 

 








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