モモです! 外伝集   作:疑似ほにょぺにょこ
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とめいとう様からのお題目
『ガゼフ』『2週目』『アインズと出逢う』ですっ

このお話はモモです!ではなく、本編のガゼフ様です。
つまり、アインズ・ウール・ゴウン魔導王と戦い、死んだガゼフ様です。
さて、彼が行った2週目の世界は──


お題目短話-6 Re:ガゼフ

──私は今どこに居るのだ。

 

 暗く、深い。意識が沈む。眠りとも違う、揺蕩う自身を無意識ながら認識していく。

 意識が浮き上がらない。夢とも違う。目を開けようとするも、周囲が暗すぎて目を開けているのかいないのかすら分からない。

 だから、一つづつ確認していく。

 

──私は誰だ。

 

 私は戦士長。王国戦士長。ガゼフ。ガゼフ・ストロノーフ。

 

──ここはどこだ。

 

 暗い。分からない。

 

──なぜここに居る。

 

 分からない。

 

──では、何をしていた。私は何をしていた。

 

 戦って居た。

 

──誰とだ。

 

 ゴウン殿。最強のアンデッド。オーバーロード。アインズ・ウール・ゴウン魔導王殿。

 

──戦ってどうなった。

 

(あぁ──そうか)

 

 そして気付く。自分は死んだのだと。では、ここは恐らく死んだ者が来る場所。死後の世界というものなのだろう。

 私は、負けたのだ。私は、死んだ。ゴウン殿と戦い、負けて、死んだのだ。

 一瞬思い浮かぶ。ゴウン殿は自分との約束を守ってくれただろうか。我が命を以て、我が死を以てこれ以上の蹂躙を止めて貰えるように、と。

 そして、ゆるりと頭を振る。ゴウン殿は悪ではなかった。ゴウン殿は誠実であった。ゴウン殿は聖人ではない。しかし、正面から、心から願えば応えてくれる誠実な存在であった。で、あれば。

 

(これからの王国にはブレインやクライム君が居る。もう、何も──憂うことは無い)

 

──本当にそうか?

 

 いや、憂いなど掃いて捨てるほどある。しかし、それを成す事はできない。私は死んだのだから。

 

──本当にそうか?

 

 もう一度問われる。本当に私は死んだだろう。しかしそれは終わりを意味するのかと。

 ゴウン殿はアンデッドであり、死すらも超越したものであると言って居た。他者の生死すらも容易く操れる存在であると。死など状態異常の一つでしかないと。

 あの時は私は死んでも良いと思って居た。私の命一つで王国が救えるのであれば、捨てるのは惜しくないと。

 しかしそれは個人的な見解だ。ゴウン殿は私を欲していた。我が配下に成れと。では死した私をどうにかしようとするのではないか。

 幾つもの疑問が折り重なっていく。そして、その疑問が正解だと言わんばかりに身体が浮き始める。

 覚醒の時が近付いてきている。ゆっくりと目を開ければ、浮き上がる先に光が見えた。

 起きた時にまず何をしようか。ブレインやクライム君。いや、まず陛下に謝らなければならないだろう。そして、ゴウン殿に──

 

 

 

「ここは──」

 

 見慣れた天井。慣れた感触。ゆっくりと起き上がる。視界に入ってくるものは何一つ変わっていない。ここは、自分の部屋だ。

 ゆっくりと見回す。何も変わっていない。いや、詳しく見れば何点か無いものがある。最近買った物が幾つか。そして他にも。ブレインの私物だ。相変わらず私の部屋に置き続けていたブレインの私物が無い。私が死んだ後に持って出て行ったのだろうか。

 確か、と着替えながら頭を巡らせる。そうだ、確かブレインはラナー姫様のお抱えの兵士になったのではなかったか。であれば、私が死んでいる間に私物を持って引っ越してしまって居る可能性が高い。

 部屋のドアを開ける。視界に入るテーブル。椅子。キッチン。少しだけ汚れた部屋。男の部屋だ。もう少し片づけた方が良いかと思ったのは、何かしらの心境の変化があったからなのかもしれない。

 ドアを開け、外に出る。まだ日も出ていない早朝。何も変わらない日常の朝。平和な朝だ。ゴウン殿は約束を守ってくれたのか。仮初とはいえ、王国はこの平和を享受出来る選択ができたわけだ。

 

「ほっほっ──」

 

 まだ人が疎らな街並みを駆けていく。街並みが一望できる所へと向かうために。身体が軽い。死んで生き返った後とは思えない程に。

 軽い足並みで階段を上っていく。まるで背中に羽が生えているかのように。

 階段を瞬く間に登りきると、視界一杯に王国の街並みが飛び込んできた。私の好きな景色が。どこも壊れておらず、美しい城下町が。守っていかねばならぬ美しき国が。

 

「んっ──んー!!」

 

 ゆっくりと深呼吸をして伸びをする。身体に不調は無い。流石はゴウン殿と言うべきなのか。あまりの一瞬の戦闘であったため、身体が壊される事無く死ねたのはある意味僥倖だったのかもしれない。むしろあの戦闘の前よりも体調が良い気がする。

 

「早いな、ガゼフ」

「ブレイン!」

 

 どれだけ街並みを見続けていただろうか。後ろから声を掛けられて振り向けば、ブレインが階段を上ってきていた。私の隣に立つブレインの姿に隙は無い。私がどれだけ眠っていたのかは分からないが、明らかに強くなっているのが見て取れた。

 

「強くなったな、ブレイン」

「おいおいどうした、ブレイン。そんなにしみじみと」

 

 昇る朝日に目を細めながら笑う。心配をかけた。迷惑をかけた。そんなことはどうでもいいと、そう言ってくれているような、そんな笑顔だ。

 

「──すまない。少しばかり感傷的になっていたようだ」

「気持ちいい朝だからなぁ──」

 

 勝手に死んですまなかった、そう口にしそうになる。しかしブレインが望む言葉はそこにはない。私はどうなるのだろうか、いやどうしたいのだろうか。私は王国戦士長だ。国を捨てることはできない。つまり、どんなことがあろうともゴウン殿の配下になることはできない。

 

「どうした、ガゼフ」

「ん──いや──」

 

 考え事をしていたのを見抜いたのだろう。少しばかり真面目な顔で俺の瞳を覗いてくる。口にだそうかと悩んでいると、背中を叩かれた。笑いながら。言えよ、と。

 

「ゴウン殿と話さなければならない」

「──ごうんどの、って誰だ?お前が殿って付けるくらいだから上の奴なんだろうけど、聞いたことないな」

 

 どういうことだ。あの戦いのときにクライム君と共にブレインは居たはずだというのに。

 

「まさか忘れたのか、ブレイン。ゴウン殿──アインズ・ウール・ゴウン魔導王殿だ」

「あ、あーあー。アインズさん!って──いやいやいや。いつの間にアインズさんそんなすげえモンになったんだよ」

「アインズ──さん?」

 

 どういうことだ、ともう一度疑問が浮かぶ。ブレインと全く話が噛み合わない。

 

「すまないが確認するぞ。ブレイン、アインズ・ウール・ゴウン殿は知っているな」

「おう、ガゼフがどのアインズさんを言っているのかは知らねえが、多分今酒場で嫁さんとイチャついてるアインズさんなら知ってるぜ」

「──嫁?イチャついてる?」

 

 情報が噛み合わない。知らないことが起きている。一体どういうことだ。まさか私は数年にわたって眠っていたのだろうか。

 

「ちょっとまてブレイン。まず、アインズ・ウール・ゴウン魔導国と──」

「だからなんでそんなぶっ飛んだ話なんだよ、ガゼフ。まだ寝ぼけてるのか?アインズ・ウール・ゴウンって言えば──」

 

──十四英雄の一人で蒼の薔薇の現リーダーだろう。

 

 

 

 

 無言で街中を歩いていく。見慣れた街並みだと言うのに、まるで異世界に来た気分である。

 下がりそうになる視線を上げながら酒場へと歩く。ブレインに教えて貰った酒場へ。ゴウン殿──いや、英雄アインズ・ウール・ゴウン殿の所へ。

 

(この世界に魔導国は無い。魔導国と戦って居ない。そして、俺は死んでいない)

 

 何から何まで同じなのに、違う。まるで皆が私を化かしているかのように。

 

(ここか──)

 

 ブレインに言われた場所に確かに酒場があった。確か私の記憶では、ここは空き地だったはずだ。

 『ナザリック』と書いてある看板に記憶は無い。しかし建物自体は相当古いもので、軽く百年以上経って居そうな雰囲気がある。

 

『──じゃないですかぁ!』

 

 入り口に近づくだけで中の喧騒が耳に届く。まだ早朝だと言うのに、中の人たちは随分と元気のようだ。

 『キィ』と音を立てながら扉を開くと、良い匂いが鼻孔を擽る。朝食かと、腹が訴える程に。

 

「おや珍しい。戦士長殿がこんな場末の酒場に来るなんてね」

「あなたは──」

 

 最初に私に話しかけてきたのは、英雄の一人であるリグリット・ベルスー・カウラウ殿だった。確か冒険者を引退なされて、各国を回って不穏な動きが無いか探っておられると聞いて居たが、この酒場に居たとは。

 リグリット殿の声に皆が──蒼の薔薇の皆がこちらを一斉に向く。蒼の薔薇のリーダーであるラキュース殿。巨大なハンマーを軽々と振り回す戦士ガガーラン殿。シノビという特殊な職業を持つ三姉妹のティア・ティナ・ティオ殿。──三姉妹?二人ではなかったか?

 それと吸血鬼<ヴァンパイア>であるイビルアイ殿と──

 

「モモン殿もここに居られたか。しかしゴウン殿が居られないな──」

 

 皆の視線が。私を見て居た皆の視線がモモン殿に向かう。そして、再び私に戻ってくる。

 二・三度繰り返された後、皆が傾げる。まるで、私の言っている意味が分からないと言っている様に。

 

「あー、ガゼフさん。一応この格好の時はモモンガではなく、アインズで通してもらえると嬉しいのですが」

「──はぁ?」

 

 随分と砕けた物言いである。モモン殿と言えば漆黒の英雄と呼ばれる非常に強い冒険者であるが、あまり他者を寄せ付けぬ雰囲気を纏って居た。それがどうだ。まるで普通の青年のような喋り方だ。

そういえば様子がおかしい。あまりにも自然であったために気付かなかった。

 まず、イビルアイ殿がモモン殿の膝の上に座っており、ティナ・ティア殿がまるで恋仲であるとばかりに両隣で身体を摺り寄せている。ティオ殿──誰だこの子は。こんな子は蒼の薔薇には居なかったはずだ。いや、それよりも。

 

(この状態に誰も疑問を持って居ない?)

 

 それに加えて先ほどのモモン殿──いや、言葉通りならばゴウン殿か──の発言だ。まるでモモン殿がアインズ・ウール・ゴウン魔導王であるかのような発言である。漆黒の英雄と呼ばれた男がアンデッドである魔導王だとでもいうのか。

 

「失礼──モ──ゴウン殿、兜を取っていただけないだろうか」

「ほい」

「きゃー!ティオ、簡単に兜をとっちゃいけません!!」

 

 ゴウン殿の肩に乗っていた少女──私の記憶に無い筈のティオ殿がゴウン殿の兜を奪う。そこにあったのは人の顔ではなく、あの時に見た顔──骨の顔だった。すぐにゴウン殿が兜を奪い返して被りなおしたのでほんの一瞬だったが、忘れようがない。

 

「ゴウン殿、これはなんの冗談だろうか」

「え、冗談?」

 

 私が配下になることを拒否したからなのか。だから、蒼の薔薇を王国から奪ったのか。漆黒の英雄を殺してまで。

 そう思い、ゴウン殿に詰め寄ろうとした瞬間──一瞬で席に座らされた。この動き、と視線を向ければ居たのは英雄殿──リグリット殿である。

 

「ガゼフ。アンタ何か勘違いしちゃいないかい」

「勘違いなど!」

「してるさ。まず、このアインズ・ウール・ゴウンなんて恥ずかしい名前を名乗ってる小僧は蒼の薔薇の現リーダーだ。100年以上前からね。つまり、今現在の状態は冗談でもなんでもなく現実なのさ。さぁ、それを前提に考えて喋りな」

 

 正面──テーブルの向かいに座るゴウン殿をじっと見る。返ってくる視線はゴウン殿だけではない。周囲に座る皆から。少しばかりの警戒と困惑を混ぜて。

 訳が分からない。100年前から蒼の薔薇のリーダーをやっていた?では魔導国はどうなったのか。

 

「──ゴウン殿、幾つか質問したい」

「ど、どうぞ──」

「まず、アインズ・ウール・ゴウン魔導国はどうなったのですか」

「ぶふぅっ!!!」

 

 至極真面目に聞いたはずなのに、当の本人は凄まじい勢いで咳き込み、周りの皆は肩を震わせている。流石に私が真面目に聞いたから声を出して笑って居る者は居ないが、明らかに突拍子の無い話が始まっているという雰囲気しかない。

 

「あの、その魔導国ってなんですか」

「ですから、魔導国です。数多のアンデッドや異業種を持つ強大な国です。貴方が王として君臨する──」

「何ですかそれは!?」

「へぇ──小僧が王様だったなんて初耳だねぇ」

「え、じゃあ私って王妃様!?うわぁどうしよう──」

 

 まるで冗談か夢物語を聞いて居るかのように誰も信じていない。リグリット殿はニヤニヤと笑いながらゴウン殿をからかい、イビルアイ殿はゴウン殿の膝の上で嬉しそうに身体をくねくねとくねらせている。

 

「ま、状況は分かったよ。ガゼフ、アンタ──世界を渡ったね」

「世界を──ですか?」

「そうさ。元々そこにいる小僧は別世界の人間──いや、アンデッドでね。不意の事故でこの世界に来たらしいよ。まぁアンタみたいに近い世界ではなく、全く違う世界からみたいだけどね」

「違う──世界──」

 

 ここは私の知る世界ではない、ということなのか。全く同じなのに何か違うと、違和感を感じていた理由がそれだったようだ。

 だからといって簡単に理解できる話でもない。

 

「にしても面白い話だねぇ──この小僧が国を作っている世界があるなんてさ」

「いやいやいや、無理ですよ!俺、小市民ですから。王様なんて無理ですって!!」

 

 しかし、リグリット殿の言葉を必死に否定しているゴウン殿。その姿に嘘偽りを感じることは無い。何より芯は同じようだが、やはり私の知るゴウン殿とは雰囲気が全く違う。

 

「で、その──この世界のゴウン殿は十三──いえ、十四英雄の一人として悪と戦っていたのですか──」

「そうさ。ま、ここ数十年は平和だからね。冒険者の真似事してたらアダマンタイト級冒険者になっちまって、弱小チームだった蒼の薔薇もそれなりに有名になって、今じゃああやって大貴族の小娘が腰かけで来るようになった位だからね」

「こ、腰かけじゃないです!私はちゃんと冒険者としてですねっ!」

「私のモモンガさんに一目惚れして加入してきたくせにぃ?」

「ひとめっ!?ち、ちがっ!──くはないですけどぉ!!」

 

 喧々諤々──いや、和気藹々と皆がしゃべる雰囲気に何ら壁を感じることは無い。私の知る蒼の薔薇のリーダーであるはずのラキュース殿に凛とした雰囲気はない。それに私が知るより少しばかり幼く、少しばかり少女をしているように感じた。

 ゴウン殿が王として君臨せず、英雄として頑張る世界。ゴウン殿とイビルアイ殿が恋仲で、ラキュース殿が横恋慕していて。

ここは──私が知るより少しだけ優しく、少しだけ平和な世界のようだ。

 

「憑き物が取れたような顔をしているね。理解は出来ずとも、納得は出来たかい」

「えぇ、ご迷惑を──お掛けしました」

 

 ゆっくりと深呼吸をしてから蒼の薔薇の皆に一礼する。礼。そう、礼だ。

 私はゴウン殿の配下になるという選択肢を選ぶことが出来なかった。

 私は生き続けるという選択肢を選ぶことが出来なかった。

 私は捨ててしまったのだ。未来を。世界を。選択肢を。

 だからなのだろうか。きっと、私がこの世界に来たのは──きっと──

 

「皆さん、聞いてもらえますか──」

 

──悲しき孤独な王の話を。

 




というわけで、原作で死んだガゼフ様が、隠し外伝のSugar and spice and all that’s niceルートの世界に飛んでしまったお話でした。
とはいえ、Sugar and spice and all that’s niceに書いてある時代ではなく、現代(モモンガ様達があの世界に来た時代)ですけどねっ
なので主人公であるモモンガさんはラノベ主人公らしくハーレムモードです。
ラキュースさんちょっと影キャ化してます。原作に居ない3姉妹の最後の3人目がオリキャラ化して居ます。って感じでいろいろ変わってます。

モモです!が終わった後に書くかもしれないお話の世界でもあったりします。

さぁ、皆さん。とめいとう様の方を向いて叫びましょう。
ありがとー!






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