こんにちは。歳のせいか夜更かしが苦手になってきたパオロ・マッツァリーノです。
最近知ったのですが、日本各地の町で、有志の町民がボランティアで夜間に防犯パトロールなる活動を行ってるのだそうです。泥棒や痴漢を防ぐためなのでしょう。
それ自体は、自分の住む地域に関心を持つという観点では大変けっこうな活動なんですが、ちょっと耳を疑う事実もありました。パトロールの最中に、拍子木をカン、カン、と鳴らしながら歩くところがあるのだそうです。むかしの日本ではおなじみだったという火の用心の夜回りを復活させたということですか。
検索してみたところ、これを昔ながらの風物詩だとかいってほめそやす人がいる一方で、夜なのにうるさいと批判する人がいて、いざこざのタネになっている地域もあるようです。どうやらほとんどの場合、ノスタルジーを尊ぶ人たちの〝善意〟が通って、うるさいと苦情をいう人は泣き寝入りを強いられてるみたいですね。
ありがちなことです。善意でやってることはつねに正しいと信じて疑わず、異なる意見を持つ人や、それによって苦しんでいる人が存在するなんて想像も出来ない〝善人〟は世の中に少なくないのですから。
しかし、私が気に掛けているのは、騒音のことではないのです。パトロールの最中に派手な音を立てることは、防犯上は逆効果になる可能性がかなり高い。それを知らずに善意でやっている人たちのことを、私は心配しているのです、
どういうことか? 単純な理屈です。夜回りの最中に拍子木などなんらかの決まった音を立てるということは、逆に考えると、拍子木の音がしていないときは夜回りをしていませんよ、泥棒や痴漢のみなさーん、今がチャンスタイムですよ~とむざむざ教えてやってるのも同然です。音のしてないときを狙う犯行が逆に増え、犯罪者が夜回りをする善人を嘲笑っている可能性も無視できません。
そんなバカな? みなさん、犯罪者はバカだと思ってなめてませんか。とんでもない。犯罪者は、捕まらずに悪いことをするためになら、じつに熱心に悪知恵を働かせます。その努力を他の有用なことに使えよ、と怒りたくなりますけど、そういうもんだからしょうがない。
ですから、防犯パトロールをするのはけっこうなのですが、静かにやるべきです。犯罪者は予期せぬ事態をもっとも嫌います。角を曲がったらいきなりパトロールと出くわした、なんて目に遭いたくないわけです。なのに、遠くからも聞こえるよう、派手にカン、カン音を立てて予告してあげるとは、なんて犯罪者に優しい人たちなのでしょう。加害者の人権に配慮してるのかな。
防犯に必要なのは科学です。各地域ごとに、犯罪が起こりやすい場所や時間帯を統計的に割り出してそこを叩く以外に効果的な防犯などできません。もちろん、それをやっても、犯罪者はまた裏をかいていたちごっこになってしまいますが、少なくとも、善意や精神論で犯罪とは戦えません。
「割れ窓理論」って聞いたことないですか。ビルの窓が割られているといった小さなことを見逃さずに対処することで、大きな犯罪を未然に防げるという理論。それを実行したせいでニューヨークの犯罪が減ったっちゅう、ちょっといい話系? みたいなやつ。
たしかにニューヨークの犯罪はむかしに比べてかなり減ったのですが、それは割れ窓理論とは無関係だったんです。
ニューヨーク市警が市内の犯罪発生個所などを徹底的に再検討し、警官の人員配置を見直したことが、犯罪減少の一番の理由だったんです。結局、小さいことを見逃さないようにしよう! なんて精神論ではなく、統計の力だったという、あたりまえというか、ミもフタもないというか、真実なんてそんなもん。
ニューヨークの犯罪減少について詳しく知りたければ、『日経サイエンス』2012年1月号掲載の「ニューヨークはいかに犯罪を減らしたか」(F.E.ジムリング)が参考になります。
[ 2013/03/05 20:32 ]
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