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カメラの外で動いたら。 作者:四谷コースケ
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100.二人目の存在

昼休み、サルが駆け寄る。

いつになく、真剣な表情。相当に珍しい。天変地異クラスと言っても過言ではない。

一体、どうしたんだ?


「怜二。宇野先輩のことが分かった。古川先輩と同じクラスで、

 『宇野』っていう名字の奴は一人しかいないから、こいつで間違いないはずだ」


お、もう掴んでくれたか。流石は情報通。

ただ、その話をこの表情で持ちかけてきたとなると、嫌な予感しかしない。


「どんな奴だ?」

「フルネームは宇野翠(うのみどり)。はっきり言って、相当にヤベェ。

 カーストトップなのに、美人だった。何でかと思ったけど、すぐに分かった。

 こいつ、柏木と結託してる」


個別かと思ってたら組んでたか。手綱握ってるのはどっちだろうか。

その辺含めて、詳細を聞こうか。


「他に分かったことはあるか?」

「親が大企業の社長やってる。俗にいうお嬢様ってヤツだな。

 死ぬほど性格悪いが、立ち回りはやたらと上手いらしい。柏木取り込んだしな。

 どういう手法かは、さっぱり分からんが」

「お嬢様式の社交術でも身に着けてるとか?」

「有り得ないとまでは言わんが、無いだろ。柏木先生ってそういうの嫌いらしいし。

 ここまで調べるとなったら時間がいるし、掘り出すのは難しいな」


サルでも難しいとなったら、諦める他無い。

こいつ以上の事情通、この学校にはいないしな。


「今の時点で分かってるのはこの辺。こんなに歪んだクラスカースト構造、初めて見たわ。

 蟻の穴から堤も崩れるって言うもんだ、条件さえ揃えば革命も起きる。

 柏木の権力っていう重石をどかせば、面白いことになるかもな」


いつものニタりとした笑み。サルが優先するのは『面白そうかどうか』。

そうか、損得以外でもそういう方向なら動くってことか。

理由はどうあれ、今回の件については料研盗難事件の時以上に情報を持ってきてくれた。

感謝するぜ、サル。




「……つまり、宇野先輩はそういう奴ってことですよ」

「そっか……宇野さん、そんな人だったんだ……」


放課後は先輩の元へ行き、サルから得た情報を伝える。

ここでやるべきことは、先輩に自己肯定感を持たせること。

先輩は門倉の逆で、問題の原因を自分の中から作ってしまいやすい。

このいじめに関しても、自分に原因があると思い込んでいたようだから、

それは間違っているということを教えつつ、いじめの主犯は適度に貶す。

あまり大袈裟に言うと逆効果だから、あくまで適度に。

そうすれば、先輩も自分が原因とは思わなくなって……


「友達を作る努力をしてるってことだよね。

 現実からずっと逃げて、自分の世界に閉じこもってる私よりは、立派だと思う」


……くれないかー。

この自己評価の低さも何とかしたいけど、同時進行にやれる程、俺は器用な人間じゃない。

仕方ない、予定していた目的だけ果たすか。


「で、今日なんですけど、先輩に渡すものがありまして。こちらです」

「……? ライター、じゃないよね。パソコンに挿すメモリ?」

「に、見えるボイスレコーダーです」


とっ捕まえるに当たって、明確な証拠がいる。その為にはこういうものが必要だと考えた。

小型だが、集音性・音質共に十分。加えて録音時間もかなり長い。

だから、こういうことが頼める。


「明日、登校から下校まで、これをずっと録音モードにして頂けませんか?

 先輩のクラスの雰囲気を掴みたいんですが、下手に俺が行ったら怪しまれますし。

 今回のことを解決するに当たって、柏木先生との接触はギリギリまでしないつもりです」

「私の、クラスの……」

「先輩が何でこういうことになっているかの手がかり……とまではいかなくても、

 その欠片ぐらいなら、拾えるかもしれませんし。勿論、いい気分はしないと思いますが。

 お願いできますかね?」

「……うん。やってみる」

「ありがとうございます」


こっち側の数少ないアドバンテージは、行動を知られていないこと。

体育祭の一件でマークされたかもしれないが、それ以外、俺と柏木先生の関わりはない。

これは陽司と水橋も一緒だ。ノートに書かれている分、俺よりもマークはキツいが。

気付いた時にはもう遅かった、となるまで、水面下で事を進める。

脇役のステルス性は、こういうところで役に立つんだよ。


「これ、いくらしたの? 今、手持ちあんまりないんだけど……」

「大した額では。そもそも、これは先輩に渡したわけじゃありません。

 俺が持ってるのを貸しただけなんで、早くに返して頂きます」

「そっか……ごめんね、変な勘違いして」


すいません、嘘つきました。これは今回用に買ったブツです。

先輩に対してはこうでも言わないと、無理矢理にでも金渡そうとするだろうし。


「意味、分かります? 普通、ボイスレコーダーを常時持ち歩く生活なんてしませんよね?

 この問題を早く解決して、先輩の平穏な日常を取り戻すってことですよ」

「藤田くん……ありがとう。藤田くんがいてくれて、よかった」


やっぱりこそばゆいな。謝られるより感謝されるのが嬉しいのは俺もだけど、こそばゆい。

慣れてないからな、こういうこと。基本的に何やっても透の手柄になってきたし。

脇役根性、染み付いてるなぁ……

【サルの目:生徒データ帳】

宇野(うの) (みどり)

?部

ルックス A

スタイル A

頭脳   ?

体力   ?

性格   D


【総評】

大企業のお嬢様にして、THE・悪役令嬢。

飛びぬけてという程ではないが、容姿は整っているし、スタイルもスッキリしてる。

その分かどうかは知らんが、性格がとことんクズい。

男子・女子共にアゴで使うことが当然だと思っているらしく、どこまでも高慢。

使用人とかいそうな家系だけど、迷惑してるだろうなぁ……


総合ランク:A(下僕をモテ度で換算した場合。しない場合はC)

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