こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。カズレーザーさんは学生時代から私の本をチェックしてくれてるそうです。やっぱり勢いのある人は本を選ぶセンスもいいですね。きっと宇治原さんは、私の本を読んでないんじゃないかなぁ……
さて、今月もWeb春秋の連載『
会社苦いかしょっぱいか』が更新されました。
今月のテーマは都会の会社員とは切っても切れない通勤電車。鉄道にまったく興味がない私ですが、今回いろいろ調べたおかげで、むかしの鉄道文化にちょっと詳しくなりました。
あ、そういえば先日、電車で化粧する女性は大正時代からいたとツイートしたところ、多くの反響がありました。そのなかに、大正時代に電車に乗るのは一部の上流階級だけだったのだろう、なんて意見がありましたけど、そんなことはないですよ。大正時代には、電車や市電が庶民の足として欠かせないものになってました。
そして、現在電車でのマナー違反とされる行為はほぼすべて、戦前からあった――あったどころでなく、いまよりマナーがヒドかったことを証明する史料がさらにたくさんみつかりました。
大正3年の『実業の日本』に、銀座の輸入商かなにかに勤めるサラリーマンが、通勤電車の人間模様を「通勤日誌」として連載しています。乗客同士のケンカもよくあるし、車内禁煙なのにタバコを吸う人もいます。
この筆者が知り合いの英国人と乗り合わせたときのこと。乗客がたくさん立ってるというのにまたを広げて我が物顔に座っている男がいました。英国人は筆者に英語で話しかけます。あんな不作法な男はイギリスにはいないよ。武士道の日本人がこれでは呆れるね。
英国人は車内の掲示を指さして、あれはなにが書かれてるのかと問います。あれは、飛び乗り乗車をするな、キップを丸めるな、など、乗客への注意書きだと教えると笑い出します。「まるでキミの国の市民は小学校のこどもか幼稚園の小さいのだな」。かなり辛辣な罵倒に筆者は、彼が英語で話してくれてよかった。日本語だったら問題になったと冷や冷やします。
昭和5年刊の『ラッシュアワー展望』は東京駅の元助役が書いた鉄道エッセイなので、具体的なエピソードが盛りだくさん。当時からキセル、つまり不正乗車の被害額が莫大なものになっていたそうです。世界各国の鉄道と比べてみても、公徳心・道徳観念の希薄なことは日本人がもっとも著しいと嘆きます。
若い駅員に「きみ」と呼びかけられた男が、私は代議士だ! 駅夫風情が私にキミとは失敬じゃないか! と駅事務室にねじ込んできます。応対した助役が事情を聞くと、電車が完全に止まる前にホームに飛び降りて転んだところに若い駅員が駆け寄り、キミ、どうかしましたかと声をかけたというんです。駅員は親切にしたのにねえ。
なんとか頭を下げて帰ってもらったものの、助役は「代議士がそんなにエライものなのか」と憤るのでした。
要するに、タチの悪いクレーマーも、マナー違反者も、100年前からたくさんいたんです。日本人の道徳心や恥の意識が劣化したなんてことはありません。むしろ少しましになったくらいです。