中国の研究者が、人為的に遺伝子を改変する「ゲノム編集」を受精卵に施して双子を誕生させたと国際会議で発表し、批判を浴びた。安全性が不確かで倫理的にも問題のある手法だ。同じことが繰り返されぬよう規制が必要だ。
エイズにかかっていた男性の精子と健康な女性の卵子から体外受精で受精卵をつくり、子にウイルスが感染しないよう遺伝子操作した。双子は健康だという。
しかし、手放しでは喜べない。受精卵の遺伝子改変の影響は子孫に及ぶ。遺伝子に意図せざる異常が起きていたと後でわかっても手遅れだ。そもそも、感染を防ぐ方法はほかにもあった。
ゲノム編集は、容姿や運動能力をよくするなどの目的で受精卵を操作する「デザイナーベビー」などにも使える。今回の出産例をみて、試してみようと考える人が出るのを懸念する声もある。
受精卵の遺伝子改変は、ヒトの進化の道筋さえ人為的に変えてしまう可能性がある。人類全体に影響が及ぶ。
だからこそ、科学者は慎重姿勢を貫いてきた。ほかに治療法のない難病の場合に限り、リスクと利点を多角的に検討し、安全性を確認したうえで実施を認めてはどうかという議論が進みつつあった。
そうしたコンセンサスづくりが台無しになる恐れがある。中国当局が中止を命じたとも伝えられるが、当然だ。
受精卵以外の細胞を治療目的でゲノム編集する試みは既にあり、血液の難病治療などに有望視されている。今回の件とは切り分けて考え、推進すべきだ。
日本では、ゲノム編集した受精卵から子が生まれるのは遠い先だとして、規制の検討対象にしてこなかった。しかし、技術の進歩は速い。常に先回りして議論する必要がある。
今後、各国が法制度を整備する際の指針となる倫理規範や、安全性確認などの国際基準づくりが進むだろう。日本も積極的に役割を果たしていくべきだ。