「王者シティをどう倒すのか?」――1つの答えを出したチェルシーとサッリの名采配

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(C)Getty Images
「どうしたらシティに勝てるのか?」――前日会見でそう聞かれたサッリは答えをはぐらかしたものの、その頭の中にはしっかりとイメージがあった。チェルシーはなぜ無敗の王者マンチェスター・シティを破れたのだろうか?

■王者シティの猛攻に耐え忍んだ前半45分間

「どうしたら、マンチェスター・シティに勝てるのか?」

前日会見でそう質問されたチェルシーのマウリツィオ・サッリ監督は「私はペップ・グアルディオラに勝ったことがないからわからない。他の人に聞いたらどうだい」とはぐらかすだけだった。

しかし、頭の中にはちゃんとイメージがあったようだ。王者相手に、劣勢に立たされることは想定済み。それでもしっかりと守備ブロックを構築して耐え忍び、“蜂のひと刺し”でカウンターを一閃――。プレミアリーグ第13節でトッテナム(1-3)に、さらに直近の第15節でウォルヴァーハンプトンにも敗れて(1-2)勢いを失いかけていたチェルシーだったが、指揮官が授けた「勝つための方法」を選手たちが見事に実行し、本拠地スタンフォード・ブリッジでペップ・シティにプレミアリーグ22試合ぶり、今季初の黒星をつけてみせた。

何しろシティが相手だったから、サッリにも「確信」と言えるほどのものはなかったはずだ。実際、前半は策も何もあったものではないくらい押されていた。シティのハイプレッシングに苦しめられ、特にマルコス・アロンソが守る左サイドは、ポジションを変えながら交互に仕掛けてくるリヤド・マフレズとラヒーム・スターリングに翻弄された。逆に自分たちのハイプレスはどこかハマらず、アイメリク・ラポルテに効果的な縦パスを許し、中盤でのボールロストも多く、チェルシーは大半の時間で攻め込まれた。正直、ホームチームにとって薄氷を踏むような試合運びだったのは間違いない。

しかし、それでも耐えに耐えて前半終了間際の45分、自陣ボックス付近からダヴィド・ルイスが放った正確無比なロングフィード一発でチェルシーは活路を開く。ボールは右サイドを走るペドロにピタリと収まり、ペドロはさらに素早くサイドチェンジを左のウィリアンに通した。折り返しを一度は跳ね返されるも、こぼれ玉を拾って2次攻撃につなげると、最後はエデン・アザールのラストパスをエンゴロ・カンテが右足で叩き、チェルシーはこの試合最初のシュートでネットを揺らすことに成功したのだった。

■後半、姿を現したサッリの「シティ対策」

N'Golo Kante Chelsea 2018

ハーフタイム突入直前の先制ゴールで随分と落ち着いたのか、後半に入るとサッリの“狙い”がいよいよ色濃く反映される試合展開になった。注目すべきはチェルシーの守り方である。この日、形こそいつもの「4-3-3」だったが、サッリはオリヴィエ・ジルーをベンチに、アルバロ・モラタをメンバー外にして、アザールを1トップに据えていた。そして、得意のハイプレスではなく両ウイングのペドロとウィリアンを中盤まで下げた実質「4-5-1」の形で、ミドルゾーンより後ろにブロックを敷いて構えたのだ。

特に際立ったのが「5」の動きだった。シティの4バックがボールを持つと、まずは最前線のアザールがアンカーのフェルナンジーニョへのパスコースを切る。続いて中盤の「5」からボールホルダーに最も近い選手が急速なスプリントで前に出てプレッシャーをかける。残った4枚はスライドして横の距離感を適切に保ち、それに呼応して4バックも縦の距離感を縮め、シティのインサイドハーフ(ダビド・シルバとベルナルド・シルヴァ)を閉じ込めるようにして中央を締めるのだ。

チェルシーはこの陣形と動き方によってシティのパス出しをサイドへと誘導していった。中央を使わせてもらえず、かといってウイングのドリブル突破も徹底的にケアされたシティは、4バックと両ウイングを行ったり来たりする「Uの字型」、つまり外回りでしかパスをつなげない状況に陥った。これこそ、サッリが選手たちに授けたシティのビルドアップ封じだった。

■策士サッリが初めて見せた「イタリア人の顔」

2018-12-08 Maurizio Sarri

かたやシティは、決してクオリティが低かったとは言えないものの、やはり欠場したセルヒオ・アグエロ、ケヴィン・デ・ブライネと決定的な仕事ができる“クリエイター”の不在を痛感させられるゲームとなった。彼らがピッチにいれば、前半に訪れていたいくつかのチャンスを得点に結びつけ、その後の展開も変わっていたかもしれない。

また、68分にD・シルバが負傷交代を強いられたのも痛かった。前述したチェルシーの“インサイド封じ”を真っ向から打ち破る手があるとすれば、それはポジショニングセンスに優れたD・シルバがいわゆる「ライン間」でうまくボールを受けてチェルシーの守備ラインをずらすことだったが、後半の勝負どころでシティは彼を失った。そしてD・シルバ離脱から10分後、78分にチェルシーはこの試合初めてのCKのチャンスを生かし、D・ルイスがヘッドを決めて2-0。ダメ押しの追加点で、試合の行方は完全に決した。

かくしてシティに初めて土がついた一戦で、改めて思い知らされたのは、サッリという監督がやはり“守備の国”イタリアからやってきた男だったということだ。ここまではポゼッションベースの攻撃的フットボールを掲げる姿を見せてきたわけだが、この試合で披露した美しい守備ブロックとラインの構築、ポゼッションを放棄して有効な策を打つ姿は、イングランドに来てから初めて見せた“別の顔”だった。

そして、指揮官の期待に応えるように、またスタイルは変わってもチェルシーの強さの真髄は守備にあると示すかのように、身体を張ってファイトした選手たち。アザールは体格のハンデをものともせずに前線でボールを収めていたし、ミドルゾーンでのプレッシングの急先鋒になったカンテはゴールシーンを除いてもマン・オブ・ザ・マッチ級の活躍だった。この試合が公式戦300試合目だったセサル・アスピリクエタもまた、その身を投げ出して相手のシュートをブロックしてファンを沸かせた。

「チームのスピリットに大変満足している」

サッリは試合後にそうコメントしたが、特に後半のチェルシーには「王者の首を取る」という気概が溢れていた。指揮官の名采配と、戦術を凌駕するほどの闘争心。この2つがそろったチェルシーがシティを破ったことで、リーグ無敗のチームはリヴァプールだけになり、絶対王者シティがとうとう首位の座を明け渡した。勝った4位のチェルシーも首位とのポイント差は「8」で、3位トッテナム、5位アーセナルとともにまだまだ優勝争いも射程圏内だ。

年末年始の連戦に向けて、混戦模様のプレミアリーグがさらに面白くなってきた。

文=大谷駿(ライター)

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