こんにちは、今年もついに花粉症の季節に突入したパオロ・マッツァリーノです。私は日本でおなじみのスギではなく、西洋人に多いとされるカモガヤの花粉症なので、周囲の人たちが終わったころに花粉症がはじまるのです。
そんな私の今期地上波イチオシドラマは『雲の階段』。ひさびさにドロドロの愛憎劇にはまりそうです。
でまた有料放送のWOWOWなんですが、やっぱりいいものはいいので。だから20年近く加入してるので。べつにステマとかいうのではないので。先日放送された、高村薫原作の連ドラ『レディ・ジョーカー』は圧巻でした。じつは私、高村さんの小説とは相性が悪く、読了したことがありません。『マークス』『黄金を抱いて』『李歐』、どれも序盤だけ読んで興味が持てず投げてしまいました。
だから『レディ・ジョーカー』のドラマも期待度ゼロでなんとなく見たのですが、社長役の柴田恭兵さん、刑事役の上川隆也さん、犯人役の豊原功補さんの演技がぶつかりあう、男臭さ120パーセントの骨太ドラマに仕上がってました。見逃さないでよかった。
もう一本、それと入れ違いのようにはじまったアメリカのドラマ『ニュースルーム』にも、毎週うならされてます。テレビ局のニュース番組制作現場を描くドラマなのですが、ケーブルテレビ局制作なのでスポンサーの顔色をうかがわなくていいのが強み。
ティーパーティー運動は初期には中流市民の不満を代弁していたが、いまや急進的右翼に乗っ取られてしまっただとか、それに大量の資金を出してるのが大金持ちの実業家コーク兄弟だとか、劇中で実名批判をバリバリやってしまうんです。
アメリカの良心はまだ生きているぞ、って感じ。むかしのアメリカには、『アラバマ物語』とか『スミス都へ行く』とか、理想主義を掲げる映画がたくさんあって、感銘を受けた気がするんですがねえ。
ドラマ以外のめっけもんが、NHKEテレ(この呼びかた、慣れないな)の『バークレー白熱教室』。
私はこのシリーズ、マイケル・サンデルさんのも含めてこれまでまったく未見でした。今回、エネルギー問題を扱うということで、はじめて見ました。
講義をしてるのは、カリフォルニア大学バークレー校の物理学者ムラーさん。「地球温暖化の真実」という回がおもしろかったです。
なにがおもしろいって、ムラーさんがホンモノの懐疑論者だったからです。じゃニセモノはなにかというと、日本で温暖化懐疑論を唱えてる科学者の連中。あいつらみんな、ニセモノです。懐疑論者でもないし、科学者としての資質もかなり疑わしい。
ムラーさんは当初、地球温暖化論に疑問を抱いてました。気温を計測している地点を実際に訪れてみると、劣悪な環境のところにぼろぼろの百葉箱みたいのがあったりする。そんなんで計測した結果が信用できるのか――と、ここまでなら、日本で懐疑論を唱える科学者たちも似たような指摘をしてるわけです。
でもそこから先が大きく異なります。温暖化懐疑論を唱える日本の科学者たちは、理屈で他人の説を批判したり揚げ足取っただけで、自分の正しさが証明されたと満足しちゃってます。自分たちで実験や観測をして立証しようという気がさらさらない。
ムラーさんは実際にプロジェクトを立ち上げて、気温の観測結果を検証し直す作業をはじめました。計測地点を徹底的に洗い出して、信用のおけない地点や、あきらかにヒートアイランド現象に左右されてる地点をすべて省き、信頼できるデータだけで計算し直しました。
その結果がどうなったかというと、なんと、これまでの結果と大差なかったそうです。つまり、計測の不備やヒートアイランド現象の影響は全体からするとごくわずかであって、地球全体の温暖化が進んでいることは否定しようのない事実だったんです。そこまでやってようやくムラーさんは、温暖化を認めるようになりました。
これこそが科学者魂なんですよ。ここまでやるのがホンモノの懐疑論者なんですよ。
なお、ムラーさんは温暖化の主因は人類が排出した二酸化炭素だとしています。太陽活動説については、気候データとの関連が認められないとしりぞけてます。
さらに感心したのが、温暖化によってどんな悪影響が出るかという質問に対して、わからない、と答えたこと。人類がこれまで経験したことのない気候変動が起きている以上、何も影響がないわけがないが、科学の見地からは、それがなんなのか具体的にはわからない、と。検証してわかったことは信じるが、検証できないことはわからないと認める。なんとも筋金入りの懐疑論者です。
温暖化でもっとも懸念される影響は、エネルギーをめぐる戦争だろう、とムラーさんはいいます。ただしその意見も、科学者としてのものではないとことわってます。真実に向き合う態度が、本当に徹底してますね。
[ 2013/04/28 18:05 ]
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