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オトラント城奇譚



「オトラント城奇譚」(1764年出版)はオトラントの城主マンフレッド公の跡継ぎをめぐる物語である。


本来跡を継ぐはずだった息子のコンラッドが結婚式の日に天から大きな兜が落ちてきて圧死したり、壁の絵の祖父が絵から抜け出て動いたり、巨大な足や手が見えたりといった怪奇現象が起こり、次第に城主マンフレッドの領土横領や息子の嫁を自分のものにしようとした強欲が暴かれ、最後には旧領主アルフォンゾ公の巨大な亡霊が現れて現城主は城を追われる事になる。


「エクソシスト」や「オーメン」などのホラー映画に慣れた現代人はこのオトラント城奇譚を読んでも恐怖を感じる人はほとんどいないだろう。

この小説に怖い点があるとすればギリシャ悲劇にも共通する「因縁の怖さ」である。

城と領土は城主マンフレッドが処刑しようとしたセオドアのものとなり、息子の嫁イサベラにあらぬ欲を抱いたばかりに、娘マチルダを自分の手で殺してしまう事になる。


しかしこの因縁の恐ろしさもギリシャ悲劇に較べると中途半端な印象を受ける。

簒奪者には天罰が下り、理不尽な犠牲もあるが曲がりなりにも社会正義が実現される。

ギリシャ悲劇ほどの激烈な破局は無く、むしろ仏教説話の様な道徳的教訓を説いているようにさえ見える。


作者ウォルポールが狙ったのはホラーではない。それはストロベリー・ヒルの内部を骨董品や中世の城を模倣した装飾で溢れさせながらゴシック建築に見られる怪物の像が一つも無い事からも分かる。


彼は「冷ややかな理性しか欲しない今の時代」と書簡に書いている通り、理性尊重の行き過ぎに反対しているのであり、初期ターナーの絵画にも見られる「荒々しい自然」が彼の考えるゴシックなのだ。
ウォルポールは意外と保守的なのだ。


ところが彼のゴシックの再現の模倣性、張りぼて性ゆえに、それが逆手に取られ、他の人によって自然賛美のゴシックではなく、人工美としてのゴシックが新たに作られる事になる。
その時こそゴシック・ロマンスに「悪魔的なもの」が入り込む時である。


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オトラント城は中学生の頃に読んで
いやにつくりものめいて
ちっとも面白くなかったのですが。。。
あれがゴシックホラーのお約束


怪奇ものや幻想小説が大好きなのは
小6でホーソンの緋文字なんか読んじゃったせいかも。。。
。。。てか
いくら全集本だからといって
姦通罪を犯した女性の話の本を
小学校の図書館に置くな。。。😑

2016/2/29(月) 午後 10:49 桃豹 返信する

ぱんさーさん、こちらにもどうも。(笑)

ホーソーンの緋文字は読んでないですね。あれは姦通罪を犯した女性が差別される社会派小説だと思っていたのですが、ホラー系なんでしょうか?

今年中にユイスマンスの「さかしま」を読みたいと思っています。

しかし一時西洋魔術や道教魔術の本を読みふけった僕はもう大抵のネタはお馴染みで新鮮さを感じないのですが・・・・(笑)

2016/3/1(火) 午前 5:39 [ 炎武 ] 返信する

オトラント城奇譚は全然恐くないのは意外でした。

次のヴァセックに期待しています。

2016/3/1(火) 午前 5:42 [ 炎武 ] 返信する

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緋文字は読みようによってはミステリですね
ヒロインのヘクター・プリンの元夫が
医師を騙って姦通相手の牧師を追い詰めていく様は
ちょっとした昼ドラみたいな悪趣味ミステリ仕立て。。。

今怪人二十面相読んでも怖くも何ともないといった感じ
オトラント城にも言えるかも。。。

2016/3/6(日) 午後 10:21 桃豹 返信する

ぱんさーさん、いつもどうも。笑

なんだかヴァセックも残酷なだけでちっとも恐くないですね。笑

ゴシック・ロマンスが恐くなるのはやはりポーからなんでしょうか?
そうだとしたらポーはますます重要な作家ですね。

2016/3/6(日) 午後 11:01 [ 炎武 ] 返信する

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