加速するIT(情報技術)企業による金融ビジネスへの進出を示す、象徴的な事例といえよう。
無料対話アプリのLINEが、みずほフィナンシャルグループと共同出資でインターネット銀行を設立し、2020年にも営業を開始する計画を発表した。
7800万人の利用者を抱えるLINEは日本の代表的なITプラットフォーマーだ。新銀行は決済に加えて預金や貸出業務を手掛けて利便性を高め、新たな収益源にする狙いがある。
こうした流れは既存の銀行の利益や顧客基盤を着実に侵食するだろう。メガバンクなど旧来勢力は金融の構造変化と将来像を見据えた対応策の成否が試される。
LINEはすでに自前の証券や保険事業に参入している。しかし金融の本丸である銀行設立のハードルははるかに高い。
LINEの直近の損益は最終赤字だ。金融庁は財務状況や収益計画はもちろん、顧客情報の管理や資金洗浄(マネーロンダリング)対策を厳しく問う。みずほは免許取得に必要なノウハウの提供や金融庁との折衝役を担う。
「なぜ潜在的なライバルに手を貸すのか」。みずほに対して他行からは批判もある。ネットバンキング事業で出遅れたみずほが若年層に強いLINEと組み、形勢逆転を目指すのは理解できる。
とはいえ「LINE銀行」を通じて接点を作った若年層が、10年後には住宅ローンや投信販売などでみずほ本体の顧客に育つ、という皮算用は根拠が弱い。
人工知能(AI)の高度化は加速する。銀行が強みとしてきた人手を介した対面営業や投資相談の優位が薄れていくのは避けられまい。先端技術を大胆に取り込み、支店網や人員配置の収益性を精査し直すことが欠かせない。
金融庁は異業種参入を前提とした金融監督体制や法令の整備を急いでいる。既存の銀行は危機感を強めて前倒しで手を打たなければ、長く維持してきた金融盟主の座を脅かされる。