こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。
私が遭遇した異物混入事件。
数年前のことですが、ある中華料理店で。運ばれてきた料理の皿に目をやると、皿の縁になにやら小さな白い物体が載ってました。なんだろうと目をこらすと、これはどうみても、歯、です。一瞬、信じられなかったのですが、やはり人間の歯、とおぼしきものがひとつ、皿の縁に載ってました。
すぐにウエイターを呼びました。「これ、なんですか?」
ウエイターはその歯とおぼしき物体をひょいとつまむと、厨房へ下がりました。
数分後、戻ってきたウエイターがいいました。
「あれは、片栗粉のカタマリです。中華料理は片栗粉よく使うんですよ」
「へえ……そう……」
私はこれっぽっちも信じてませんよ。だけど、あまりに予想外のいいわけをされたことで意表を突かれ、怒ることも忘れてしまいました。
そのあとどうしたか? 普通に料理を食べて、もちろんお金も払って帰りました。料理のなかに歯が混入していたらさすがに食べませんけど、皿のはじに載ってただけですから。料理自体は、その店はけっこう本格派の中華でおいしかったし。
謝罪の言葉などはまったくなかったし、私もべつに謝罪を求めませんでした。
でもさすがに、それ以降足を運ぶことはなくなりましたね。風のウワサに、昨年閉店したと聞きました。
最近、異物混入事件が立て続けに報道されてます。いつものことですが、報道の受け止めかたには注意してください。
去年、新潮45の連載でも書きましたけど、犯罪自体はむかしに比べて激減してるのに、犯罪報道の件数は減らずに高止まりしているから、治安は一向に改善されてないと誤解してる人が多いんです。
それと同じで、報道が急に増えたからといって、異物の混入が最近急増したとはかぎりません。むしろ常識的に考えれば、製品に異物が混入していた確率は、製品検査や衛生管理がゆるかったむかしのほうがはるかに高かったはずです。
たとえば、スーパーで売ってるシラス干しって、いまは徹底的に異物が取り除かれてます。でもそれってわりと最近の傾向じゃないですか。以前はタコの赤ちゃんとか小魚みたいのがときどき混じってましたよね。
だけどむかしの人は文句いわなかったじゃないか? そう断定するのは早計です。
なにに関しても、むかしから苦情をいう人はけっこういました。明治大正昭和の新聞には、さまざまな苦情を訴える投書が山ほど載ってます。それこそ、火の用心の夜回りがうるさいとか、こどもがうるさいだとか、いまにはじまった話じゃないんです。100年前の人もやっぱり文句いってました。戦前にも、商店向けの苦情対応マニュアル本が何冊も出版されてたくらいです。
異物混入事件も例外ではないでしょう。むかしから苦情は一定数あったけど、それは客とメーカー・販売店とのあいだで処理されて、表ざたにはならなかった。あるいは、苦情をいっても相手にされず、泣き寝入りを強いられた。
いまはネットなどで拡散するから、苦情が表面化しやすくなっただけのこと。むかしの人は寛容、いまの人は不寛容、なんて根拠のない印象論で決めつけないでくださいね、コメンテーターのみなさん。
[ 2015/01/15 17:52 ]
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