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経営者にとってパソコンは“過去の遺物”

 このように書いてきたが、「理屈はその通りとはいえ、デジタルの時代なのだから、経営者もせめてパソコンぐらい使えるようになってよ」と言いたくなる気持ちは分かる。「グローバル化の時代なのだから、経営者もせめて英語ぐらい話せるようになってよ」と言いたくなるのと同じだ。英語が苦手だからといって、経営者としてダメというわけではない。しかし、パソコンも英語も今やビジネスのツールなのだから、使いこなせるのに越したことはないのは確かだ。

 そんな嘆きを口にする人には朗報がある。英語の件はよく分からないが、少なくともパソコンを使ったことのない経営者はまもなく絶滅する。日本の大企業の社長や会長は60代、70代の人が多い。学生時代、あるいは若手ビジネスパーソンだった頃には、まだパソコンは存在していなかった。日本企業にパソコンが広く普及し出したのは1990年代前半から半ばだから今の経営者は既に管理職になっていた。パソコンを使う必要性に迫られず、ここまで来た人がいても不思議ではない。

 ただ中堅中小企業では、若い頃からパソコンを使いこなしてきた経営者が増えている。中堅中小企業では新社長の年齢が50代半ばのケースが多いからだ。今、1960年代生まれの人が50代半ばを超えつつある。この世代は、若い頃にナマのコンピューターに直接触れた最初の世代だ。NECのベストセラー「PC-9800」が登場したのが1982年。その数年前から8ビットPCが出回っていたし、理系学生なら「ミニコン」と呼ばれた小型コンピューターでプログラムを組んだ人も多い。

 この1960年代生まれの人がまもなく60代に達する。そんな訳なので大企業においても、若い頃からパソコンを使ってきた人が経営者の多数派を占めるのは、そんな先の話ではないのだ。ただし冒頭に書いた通り、今どきの経営者はパソコンを使える人であっても、パソコンをほとんど使わない。いや、全く使わない人もいる。情報を活用したい経営者からすれば、パソコンなんぞは起動が遅く持ち運びに不便な“過去の遺物”である。

 では何を使うのか。スマートフォンやタブレットに決まっているではないか。経営者は常に忙しく、いつでもどこでも意思決定しなければいけないから、軽くて持ち運びやすくすぐに起動するスマホやタブレットを愛用する。デジタルの時代に経営者に求められる情報リテラシーは昔と変わらない。先ほどの大臣と同様、意思決定に必要な正確な情報をタイムリーに入手して、正しい意思決定を下す能力だ。ただし、そのためのツールはパソコンでは時代遅れなのだ。