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モラルをゆさぶられるゲーム

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。
 インモラル(不道徳)な要素があるドラマや小説に惹かれます。自分のなかのモラルをゆさぶられないと、ものたりないんです。
 べつに悪を美化したり、勧めたりするつもりはありません。ヤクザ映画や不良映画は嫌いです。ああいうのはパターンが決まり切ってるから、なにもゆさぶられるものがなくてつまらない。
 私は自分のことを善人とも悪人とも思ってません。だれもが両方の要素を抱えてるのだから、いい人、悪い人という区別はそもそも無意味です。いい人がいいことばかりしてるわけじゃないし、悪い人が悪いことばかりしてるわけでもない。
 たとえば、戦争をやってるのは全員悪人なんですか? 70年前の日本人は全員悪人だったから戦争をしたのですか? ちがいますね。善人が人を殺すのが戦争なんです。人は、善意で人を殺せるんです。
 その事実から目を背け、自分は善人だから加害者になるはずがないと思いこみ、善意を振りまけば悪や不道徳を排除して浄化できると信じている「あたまの悪い善人」こそタチが悪い。先日のツイッターでの発言を補足すると、こんな感じです。
 自分のなかの善悪の概念やモラルの基準をゆさぶられ、心にしこりが残るような物語にこそ価値があると私は思ってます。どこかで書いたと思うけど、感動は人を成長させないんです。感動は自分の価値観の正しさを肯定してるだけだから。

 そんなわけで、これまでも善悪やモラルをゆさぶられた秀作を紹介してきました。人間の善意や人情を全否定した『木枯し紋次郎』。人間の悪意があぶり出され、イヤな後味を残す痛快でない時代劇。いま地上波で夜の8時9時台に放送したら、こどもの教育に悪いからやめろ、と苦情が来るレベルの内容です。
 マジメな化学教師が麻薬製造と裏社会のパワーゲームにハマってしまう『ブレイキングバッド』。泣けるドラマの定番である難病ものを利己的な視点から描いた『プラトニック』などなど。
 そして昨年、またモラルをゆさぶられる秀作に出会いました。ゲームの『ダンガンロンパ』。どうやら私の親指はアクションゲームに未対応なようなので、ゲームは3DSの逆転裁判シリーズみたいな推理アドベンチャーしかやりません。それで前々から『ダンガンロンパ』の評判を耳にして気になってはいたんです。でもそのためだけにVITA買うのはなあ、と二の足を踏んでたのですが、電器店のポイントが数千円貯まってたんで思い切って買っちゃいました。
 普通におもしろい推理ゲームだろうって予想は、いい方向に裏切られました。ゲームでここまでやれるんだ、やってもいいんだ、と。
 隔絶された校内(パート2は無人島)に閉じ込められた生徒たちが仲間を殺せば脱出できるというところまでは小説・映画の『バトルロワイヤル』と似てますが、『ダンガンロンパ』はさらにひねりを加えてます。だれかが殺されると他の生徒たちで捜査をして、裁判で犯人を追及するんです。犯人はその裁判を逃げ切れば脱出できるけど、犯行が暴かれて有罪になると死刑にされてしまいます。その死刑がけっこうエグくて引きますよ。しかも死刑執行人、いや、執行するクマの声がドラえもんの大山のぶ代さんなんだから、製作陣の悪意がみなぎってます。
 捜査の途中で、好きな生徒と一緒にすごして親密度を上げる自由時間なんてのもあります。が、これも悪魔的な罠で、その仲良くなった生徒が次の章では殺人犯になったりするんです。プレーヤーは当然事件を捜査し裁判にかけます。お気に入りの仲間が犯人だとわかります。彼・彼女を有罪にすれば死刑です。プレーヤーに感情移入させておいて突き落とすだなんて、イジワルですねえ。正義とはなんなのか。なんのための正義なのか。相当ゆさぶられるはずですよ。
 しかも、これがとても人気があって、アニメにもなってるそうじゃないですか。このインモラルな物語のおもしろさがゲームファンやアニメファンから認められてるとわかり、日本の将来はまだまだ捨てたもんじゃないな、と安心しました(おおげさだな)
 だったら、『木枯し紋次郎』の親子愛すら否定するハードボイルドな世界観をそのままに、主人公キャラを妖刀を持つ女渡世人にでも変えてアニメにしたら、紋次郎を知らない世代には新鮮でウケるかもよ? どうですか、この企画。
[ 2016/02/08 22:26 ] おすすめ | TB(-) | CM(-)
プロフィール

Author:パオロ・マッツァリーノ
イタリア生まれの日本文化史研究家、戯作者。公式プロフィールにはイタリアン大学日本文化研究科卒とあるが、大学自体の存在が未確認。父は九州男児で国際スパイ(もしくは某ハンバーガーチェーンの店舗清掃員)、母はナポリの花売り娘、弟はフィレンツェ在住の家具職人のはずだが、本人はイタリア語で話しかけられるとなぜか聞こえないふりをするらしい。ジャズと立ち食いそばが好き。

パオロの著作
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会社苦いかしょっぱいか

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