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カメラの外で動いたら。 作者:四谷コースケ
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103.欲張り

「一応確認しますけど、あれが宇野先輩ですよね?」

「うん……ごめ……」

「はい、簡単に謝らない。基準は先輩的には図太いと思うくらいで。

 それぐらいに思わないと謝りっ放しになりますよ。というか、何を謝るつもりで?」

「宇野さんが、皆に……」

「それだったら謝るべきは宇野(カス)。先輩は保護者じゃないでしょ?

 堂々胸張って下さいな。……張る胸あるし」

「おい」


先輩には聞こえないくらいの声だけど、何故言った。事実ではあるけど。

宇野先輩は……八乙女よりはありそうだけど、穂積よりも控えめか。

その辺も嫉妬してるんだろうか。


「あの感じからすると、別れろと日常的に言われてるんですね。

 古川先輩。宇野先輩がのたまったことは完全に戯言ですからね。何の権利も無いんですから」

「うん……」


古川先輩からは見えない位置で、陽司が口をへの字にしている。

俺だって思ってるよ。宇野先輩が誰かと誰かの仲を引き裂く権利なんて持っちゃいねぇが、

こと透に限っては、別れた方がずっといい。


「……怜二、水橋、ちょっとこっち。すいません先輩、少し時間頂きます」


陽司が俺と水橋を手招きし、廊下へ。

言おうとしていることは分かっている。最悪は失敗の報いが古川先輩に降りかかること。

だが、もう手段は選んでいられない。




「囮捜査だ。俺と水橋が囮になって柏木をおびき出して、蛮行に走ったところを撮影。

 体育祭の時の感じからして、軽く煽れば本性出るだろ」


本当なら、古川先輩から許可を取るべき話。

だが……こうなると古川先輩の為だけではなく、俺がムカついて仕方ない。

この作戦を望んでいるとは思えないし、許可は下りないだろう。

この考えは、陽司も同じらしい。


「で、それに当たってなんだが、ちょっと作戦がある。

 俺は柏木に好かれてて、水橋は嫌われてるってなったら、こういう手がある」

「どういうのだ?」

「水橋が良ければ、偽造カップルって体で引っ掛けねぇか?」

(は!?)


陽司、まさかお前……あ、待てよ。落ち着いて考えたらそれもアリか?

柏木先生の視点で見れば、好きな男子を奪われ、嫌いな女子が幸せになっている形。

特に何も考えないで行くより、水橋に対する嫉妬心を大きく刺激することができる。

こいつは透と違って、こういう問題が絡んだ時に自分の下心なんて持ってこない。

下手すればガチのカップル成立の可能性もあるが……そうなったらその時だ。

水橋の目標達成への一歩と、古川先輩のいじめ問題解決と引き換えになるんなら、

俺の儚い望みが潰えるぐらい、どうだっていい。……諦めは、つかないけど。


「ノートのこと考えると、掛け合わせれば効果倍増だろ。

 勿論、あくまで偽造だから、やたらめったらイチャつく必要はない。

 水橋、頼めるか?」

「……ちょっと、考えさせて」


あれ、即決で受けるかと思ったんだけど、何か気になるのか?

多少の抵抗はあるかもしれんが、相手が陽司ならあまり問題ないと思ったんだが。

それとも偽造とはいえ、カップルというのは……ん、何だ? 俺の方を見て……


「それ、藤田君とじゃダメかな?」

「えっ!?」


いやいや、何を血迷った!? 何で俺!? それも陽司との二択で!

色々な意味で俺は合ってねぇだろ!?


「ダメってことはねぇけど、怜二の名前はノートに無かったんだよな。

 逆に言えば、不安なのはそこだけだが」

「俺と水橋が組んだところで、下手しなくても偽造ってバレるだろ。

 釣り合いが全然取れてねぇし」

「そうかな……うーん……」


10人が10人、このケースでは陽司を選ぶだろ。

俺と組むことによるメリットが何一つとして存在しねぇんだからよ。

……それに。


(嬉しく思っちまったな……)


下心に関しても、俺の方がよっぽどある。

さっきの宇野先輩を流した水橋を見た時も、凄いと思ったと同時に、ゲスい気持ちが湧いた。

それは、水橋が俺の下から飛び立ってしまったのではないかという、不安。

そもそも俺の下にいた訳でもねぇのに、何でそんな気持ちが出て来るんだよ。


(俺は、水橋を束縛する為にいるんじゃねぇって言っただろ)


嫌な奴だな、俺。

手前勝手な上に思い上がり甚だしい嫉妬で自縄自縛。男として情けねぇよ。

俺は透とは違うと思ってたんだが、これじゃ一緒だ。

水橋を自分の物にしたいっていう独占欲丸出しのクズじゃねぇか。


(……自虐でごまかすなよ、脇役)


腐ってもいられねぇ。脇役は辞めるつもりだったけど、関係ねぇ。

主役だろうが脇役だろうが、在り方を決めるのは俺だ。

ただの自虐は自分の責任から逃げてるだけだ。やらかした償いは行動で示せ!


(まずは、今回の問題にケリをつける)


その為の行動は当然、目の前の問題の解決。仲間と共に、古川先輩を助けること。

その為に全力を尽くす。ただ、それだけだ。




「じゃ、手筈通りに」

「了解」


陽司と水橋の偽造カップルによる、囮作戦。

十分なシミュレーションと、幾度となく重ねた打ち合わせを元に、

今日の昼休みに作戦を決行する。

俺は証拠となる映像の撮影を担当。二人が柏木先生を煽って、暴力行為を誘い、

その場面をスマホで撮る。


(古川先輩、勝手なことしてごめんなさい。でも、絶対に全てを終わらせます)


こういう、独断で物事をやるのは苦手だ。

だが、今回は手段を選ばないし、選べるほどの手段は思いつかなかった。

先生方に訴えかけるという正攻法じゃ、解決までに時間がかかる。

下手をすればその間、先輩へのいじめはさらに苛烈なものになるかもしれない。

なら、唯一の手段を成功させるしかない。


……そう、決意を新たにした時のことだった。




「皆様、ごきげんよう」




「……は?」


その姿を、教室で見ることになるとは思っていなかった。

何で、宇野先輩がここに来てるんだ!?

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