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【社説】

入管難民法の改正 「共生」の国はどこへ

 なぜ、それほどまでに急ぐのか。外国人労働者の受け入れを拡大する入管難民法などの改正である。議論不足の見切り発車では禍根を残す。

 参院法務委員会での法案審議が大詰めを迎えた六日、安倍晋三首相は、来年四月に予定する法律の施行前に「法制度の全体像を国会に報告したい」と答弁した。

 衆院での法案審議の在り方を憂慮した大島理森衆院議長が自民、公明の与党に法施行前の政府報告と再質疑を求めたことに応えたものだが、首相の発言は改正法が生煮えで、不備も多いと、認めたも同然だ。

◆国会への冒涜に等しい

 本来であれば、法制度の全体像は国会提出前に政府部内や与党内で綿密に組み立てられ、それを基に国会で十分な審議時間をかけて議論されるべきだ。

 全体像を明らかにしないまま国会審議を強引に進め、成立さえすれば、あとは政府の思い通りになるという安倍政権の政治姿勢は、唯一の立法府である国会を冒涜(ぼうとく)するに等しい。断じて許されない。

 首相発言を引くまでもなく、この改正法には多くの問題が残る。

 外国人労働者の受け入れを拡大する新制度は人材確保が困難な産業分野で一定の技能を持つ「特定技能1号」と熟練技能に就く「特定技能2号」の在留資格を設けるのが柱だ。

 しかし、新制度は来年四月開始だけが確定したようなもので、外国人労働者が来日して働き始めた場合、さまざまな困難を予感させる杜撰(ずさん)な制度設計である。

 外国人労働者の円滑な受け入れには労働者自身やその家族の日本語教育、医療・福祉などの生活支援策といった整えるべき施策がいくつもある。生活者として迎えるには、地域社会との摩擦を避けるための対応策も必要だ。

◆過酷な実態が続く恐れ

 そうした態勢の整備は、どの産業分野や地域に外国人労働者を何人受け入れるのかを明らかにすることが前提だ。政府は十四業種で初年度は三万三千人から四万七千人の受け入れを見込むとはしているが、業種別・地域別の数字は明らかにしていない。これでは具体的な対応策がとれるはずがない。

 来年四月のスタートは、見切り発車と言わざるを得ない。これを甘く見れば外国人技能実習生の悲劇の二の舞いになるだろう。日本で技術を学ぶ国際貢献の制度であるはずが、多くは単純労働者として酷使されているのが実態だ。

 二〇一五~一七年の三年間で、外国人技能実習生の計六十九人が死亡していたという。実習中を含む事故死や病死のほか、自殺も複数人いた。法務省の集計である。実習生の労働現場は予想以上に過酷で非人道的だったのかもしれない。看過できない問題だ。

 新制度で来日した外国人がそうならない保証がどこにあるのか。

 しかも「特定技能1号」の人は家族帯同が認められない。それ自体が人権上の問題だし、働く期間は永住権取得の要件である「国内就労」に算入しないという。これは人間としてでなく、単なる労働力としてのみ存在を認めるという意味ではないのか。

 この発想は技能実習制度の引き写しにほかならない。新制度で外国人の劣悪な労働環境が固定化する可能性さえある。昨年失踪した技能実習生の67%が最低賃金をも下回っていた。新制度では「日本人同等以上」の賃金をうたうが、それは最低賃金を指すのかもしれない。景気の調整弁に外国人を使おうとしているのか。

 何度も主張したい。人道上の問題が明るみに出ている技能実習制度は廃止すべきだ。同時に新しい在留資格をつくるにしても、受け入れ態勢が整うまで法施行を見合わせるべきである。悪質な仲介業者を排除する取り決めも必要だ。

 二〇二〇年には東京五輪・パラリンピック、二五年には大阪万博が開かれ、多くの外国人が訪れるだろう。多文化共生社会は目指すべき方向でもある。

 しかし、一連の国会審議では、詳細な制度設計ばかりか、最も重要な外国人との「共生の思想」はほとんど議論されなかった。外国人労働者を安価な労働力としか考えないような身勝手な発想では、国際社会で尊敬はされ得まい。

◆強引審議が目立つ与党

 十月に始まった臨時国会では、通常国会に続き、与党が審議を強引に進める場面が目立った。水道法の改正は自治体の水道事業に、漁業法の改正は漁業に、いずれも企業の参入を促すものだが、与党は慎重審議を求める野党の声に耳を貸さず、採決を強行した。

 外国人労働者の受け入れ拡大を含め、これらは政策の大転換だ。強引な審議を繰り返すようでは、国民の理解は得られまい。国会軽視はもはや許されないと、安倍政権は肝に銘じるべきである。

 

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