世知辛い世の中と言いつつ、社会のために役立ちたい人は結構多い。ボランティア活動に熱心な若者にもよく出会う。問題は、そうした意欲を後押しする仕組みが十分でないことだ。どこへ行けばよいのか、組織づくりはどうすればよいのか。せっかくの善意を無にしない方策を考えたい。
新たな公益法人制度が始まって今月でちょうど10年の節目を迎えた。旧制度からの移行は4年前に完了した。約9500ある新法人の2017年の公益目的事業の総額は4.6兆円で、東京都の税収(5.3兆円)に匹敵する規模になっている。
省庁ごとだった国所管の公益法人の認可権を内閣府の公益認定等委員会に一元化し、民間委員を入れて審査・監督するようにしたことで、官僚の天下り先という色彩はかなり薄まった。スポーツ団体で不祥事が相次ぐなどガバナンス改革は道半ばだが、監督を強めた成果と言えなくもない。
一方、新たな課題も浮かび上がってきた。
「収支相償の原則が活動の妨げになっている」。さわやか福祉財団の堀田力会長はそう指摘する。収支相償とは「計画している事業の規模を上回る収入を得てはいけない」という意味だ。
旧制度時代に不正な資金流用をした法人があったことを踏まえて設けたルールなのだが、想定より順調に寄付が集まり、待ったをかけることもあるそうだ。
遊休財産の保有制限も厳しく、新たな分野に乗り出す余裕が生まれないとの声もある。タガを緩めすぎて不正の温床になってはまずいが、あまり制度の使い勝手が悪いのも困りものである。
実際、公益法人の新設申請は伸び悩んでいる。旧制度からの移行でない法人は全体の1割にも満たない。これでは本末転倒だ。
類似の制度との関係もわかりやすくしたい。公益信託は、持続的に活動する公益法人と異なり、故人の遺産などを信託会社に委ねて奨学金などに充てる制度だ。
比較的簡単に設立できることから、特定非営利活動促進法(NPO法)に基づく認定NPO法人の設立を選ぶ人も増えている。
どの制度を選んでよいのかがわからないという理由で活動に踏み出せない人がいるとすれば残念だ。各制度はライバルではない。互いのよいところを取り入れ、よりよい社会の担い手に育てたい。