アラフォー・クライシスⅡ
去年12月に番組で取り上げた「アラフォー・クライシス」。現在アラフォーの人たちは、社会に出るタイミングが就職氷河期だったため、正社員など安定した職に就くことが困難で、中年になっても自立できず、貧困に陥るリスクが高い。バブル期に就職した上の世代や、好景気の中で就職した下の世代と比べて、給与が低く抑えられたり、昇進が遅れたり…。その一方で、高齢となった親の介護の負担も、のしかかってきていた。第2弾は「結婚」や「出産」、さらに「稼げないきょうだい」まで。アラフォー世代のさらなる危機に迫る。
出演者
- 藤田孝典さん (社会福祉士)
- 古川雅子さん (ノンフィクションライター)
- 武田真一・鎌倉千秋 (キャスター)
アラフォー・クライシス! 給与も介護も将来も
壇蜜さん
「超就職氷河期と呼ばれる世代。エントリーシート出して、20~30社ぐらい。でも全然ひっかからず。一発逆転を狙うのが難しい。割を食う世代なんだなって。」
去年(2017年)12月に放送した「アラフォー・クライシス」。氷河期に就職した40代前後の人たちは、非正規だけでなく、正社員でもほかの世代に比べて大きく給与が下がっていました。
安定した仕事に就けないうえに、頼みの親もリタイアし、親子共倒れのリスクが高まる「7040(ナナマルヨンマル)問題」も顕在化。
44歳
「生きていても価値あると思えない。」
その後も「アラフォー世代」の取材を続けると、さらなる危機が見えてきました。
43歳
「結婚したいと思える相手を探すのは難しい。もう無理かもしれない、子どもは。」
41歳
「(きょうだいの)面倒見るの誰だろうと思ったら、私しかいない。きょうだいじゃなかったら簡単に切り捨てられるのに。」
広がり続けるアラフォー世代の危機。社会はどう支えていけばよいのでしょうか。
鎌倉:35~44歳の、いわゆる「アラフォー世代」の労働人口は、およそ1,500万人。社会を担う中心となっています。
アラフォー世代が大学を出た当時、「就職氷河期」の真っただ中。希望の仕事に就けなかった人が大勢いました。
20代後半には、働けど豊かになれない「ワーキングプア」が社会問題となりました。30歳ごろになると「リーマンショック」が起き、「派遣切り」が相次ぎました。そして40代に入ると、生計を支えてくれていた親がリタイア。「7040」と呼ばれる、親子共倒れの危機まで起きています。
今のアラフォー世代は、正社員でも、5年前にアラフォーだった人たちに比べて大きく給与が下がっています。これはこの世代特有のことで、「離職や転職が多い」「社内研修を受ける機会が少ない」「大量採用されたバブル世代の影響で昇進のペースが遅い」などが理由です。
仕事や介護の苦悩を抱えるアラフォー世代。しかし、危機はこれだけではありません。前回の放送後、たくさんの反響をいただきましたが、その中で私たちが注目したのは、こんな声です。
42歳 女性
“誰かの結婚、出産、子どもの話が苦痛でしかたがない。自分が結婚できないこと、子どもがもてないことが、いつも頭の中にある。とてもつらい。”
38歳 女性
“結婚しない人生、子育てしない人生を認めて。”
今夜、まず取り上げるのは、アラフォー世代の結婚に関する深刻な実態です。
なぜ急増? 40代未婚者
都内で保育士として働く、長澤美咲さん(仮名)・43歳。3年前から本格的に婚活に取り組んでいます。月に2回ほど、結婚相談所から紹介された男性と会っています。この日は、40代後半の男性と会ってきました。
長澤美咲さん
「なんか、ちょっと難しいですね。自分ダメなんじゃないか。年齢がダメなのか、見た目なのか、何がダメなのかわからなくなったりします。」
現在、3つの結婚相談所に登録している長澤さん。希望する条件は、40代の自分より年下の正社員ですが…。
長澤美咲さん
「いいなと思う方が出ても、相手の希望年齢は39歳までとか30代まで。」
長澤さんは、もともと結婚相手に600万円以上の収入を希望していましたが、出会う機会を増やそうと、100万円下げました。子どものころから、将来は家庭を持ち、母親になるのが憧れだったという長澤さん。しかし、40歳を迎えるまで、結婚を考える余裕などほとんどなかったといいます。
長澤さんは、1996年に短大を卒業。保育士として就職を希望しましたが、当時は氷河期でかないませんでした。ようやく見つかったのは、自治体の臨時職員。非正規で、月収は17万円でした。
実は最新の調査によって、初めて就職したときの雇用形態が、その後、結婚にも影響することが明らかになっています。初めて就いた仕事が正社員だった場合は、7割以上の人が結婚し、配偶者がいます。一方、非正規だった場合、結婚した人の割合は3割に届きません。
社会学者 『婚活』の名付け親 山田昌弘教授
「日本は職場結婚が多い。特に女性の非正規社員は、何か月とか半年、1年で変わりますから、未婚の男性の正社員と知り合う確率がすごく低い。(出会いの)格差が生じているというのが今の時代。」
長澤さんは夢を諦めず、1年後、念願の保育士になれました。雇用形態は「正職員」。スキルアップの機会が少なかったため、音楽指導などの資格を取るのに自分のお金と時間をつぎ込みました。残業を頼まれても、決して断りませんでした。
長澤美咲さん
「やっとの思いで就職したんで、絶対辞めるもんかと。結婚とか、そういう感じじゃなかった。」
37歳のとき、仕事に没頭していた長澤さんは、衝撃的なニュースを目にします。高齢になると卵子が老化し、子どもを産むのが難しくなる。出産のタイムリミットを初めて意識した瞬間でした。
これまで婚活に50万以上を費やしてきましたが、まだ人生を共に歩むパートナーとは出会えていません。将来、子どもを授かれるようにと、産婦人科に通い、冷えを予防したり、体調管理に気をつけています。
長澤美咲さん
「仕事も選べる立場じゃなかった。今となっては婚活も選べる立場じゃなくなってきて、早くしなきゃ早くしなきゃって、本当に疲れちゃった感じですね。」
一方、アラフォー世代では、男性の結婚観も変わってきています。山口裕也さん(仮名)・39歳。就職氷河期のど真ん中で、非正規の職を転々としてきました。今は実家で70代の母親と暮らしながら、飲食店でアルバイトをしています。婚活を始めて3年。熱心に続けていますが、まだ相手は見つかっていません。
「意気込みは?」
山口裕也さん
「あります、めちゃくちゃ。頑張りたいと思います。」
山口さんが結婚する女性の条件として重要視しているのが、「経済力」。希望の年収は500万円以上です。
山口裕也さん
「ぜいたくをしたいわけではない。看護師とか特殊な仕事に就いているような、給料が高く、稼いでいる人の方が。わざわざ不利な人とつきあいたくない。」
男性が、結婚相手の経済力を意識するかを示した調査です。1992年では26%余りだったのに対し、2015年には4割以上の男性が女性に経済力を求めています。
一体なぜ、結婚相手の女性の経済力を重視するのか。その背景には、男性が40代を迎えても、以前ほど稼げなくなっている現実があります。バブル世代の場合、40代前半だったころの実質賃金は月50万を超えていました。一方、氷河期世代では同じ40代になっても、8万円も低いのです。
東京大学 玄田有史教授
「(氷河期世代は)正社員になりにくい傾向がある。結果として賃金も厳しい状況にある。賃金が相対的に低く抑えられていることは、大きな社会問題。」
鎌倉:日本では、全世代で未婚化が進んでいます。若い世代ほど結婚しない人が増えていると思われがちなんですが、実は2000年~2015年にかけて、未婚率がどれだけ伸びたかを世代別に比較してみますと、アラフォー世代の未婚率が最も増加していたんです。
現代のさまざまな貧困問題に取り組んでいる藤田さん、アラフォー世代で未婚化まで進んでいるという実態に驚きましたが、なぜこんなことが起きているのでしょうか?
藤田さん:先ほども出ていましたけれども、アラフォー世代は、やはり男女ともに実質賃金がかなり低いという状況が確認されているということですね。さらには、ブラック企業型の正社員が非常に多くて、離職と転職を繰り返す。1つの企業の所にずっと居つかないというんですか、そういった状況が常態化しているということがいえると思いますね。
それで男女とも、やはり相手に経済力を求めてしまう。その結果、なかなか結婚相手が見つからないと。
藤田さん:そうですね。将来の先行きがちゃんと安定している方を望みますので、そういった安定しているという人たちが、かなり少ないというんですかね。多くの人たちが不安定な中で、離職・転職を繰り返し、賃金も低い中で働いているという状況でしょうね。
結婚する人が減れば、少子化にも拍車がかかってしまうわけですけれども、こちらのデータをご覧いただきたいと思います。
これは日本の世代別の人口ですけれども、上の黄色い世代がアラフォーの親世代、真ん中の赤い部分がアラフォー世代、そして下の黄色がその子ども世代なんですけれども、アラフォーの子ども世代は大幅に少なくなっていますね。どうご覧になりますか?
藤田さん:本当に深刻だと思いますね。アラフォー世代の子どもたちが、ベビーブームを起こせなかったということを表していますので、これは今後の年金・医療・介護の社会保障体系その物を揺るがすような、極めて深刻な事態だとは思いますけどね。
アラフォーの方々だけの問題ではなくて、社会全体の構造の問題?
藤田さん:そうですね。子どもたちが将来は年金を払いますし、税金を払っていくということになりますので、そもそも高齢者を支えていく、そういった原資を払う人々がもう減少傾向をたどっているということは、極めて深刻だと思いますね。
きょうだい共倒れリスク
鎌倉:かつてのように、収入が上がらず、結婚や出産からも遠ざかってしまったアラフォー世代。今、親と同居する人たちが増えていて、その数およそ300万人。この10年で4割増えました。
70代の親と40代の子どもが、親子共倒れの危機に直面する、「7040問題」も起きています。
実は、さらなる危機が迫っているんです。それが、「きょうだいリスク」です。ご自分のごきょうだいに自立が困難なアラフォー世代がいるという方、いらっしゃるのではないでしょうか。きょうだいどうしで共倒れになるおそれもあるといいます。
40代の中野真也さん(仮名)。氷河期に正社員で就職したものの、33歳のとき、会社が倒産。以来、非正規で働き続けています。
中野真也さん
「わしじゃ。どうなの、お母さんは?」
中野さんには、広島の実家で暮らす50歳の兄がいます。2年前、70代の母親が認知症を発症。兄は介護のため、仕事を辞めました。現在、兄は収入がなく、母親の年金に頼って生活しています。
中野真也さん
「コンビニの夜勤をやっていまして、朝6時まで。」
中野さんは兄と母親を支援するため、時間が不規則なアルバイトを4つ掛け持ち。寝る間を惜しんで働いています。
中野真也さん
「収入がとれるきょうだいって、僕しかいない。一番最後のとりでは僕だろうな。」
たとえ母親の介護が終わったとしても、残るのは無職の兄。中野さんは、兄の今後の生活も支えていく必要性を感じています。
中野真也さん
「長男(兄)をお金の面でサポートしてやりたい。それも限界がありますから。人生の理想から今かけ離れているので、ちょっと見えないですよね。リスクしかない。」
親族に生活力や経済力の低いきょうだいがいた場合、どこまで支えるべきなのか。専門家に聞きました。
山川幸生弁護士
「民法では、きょうだい間にも扶養の義務がある。経済的に苦しいきょうだいが、経済的に豊かなきょうだいに対して扶養料を請求することはあり得る。」
鎌倉:VTRの方以外にも、「弟は30代後半になっても、非正規の仕事を転々としている。今は母に金を無心しているが、母が亡くなったら、私を頼ってこないか心配。きょうだいでなければ、すぐ切り捨てられるのに」などの声もありました。
山川弁護士によりますと、きょうだい間に扶養の義務があるのは、あくまで経済的に余裕がある場合に限られます。支えるのが難しい場合には、きょうだいが生活保護を申請するなどして、共倒れを回避するべきだということです。
この問題を取材している、ノンフィクションライターの古川さん。アラフォー世代が抱えるこのきょうだいリスクの要因、どう位置づけて見たらいいのでしょうか?
古川さん:きょうだいというのは、親子と違ってほぼ同世代ですよね。そのきょうだいという、同世代の間で生まれた「新たな格差問題」じゃないかと思うんですね。時代の余波を、きょうだい関係という糸口で見てみると、一方が運よく正規の仕事について、結婚して家族を持ったとして、もう一方が、仕事が見つからなくて親元から出ていけなかったりとか、結婚は難しいかなと思ってたり、あまりにも厳しい雇用環境から、体や心を壊して仕事を続けられなくなったりとかですね。しかもサポートする側のきょうだいであっても、決して余裕があるわけではないですから、ちょっと先を見越したときに、親の介護を経た側が、今度はきょうだいを丸抱えしてという形で、きょうだい共倒れと、ドミノ倒しのようなことも考えられます。
「きょうだいだから面倒を見なくちゃ」と思ってらっしゃる方もいる一方、「きょうだいまで面倒見なきゃいけないのかな?」と疑問を抱く方もいると思いますが、どう考えたらいいのでしょうか?
古川さん:きょうだいの扶養っていうのは、義務ではないんですね。でも扶養を拒否して、生活保護のような福祉につないだ場合に、「見捨ててしまった」という、後ろめたさは残ります。特に日本はケアに関して、「家族責任」という文化が根強いですよね。自分にきょうだいを扶養する余裕はないというふうに思っても、赤の他人のようにふるまうのは難しいというところがあると思います。
藤田さんは、こういったきょうだいリスクを抱える人たちに、どういうアドバイスをされているんですか?
藤田さん:実際に支援現場で私たちが関わる中で、やはり生活保護を受けざるをえないというケースは非常に多いですね。特に世帯を分離する形、「世帯分離」という方法がありますので。
きょうだいごとに?
藤田さん:そうですね。その単独の家計を見ながら、これは相互の納得のうえですけれども、見捨てるような形にならないように、この生活保護を世帯を分離して適用するという方法は、1つありえますよね。
不遇の世代 どんな支援が?
鎌倉:では、多くのリスクを抱えるアラフォー世代に、どんな支援があるのでしょうか。国は全国173か所の地域若者サポートステーションで、就労支援を行ってきました。これは対象年齢が40歳までだったのですが、今年(2018年)4月から、このうち10か所で対象を44歳まで引き上げました。引きこもりや職探しが長期化したケースにも対応できるように、アラフォー世代専門のキャリアカウンセラーを配置している所もあります。
また、去年(2017年)4月から、5回以上の離転職を繰り返す35歳以上の人を正社員として採用した企業には、国は最大で60万円の助成金を支給しています。ただ、支給されたケースは、まだ僅かです。
さらに、アラフォー世代が少しでも希望を持てるようにと、後押しする試みも始まっています。
えひめ結婚支援センターでは、県が主導し、結婚を希望する男女にお見合いの場を提供しています。この6年で、アラフォー世代269人の結婚を成立させました。全国トップクラスの成婚件数を誇るこのセンターによれば、アラフォー世代は、相手の年収や勤務先の知名度などを重視しがちだといいます。
えひめ結婚支援センター 事務局長 岩丸裕建さん
「失敗したくないというのが、他の世代から比べて強いような気がします。少しでも年収が高いとか、安定してるとか、そこにかなり特化している。そういった縛られ方は、自らの婚活の活動を狭めてしまう。」
6年前からこのセンターを利用する、杉本沙也佳さん(仮名)・44歳。これまで、年収500万以上の正社員を希望条件に挙げてきましたが、成果が出ず、行き詰まりを感じていました。
そんな杉本さんにセンターが提案したのが、AIによるパートナー選び。実はセンターでは、3年前から利用者2,000人のお見合いのビッグデータをAIに分析させています。誰がどんな人を気に入り、どんな組み合わせの場合にお見合いが実現したのか。膨大なデータから推薦する相手を割り出しますが、その根拠は示されません。杉本さんがAIに推薦された男性は、希望の年収には届かず、容姿も理想と違っていました。
杉本沙也佳さん
「ちょっと大丈夫かなと思いつつも、AIとして、ビッグデータとして挙げてもらってるんだろうから、とりあえず会ってみようみたいな。」
センターでお見合いが実現した確率です。男女が条件を出す従来の方法(13%)よりも、AIが介入するほうが2倍以上も高まりました。(29%)
あまり期待せずにお見合いをしてみた杉本さんですが、思いのほか相手の男性と意気投合しました。料理が趣味の杉本さんに対し、男性も体調管理のため自炊をしているなど、何かと気が合いました。
杉本沙也佳さん
「意外と好感持てるみたいなところもあって。年収とかそういうのも大事だけど、それプラス違う見方で。」
相手の男性
「話しやすかったですね。緊張もしなかった。どうなるかわかりませんけど、いいかなと思っています。」
結婚相手に少しでも高い条件を求めるというのは、裏返せばそれだけ不安が大きいということだと思いますが、そういった不安を解消して、少しでも幸せになっていただくために、どんな支援・考え方が必要なのでしょうか?
古川さん:これからは、家族の在り方というのは、いろんなパターンが出てきますから、「家族はこうだ」という固定観念に縛られなくていいと思うんですね。私が取材した姉妹は、お姉さんが独身で1人暮らしをしていて、最近、非正規から正規雇用にシフトできて、妹さんは離婚されて、子連れで親元に戻ったと。この姉妹は将来、親亡きあとは、頼り合って、一緒に同居して暮らそうというふうに話しているそうなんですね。
ほかにも他人どうしで、気の合うどうし、近居して暮らすという、そういう「擬似家族」的なつながりも生まれています。
大事なのは、何か課題解決をしようとしたときに、家族だけで閉じないということですね。自分、家族、そのほかに3人目を、例えば福祉や介護の専門家などを置いて、自分・家族・専門家という、その三角形で物事を解決していくという思考のしかたに変えていく必要があると思っています。
このアラフォー・クライシスに、社会はどう向き合えばいい?
藤田さん:少し大きい話になりますけれども、日本は非常に家族が負担を担う割合が高い国なんですよね。これも社会保障が整っているヨーロッパとはまた違っていて、ヨーロッパでは、社会保障である程度、教育費・住宅費・医療費とか、さまざまなものを、その家族に支給してあげるわけですけれども、これが支給できない場合には、家族が日本では捻出しなきゃいけない状況ですので、とことん困窮したら助ける「救貧」ではなくて、早めに助けてあげるという「防貧」、そういった仕組みがやっぱり必要だと思いますね。