大規模災害の対策は優先度を見極めよ

社説
2018/11/30付
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政府が西日本豪雨や北海道地震など大規模災害を受けて実施した重要インフラの点検結果を公表した。今後、3年間で集中的に対策に取り組むという。

今回、空港や電力など各府省にまたがる132項目の点検結果で明らかになったのは、浸水対策や停電時の備えが不十分なインフラが多い点だろう。台風21号で被災した関西国際空港と同じように地下に電源設備がある空港や、非常用発電設備の増設が必要な災害拠点病院などが少なからずある。

今年のような豪雨になれば甚大な被害を及ぼす河川も確認された。水位が上昇した本流に流れ込めなくなった水が支流を逆流し、大規模洪水になった岡山県倉敷市の真備町地区のような地域だ。

電力では法令に照らして問題がある設備はなく、運用面の対策で北海道地震の時のような大規模停電の再発は防止できるとした。そのうえで北海道と本州を結ぶ送電線など、地域を越えて電力を融通する送電線の増強を検討する。

迅速な復旧を視野に、電力会社間の送配電設備の仕様を共通化することなども盛り込んだ。

送電網の広域化は防災対策上、有効だろう。ただし、基幹送電線の増強には巨額の資金が要る。この費用を誰が負担するのか。新たにつくっても平時の利用率が低ければ投資の回収は難しい。

今回、公表したのは各府省が実施した点検内容の概要だけだ。被害を軽減するためには、自治体や民間などとの情報の共有が欠かせない。対策が必要な具体的な場所や総数なども明らかにすべきだ。

点検そのものも十分とは言えない面がある。電力では関東や中部など、それぞれの地域で最大の発電所1カ所が止まった場合を前提に調べたにすぎない。直下型地震が東京湾を襲い、複数の発電所が一斉に止まればどうなるのか。今回の結果だけで安心できない。

今後、具体的な対策を詰める際には優先度を見極め、メリハリをつけてほしい。密集市街地の防火対策などは3年間で大きな効果を上げることは難しいだろう。災害時に必要な資機材の確保などは通常の予算で対応すべきだ。

ハード面の対策には限界がある。地域によっては洪水を抑えるのではなく、堤防が決壊するまでの時間を延ばし、円滑な避難を促すソフト面の対策を強化した方がいい場合もある。災害対策においても費用対効果を重視すべきだ。

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