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流行語と気づかず使われてる流行語

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。
 流行語大賞は「爆買い」「トリプルスリー」でした。私が先月のブログ記事で検証した新聞記事検索による結果とかぶってまして、案外、常識的な線で選ぶものなんですね。
 それでも「トリプルスリー」には疑問の声があったようです。野球をまったく見ない私も候補になるまでこの言葉を知らなかったのですが、新聞検索の結果では昨年度からの増加率で第3位でした。よく使われてたことはまちがいないようです。

 文化史を研究していると、じつは新語・流行語だったのに、あまりにも馴染んでしまったために、流行語と思われてない言葉があることに気づきます。そういった例を、私はこれまでの著書でいろいろ取りあげてきました。これでも私は、日本文化史にも日本語学にもいろいろ貢献しているんですよ。
 近年ですと、1999年に突如登場した「クレーマー」。それまでは業界内でしか使われてなかった専門用語だったのに、東芝クレーマー事件のせいでまたたくまに広まり、一年たらずで定着してしまいました。なのに、なぜか流行語大賞の候補にすらなってません。
 『反社会学講座』では、70年代後半から80年代にかけて爆発的に使われるようになった「ふれあい」に着目。日本中の公園や施設の名前が「ふれあい」だらけになるという異常事態が起きたのに、多くの人は気にもとめません。
 さらにいうと、ふれあいは2006年ごろから「絆」にシフトして関係強化を図る傾向が見られます。あっちを向いてもこっちを向いても絆、絆、と絆の押しつけ。気持ち悪いですね。
 『続・反社会学講座』では、80年代後半のグルメブームをきっかけに定着した「こだわり」を調査。これはむかしからある言葉だけど、本来とは真逆の意味で(「真逆」も近年の流行語ですね)定着した珍しい例です。
 もともと「こだわり」は負のイメージでしか使わない言葉でした。こだわってはいけなかったんです。ところがいまやすっかり、ほめ言葉。
 というと、日本語に詳しい人なら「がんばる」と同類だな、と指摘するでしょう。そう、「がんばる」も本来は、「自分勝手な主張をして和を乱す」みたいな意味で、批判的な文脈で使われることがほとんどでした。

 ここ10年でもっとも流行した言葉はなにかといわれたら、まちがいなく「安全・安心」でしょう。この言葉は『「昔はよかった」病』で取りあげましたけど、役人、政治家から企業、学校、町内会まで、まさになんとかのひとつおぼえで「安全・安心」を呪文のように唱えまくってます。
 「安全・安心」ときれいごとを唱え、厄払いでもしたつもりになってるのだから、なんとも日本人はおめでたい。
 ためしに、なにか不祥事を起こした企業のサイトで、「安全・安心」がどれだけ使われているか数えてみてください。今年話題になった欠陥マンションの工事業者や販売業者のサイトでも、「安全・安心」という言葉はやたらと使われてます。震災前は原発関連の事業者も「安全・安心」を好んで使ってました。
 でもホントのところは、ちっとも安全でも安心でもありません。「安全・安心」という言葉は、なにも保障してくれてないのです。
 逆にいうと、具体的になにもしてなくても「安全・安心」と口にするだけで、コストもかからず、いかにも二重三重に安全対策をやっているかのようなふりをすることができるのだから、これほど便利な言葉はありません。流行るわけです。
[ 2015/12/06 23:07 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)
プロフィール

Author:パオロ・マッツァリーノ
イタリア生まれの日本文化史研究家、戯作者。公式プロフィールにはイタリアン大学日本文化研究科卒とあるが、大学自体の存在が未確認。父は九州男児で国際スパイ(もしくは某ハンバーガーチェーンの店舗清掃員)、母はナポリの花売り娘、弟はフィレンツェ在住の家具職人のはずだが、本人はイタリア語で話しかけられるとなぜか聞こえないふりをするらしい。ジャズと立ち食いそばが好き。

パオロの著作
歴史の「普通」ってなんですか?

世間を渡る読書術

会社苦いかしょっぱいか

みんなの道徳解体新書

日本人のための怒りかた講座

エラい人にはウソがある

昔はよかった病

日本文化史

偽善のすすめ

13歳からの反社会学(文庫)

ザ・世のなか力

怒る!日本文化論

日本列島プチ改造論(文庫)

パオロ・マッツァリーノの日本史漫談

コドモダマシ(文庫)

13歳からの反社会学

続・反社会学講座(文庫)

日本列島プチ改造論

コドモダマシ

反社会学講座(文庫)

つっこみ力

反社会学の不埒な研究報告