2017年夏以降にミャンマーからバングラデシュに逃れたイスラム教徒の少数民族であるロヒンギャおよそ70万人の帰還が、前に進まない。最大の問題は「戻ればまた迫害される」という恐れを払拭できていないことだ。ミャンマー政府と国際社会は実効性のある措置を打ち出す必要がある。
ミャンマーとバングラデシュの両政府は、ことし11月半ばから帰還を始めることで合意していた。だが第1陣に予定していた全員が「帰りたくない」と表明したため頓挫し、2度目の越年が避けられない見通しとなっている。
背景にあるのは再び迫害を受ける恐怖だ。ミャンマー政府はロヒンギャに国籍を与えるのをかたくなに拒んでいる。多数派の仏教徒たちによるヘイトスピーチも、いわば野放しにしている。
それどころか最近、トゥラ・アウン・コー宗教・文化相がイスラム教への偏見を公然と表明した。難民たちが不信感を抱くのは当然である。最高指導者であるアウン・サン・スー・チー国家顧問はこうした言動に厳しく対処し、人々の偏見をたしなめるべきだ。
新たな心配も浮上している。12年にロヒンギャと仏教徒の激しい衝突が起きたあと、政府は「保護」の名目で10万を超えるロヒンギャをキャンプに収容した。
こうしたキャンプは生活環境が劣悪だとかねて指摘されていて、最近になって政府は閉鎖に乗り出した。問題は、ロヒンギャたちがかつて保有していた住宅や農地を回復できていないことだ。
スー・チー政権の腰の引けた姿勢に対しては、米欧諸国やイスラム圏の国々から批判の声が高まっている。一方、二大援助国である日本と中国は正面切った批判を控え改善を促している。
批判より建設的な関与の方が問題の打開には有効、との判断は一理ある。だが具体的な取り組みをともなわなければ説得力に欠ける。深刻な人道危機を直視し、スー・チー政権に断固とした対応を促す責任を、日中は負っている。