こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。12日に池袋ジュンク堂と新宿紀伊國屋をのぞいてきました。『偽善のすすめ』は人文書フロアに平積み、面展示してありました。ありがとうございます。おそらく、全国書店で発売中ですので、みつけたら手にとってパラパラとめくってみてください。もちろん、ネット書店でも発売中ですので、よろしくお願いします。
さて、ちょっと遅ればせながら、波平トリビア。
原作マンガの『サザエさん』では、波平は一度も「バカモン」といってない。
2、3年ほど前に、朝日新聞社から出てる『長谷川町子全集』で確認しました。「バカもの」は1回だけいってます。
この調査の詳細については、拙著『怒る!日本文化論』に書いてあります。私の見落としがないとはいいきれませんので、疑り深い人、なおかつヒマな人は、ご自分で全集を確認してみてください。
ただしサザエさんには、新聞には載ったけど単行本には収録されなかったネタが700本くらいあるそうなので、そこまで確認したら、「バカモン」がみつかるかもしれません。ヒマを持てあまして死にそうだというかたはチャレンジしてはいかが。もしもみつけたら、教えていただけるとうれしいです。
マンガのサザエさんは世相諷刺を軸にした王道の新聞4コママンガです。同時代をスパイシーに切り取っていて、昭和ノスタルジー幻想みたいな甘ったるい感傷はありません。
波平も別人です。マンガでは、おっちょこちょいで頼りないお父さん。この父にして、この娘(サザエ)あり、というのがよくわかります。家でも会社でも尊敬されないイジラれキャラだけど、なんか憎めない。
大多数の父親は、そんなもんです。エラくはないけど、家族に嫌われるほどでもない、平凡な人。
それがアニメでは、厳格で立派な父親像を演じさせられてますよね。アニメ制作者のコンプレックスがもろに出てて気持ち悪い。
誤解してる人が多いんです。エラい父親、立派な父親、厳格な父親ならこどもから尊敬されると思ってるようだけど、それはうっとうしいから距離を置かれてるだけなんです。
「バカモン」も「左様」もいわず、万年平社員で、しばしばカツオにからかわれてる原作の波平のほうが、リアルに人間くさくていいじゃないですか。
父親なんてのは、ちょっとダメなくらいでちょうどいいんです。ダメだけど見栄はってることを家族には見透かされてる、くらいでね。ふだん尊敬も感謝もされなくても、葬式のときに、いいお父さんだったねと家族にいってもらえれば、それでいい。
アニメの波平は立派すぎます。いいひとすぎます。ファンタジーなんです。あんなありえない父親像を理想だと誉め称えている人たちこそ、なんか恐いなと思ってしまいます。
サザエさんのアニメはPTA推薦、クレヨンしんちゃんはPTA非推薦、みたいな図式が定着してますけど、長谷川町子さんがもし生きてたら、クレヨンしんちゃんのほうをきっと推薦してたでしょう。
[ 2014/02/14 19:24 ]
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