2014年のよかったもの
音楽編
今年はジャズギターをよく聴いた一年でした。今年の新譜だけでなく、ここ1、2年に出たジャズCDで印象に残ったものを選ぶと、なぜかギターの秀作が多かったということで。
なかでもベストは、ピーター・バーンスタインのライブ盤。ベテランの余裕が音色にもあらわれてます。売り出し中の若手みたいにガツガツ弾いたりしません。オーソドックスなスタイルなのに、個性が確実に感じられる手練れの技。リーダー作だけでなく、サポートメンバーとしても一流。ソニー・ロリンズとジミー・コブの盤でも光ってました。
日本のポップス・ロックでは、ゲスの極み乙女。あとは、LUHICA「君と踊ろう」。女性版尾崎紀世彦か? 歌声だけ聞いて、20代後半くらいの苦労人を想像してたら、まだ高校生だっていうじゃないですか! 早くアルバム出さないかな。
映画編
(私はほとんどの映画をWOWOWで観るので、劇場公開から一年遅れです。)『嘆きのピエタ』いつものキムギドク監督作品。心身両面に”痛み”を伴う作風なので、生半可な気持ちで観ないように。韓流ブームが沈静化したいまだからこそ、キムギドクのような本物がもっと評価されてほしいですね。
『俺たちニュースキャスター 史上最低の……』忘れたころにやってきた続編。いい歳こいたオトナたちが徹頭徹尾バカをやり倒すバカ映画。だけど、愛国バカをコケにするあたり、アメリカの諷刺精神は死なず。
ドラマ編
今年おもしろかったもの。順不同。
『プラトニック』
(NHKBS)『MOZU』
(TBS)『ごめんね青春!』
(TBS)『ブレイキングバッド』
(海外)『アンダーザドーム』
(海外) でも、今年もっともこころに刺さったのは、名作ドラマの再放送でした。
人間の善意や人情を全否定する、マカロニウエスタン・ハードボイルド時代劇『木枯らし紋次郎』
(BS-TBS)。
そして、『男たちの旅路』
(NHKBS)。山田太一脚本作品には、強いヒーローやリーダーが出てきません。立派そうな人物も、みんな、こころの歪みや弱さを抱えています。
鶴田浩二が演じた警備会社の司令補もそう。特攻隊の生き残りで柔道の達人。なのに、血気盛んな若いガードマンたちに、決して犯人と争うな、自分の弱さを知れ、ときびしく釘を刺します。自分が強いと思ってるヤツは、必ず大ケガをしたり死んだりするのだ、と。自分の弱さを自覚している者にしかいえない言葉です。
ところが、この人もしばしば頭に血が上り、犯人をとことん追いかけて取り押さえたりしてしまうんです。矛盾した人なんです。しまいには、年の離れた部下と恋仲になったものの、その彼女の死に耐えきれず、会社を辞めて失踪してしまいますし。
彼らガードマンが関わる事件も、やりきれないものばかり。社会正義っていったいなんなんだ。一筋縄ではいかない現実を考えさせられます。
70年代には、こういう、常識的な倫理道徳に刃を向け、ありきたりの正義に疑問を突きつけるようなテレビドラマが制作されて、視聴者からも支持を受けてたんですね。見終わったあとになにかザラっとしたものが残り、考えさせられるドラマが評価されていたんです。
ところがいまやどうですか。世間の常識にツバをかけるような作品を放送したら、テレビ局だけでなくスポンサー企業にまで苦情が来てしまいます。視聴者がなにも考えなくていいような作品ばかりが増えてます。視聴者をとまどわせてはいけません。正義と悪は最初から決まっているのです。
だから私は、『三匹のおっさん』を酷評したんです。あのドラマのおっさんたちは、おのれの正義になんの疑問も持たず、自分で正義の味方を名乗ってしまいます。呆れた馬鹿さ加減。しかも悪いヤツは悪いから暴力でやっつけてかまわないと考えてる。彼らが悩むことといったら、家族から軽んじられているとか、その程度のことでしかありません。自分らの正義について悩んだり迷ったりすることはありません。
ぞっとしますね。異常者が正義を名乗り、正義を押し売りし「健全」な社会の実現を目指すおぞましい作品です。いずれ彼らにとっては、クレーマーやモンスターペアレントや町内の和を乱す人間も、すべて排除の対象となるのでしょう。個々の人間の事情などおかまいなし、対話も議論もすることなく、自分と異なる正義を主張するものはすべて悪とみなし成敗し、自分は家に帰って家族団らん。
ドラマはフィクションなんだから、そんなことに目くじら立てなくてもいいじゃねえか? もちろんです。ただ、その代わり、不愉快な倫理観を描くドラマもいいじゃねえか、と認めなければいけません。
でも実際には、そういうドラマに苦情が殺到して、スポンサーが降りたりする例が起きてますよね。そのへんの釣り合いはどう取るのですか。
現在の日本人が、正義を考える能力に関しては、70年代よりも劣化してしまったのだとしたら、とても残念です。