こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。以前からくるみが好きで、毎日のようにポリポリ食べているのですが、先日買いに行ったら、どこもみんな売り切れ……? ヘンだな。検索したら、先月テレビでくるみが健康にいいと放送したところ、突如バカ売れし、品切れ状態だそうです。
以前からこの手のにわか食品ブームはいろいろありましたけど、まさか自分が普段から食べているもので被害に遭うとは。急にくるみ食ったからってすぐに健康になんかなるわけないのに、マスコミの煽りの力ってコワいな、とあらためて実感しました。
マスコミの煽りといえば、やはり『美味しんぼ』の件。風評被害をもたらしたと、『美味しんぼ』と掲載誌のスピリッツがやり玉にあげられてるけど、風評被害をもたらしたのは、あの件をおおげさに煽り立てたマスコミですからね。そこはきちんと押さえておかないとダメですよ。まあ、またひとつ、メディアリテラシー教育のいい教材ができたかなって感じですけど。
ていうか、風評被害は出てるんですか? 『美味しんぼ』を見た保護者の反対で、福島の旅館に宿泊予定だった数百名の学校団体客がキャンセルしたという報道も、誤報だったみたいですし。
そもそもみなさん、『美味しんぼ』の影響力を過大評価してますよ。今回の報道でまっ先に私が思ったのは、「まだ『美味しんぼ』の連載って続いてたんだ!」
みんな、そんなもんでしょ? 私と同じ感想を持った人がほとんどだったのでは? いま、マンガ週刊誌を毎週買ってる人って、そうとうマンガが好きな人だけです。むかしは通勤通学の電車でマンガ雑誌読んでる人がたくさんいましたけど、いまはあんまり見かけません。
今回の件を批判してる人たちのほとんどは、『美味しんぼ』を読んでませんよね。マスコミの報道だけに反応して、批判をしてるんです。
マスコミがおおげさに報道しなければ、今回の件はほとんどの人が知らずに終わっていたはずなんです。作者のかたには悪いけど、いまや『美味しんぼ』の影響力なんて、たかがしれてます。かりに今後風評被害が生じたとしても、それは『美味しんぼ』のせいでなく、マスコミが針小棒大に報道したせいです。
というわけで19日の午前中に、マンガ喫茶に行ってみました。ラッキーなことに、スピリッツの最新号とバックナンバーが棚に揃ってます。
何年ぶりかなあ、スピリッツを読むの。24、5年前には、『伝染るんです』目当てにときどき買ってたんですけどね。その吉田戦車さんに自分の本の表紙イラストを描いてもらえるだなんて、夢にも思いませんでした。『じみへん』もまだ連載してるのかっ! 懐かしいなあ……って、ひたってないで、『美味しんぼ』を読みます。
結論からいうと、みんな騒ぎすぎ。たしかに放射能で鼻血が出るメカニズムの説明とかはかなり怪しくて納得できません。でも、福島の応援をしたいという作者の気持ちが強くある上で、福島には住めないかもしれないぞ、みたいなきわどいメッセージも出てくるわけですから、全体としてはそんなに悪い印象は受けませんでした(マンガとしておもしろいかといわれたら、正直、つまらないけど)。
真偽はともかく、この程度のネタなら以前からずっと流布してます。いまさら驚くことでもないでしょう。逆にこの程度の主張で発禁や自粛や謝罪に追い込まれたら、それこそ表現の自由にかかわる大問題です。
このマンガをなんの先入観もなく読んだとしたら、多くの人は、そういう意見もあるよね、くらいに受け流してたはずです。ところが「こんな偏ったマンガがあるぞ!」という文脈でマスコミが報道をしたから、自分の頭で考えない、テレビを信じてすぐにくるみを買いに走るような人たちが、影響されたんです。
ついでに、原発をネタにしてた『白竜レジェンド』も読んでみました。震災と原発事故を受けて休載したことは知ってたのですが、ちゃんと単行本になってたんですね。ちなみに私はこのマンガを読むのははじめてです。とてもわかりやすい任侠マンガなので、予備知識はなくても大丈夫でした。
こっちのほうが絶対アブナい話ですよ。電力会社と警察がグルになって悪いことしてるし。原発科学者にヤクザの白竜が接近しようとしてることを知った電力会社の幹部のセリフ、あの2人が組む危険性は「核融合に匹敵するっ!」には吹き出してしまいました。
[ 2014/05/19 20:35 ]
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