モモです! 外伝集   作:疑似ほにょぺにょこ
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このお話はL田深愚様
『カルネ村』『フェイ』『日常』のお題目を元に作成されました。

読むときは、L田深愚様に向けて敬礼しましょうっ!びしっ!


お題目短話-4 春が来たっ!

「わたし──わたし──」

 

 平和な一日。平和な日常。特別悪い天候でもなく。強大なモンスターも現れず。村人とゴブリン、オーガ達は野良作業に精を出す。それは、このカルネ村において極々当たり前の光景である。

 ただし、常に同じ日常が流れるわけではない。時とは移ろい行くもの。この平々凡々とした村でもそれは同じである。

 

「このままじゃ──」

 

 まぁ分かりやすく言うならば、この村の族長であるエンリ・エモットに彼氏ができたというわけだ。これは吉事であり、良い事である。しかし、ある一名にとっては、凶事であった。

 

「結婚できないまま──」

 

 そう、エンリ・エモットの彼氏であり村の薬師であるンフィーレア・バレアレの妹であり、結婚適齢期を迎えた年代であり、村にはもう同年代の男子は居ないという恐ろしくも悲しい現実に直面した──

 

「お婆ちゃんになっちゃうじゃないのよぉぉー!!」

 

 フェイ・バレアレである。

 これは、この寂しい人生を送ることが確定しかかって──

 

「ちょっとジュゲム!変なモノローグ付けないでよ!!」

「いやでもフェイの姉さん。いい加減男見つけねえと、来手も貰い手も無くまっちまいやすぜ」

 

 ──しかかっている、一人の少女の物語である。

 

「ぜぇったいに、彼氏見つけてやるんだからぁぁー!!」

 

 少女に、幸多からんことを。ゴブリン一同、お祈りしておきます。

 

 

 

 

「全くお兄ちゃんったら、酷過ぎるわよ──」

 

 『ぐぬぬぅ』と少々──いやかなり少女としては出してはいけない呻き声を出しながらテーブルに突っ伏す。身体の中で暴れまわる怒りを逃がそうと、テーブルに頭を預けながらゆっくりと息を吐いた。窓から漏れる陽が少し翳り始めている。もう一刻足らずで日も落ちるだろう。兄はまだ帰ってこない。恐らく今日『も』エンリさんの所に行っているのだろう。通常の3倍くらい鼻の下を伸ばしながら。 

 私の兄と族ちょ──村長のエンリさんが付き合い始めて早一ヶ月。私もそろそろ異性の友達──いえ、あえて言いましょう──彼氏が欲しいと思ったのである。

 それでエ・ランテルでもそれなりに顔の広く、交友関係もある兄に頼んだのだが──

 

「なにが『あ、うん。ちょっと無理かな』よ。自分はエンリさんの胸押し付けられてデレデレしてるクセにっ!!」

 

 こっそりと私の細い交友仲間の伝手を辿ってエ・ランテルで彼氏募集してみたのだが、やはり薬師として大成している兄とは違う。

 返ってきた手紙には『あなたの幸せを願っています』と、遠回しに拒否の言葉が書いてあるだけだった。

 まぁ気持ちは分からないでもない。何しろカルネ村は田舎だ。忌憚なく言うならばド田舎だ。今でこそ多少は発展したと言えるかもしれないが、エ・ランテルの都会ぶりから考えるならば、ド田舎以外の評価が出るはずもない。しかも、この村の住民ならば受け入れてはいるものの、一般的にモンスターと称されるゴブリンやオーガ達が和気藹々と共に生活しているなど想像すらできないだろう。正直な話、祖母がエ・ランテルに行くと決めた時はエ・ランテルで一人暮らしをしようかと考えたくらいだった。

 実際は、薬師を必要としていた領主のゴウン伯爵様が冒険者に扮して祖母と取引?したとかで、必ず行かなければならなかったらしい。私が丁度リ・エスティーゼ王都へと薬を卸しに行っている間に兄が拉致されていたらしく、その報酬という形だったらしい。とはいえ私が帰ってきた時にはいつもの笑顔で出迎えられたので、最初はただの冗談かと思って居た。

 しかしそれは本当の話で、ゴウン伯爵様が居なければエ・ランテルは滅んでいたかもしれないほどの事態だったそうだ。ここカルネ村も同じくゴウン伯爵様に救っていただいたとかで、異常なほどに忠誠心が高い。私としては『凄い人なんだなー』程度でしかないのだが。

 エンリさんの話では長身でスラっとしているかなりのイケメンらしい。本人曰く、兄さんが居なければゴウン伯爵様に惚れていたかもしれないほどだったとか。

 

「──伯爵様って側室の募集とかしてないかな」

「してないんじゃないかなぁ?」

 

 突然後ろから聞こえてきた声に振り返ると、いつの間にか兄が帰って来ていたようだ。やはり族長の──じゃなくて村長の彼氏というのは色々と苦労が多いのだろう。朝見た時よりも明らかに疲れた顔をしている。

 

「お兄ちゃん、ごはんは?」

「ん、食べて来たよ。はいこれ、エンリがフェイにって」

 

 気の利く優しい義姉は私の分まで晩御飯を作ってくれていたようだ。器を受け取るとまだ暖かい。なんというか、彼女の優しさを感じる温かさだった。兄には勿体ない位に良い女性<ヒト>なのである。

 

 

「んくんく──はぁ──美味しい──なんであんな良い女性がお兄ちゃんの彼女になってるんだろ」

「まぁ──幼馴染ってのもあるかなぁ──」

 

 義姉から頂いた食事に舌鼓を打ちながら幼馴染かぁ、と心の中で呟く。正直な話、私の交友関係は狭い。有能な兄に引っ張られる様に毎日薬師としての勉強を続けていたせいだ。青春の大半を、勉学に費やしてきたからなのだ。しかし才があるとはいえ、同じことをしてきた兄には幼馴染がおり、彼女になっている。この差は一体何なのだろうか。

 

「って、そう言えば──伯爵様が側室募集してないってマジなの?」

「確定じゃないけどさ。冒険者に扮している時もすっごい美人の女性を連れまわしているし。この前エンリがゴウン様に招待されてナザリック──あ、ゴウン様が住まわれているところね──そこに行ったんだけど、びっくりするくらい美人のメイド達を侍らせてたらしいよ」

 

 『ぐはぁ』と少女らしくもないため息を付きながらテーブルに突っ伏す。なんて夢も希望のない世の中だ。満たされたのは胃袋だけではないか。

 しかし、捨てる神あれば拾う神ありという諺がある。こう──縁の無い私に良縁を授けてくれる神様がどこかに──

 

「はーい?」

 

 村では珍しい控えめなノックに顔を上げる。誰か来たようだ。疲れている兄を酷使するわけにもいかず、気持ちを切り替えて立ち上がる。笑顔。笑顔だ。全ては第一印象で決まる。そう、ドアの向こうに神からの良縁があるかもしれないのだから。

 

「こ、こんばんわ──」

(神、居たァー!!)

 

 大して信仰心などあるはずもないのに、思わず心の中に讃美歌が鳴り響いた。なにしろドアの向こうに居たのは、まるで美少女のように可愛らしい男子だったのだ。

 彼がなぜスカートを履いているかとか、肌が浅黒くて多分ダークエルフなんじゃ?とかどうでもいい。見た目とか趣味とか種族とかそんな小さなこと、愛さえあればどうとでも超えられる。そういうものなのだ、愛。すばらしきかな、愛。

 

「結婚してください!」

「──はい?」

 

 よし、はいってOK貰ったァー!──じゃない、何を口走っているのよ私はぁ!!

 即座に訂正をして謝れば、多少苦笑した感じはするものの簡単に許してくれた。何と優しい心の持ち主なのだろうか。天使だ。私のために堕天してくれた優しき黒天使なのだ。

 

「あ、あの──ンフィーレア・バレアレさんのお家で──間違いないですか?」

「あ、はい!それ、兄です!私、妹のフェイ・バレアレって言いますっ!」

 

 少々押しすぎただろうか。苦笑いしながら若干後退りされてしまったが、帰らせるわけにはいかない。彼の腰にそっと手を当てながら中へと促した。

 

(ヤバい腰細い小さい可愛いマジ天使すぎて辛いぃぃ!!)

 

 少々強引な感じで中に入れてしまったが、そんなことは気にしていないと私に笑顔を向けながら『ありがとうございます』と礼を言ってくれる。本当に天使だ。

 

「あ、貴方がンフィーレア・バレアレさんですか?ボクはマーレ・ベロ・フィオーレって言います。アインズ様より──」

 

 ──どうやらゴウン伯爵様のお使いでウチへ来たようだ。たどたどしい口調でありながらも専門用語で兄と話し続けているため、内容が半分すらも頭に残らない。ここカルネ村に来てから薬師としては仕事をしていない──やるとしても精々兄の手伝い程度だ──ので、仕方のない話かもしれないが。しかし聞いたことも無い薬草の名前が羅列したりしているのに、なぜうちの兄はあんなに平然と対応できるのだろうか。

 

「──と、いうわけなのですが。大丈夫ですか?」

「えぇ、勿論です。多少難しいかもしれませんが、ゴウン様に頂いたご恩。それを返すためにも、全力でやらせていただきます」

 

 仕事の時の兄はとても格好良い。義姉が惚れるのも無理はないだろう。しかしその兄を前にしても一切翳らないこの天使は何者なのだろうか。マーレ君、マーレちゃん、マーレさん。さん、は遠い気がするし。ちゃん、は馴れ馴れしいかな。ここは君だよね。

 

「はい、ありがとうございます。アインズ様もお喜びになると思います」

 

 どうやら話が終わったようだ。ここで逃がすわけにはいかない。この細い糸の如き縁。ここで帰らせれば、まず間違いなくぷつりと切れてしまう。決して──ニガシテナルモノカ。

 

「では、ボクは──」

「もう遅いですし、今夜は泊まっていきませんかっ!」

「え──ちょ──フェイ!?」

 

 二人の会話とぶった切る勢いで大声で静止させた私を二人が見つめて来る。突然何を言っているんだと顔を青くしながら凝視してくる兄と──

 

「え、でも──」

 

 思わず抱きしめたくなるほどに尊い顔で私を落そうとしてくる──天使だ。あぁ、尊い。

 

「大丈夫です、お兄ちゃんは今からお義姉さん──エンリさんの所に泊まりに行きますし──行くよね?」

 

 半分泣きそうな顔で首を横に振り続ける兄を、殺す勢いで睨みながら小声で行けよと言う。妹公認で夜這いに行けと言っているのだから嬉しいだろうに、なぜ涙を流すのだろうか。嬉し涙だろう、きっと。

 

「あの、でも、ボク──」

「わたしっ!マーレ君とお友達になりたくて、もっと──あなたの事を知りたいし。──それに!私、ゴウン伯爵様の事を全然知らないから──」

 

 今まで培ってきた相手の表情を見る力を最大限に生かしながら押していく。どうやら彼は相当伯爵様を慕っているようだ。伯爵様の名前が出た瞬間、明らかに表情が変わったのだ。ここだ、と一気に畳みかけていく。

 

「今夜、ゴウン様の事──いろいろ教えてくれませんか?」

「はい、ボクでよければ──是非!」

 

 『いよっしゃぁ!!』と、心の中で勝鬨を上げた。そう、勝ったのだ。私は。

 マーレ君との小さな縁を、少しだけだが太くすることが出来たのだ。

 

「じゃ、お茶──入れなおしますね」

 

 喜色満面でテーブルを片付けていく。何故か渋る兄の尻に、マーレ君に見えない様に蹴りを入れながら。さっさと行けよ。上手くいけば今夜私は大人の女性の仲間入りするんだから、邪魔しないで欲しい。

 

 

「えっと、何から話そうかな──」

「最初から──うん、最初から。マーレ君とゴウン様の出会いからが良いなっ!」

 

 未だに行かぬ兄を蹴り出して扉を閉め、マーレ君の隣に座る。まだ触れてはいけない。早まってはいけない。ゆっくり、じっくりと──

 

 

 

 

 

「──と、いうことがありました」

「ほぉ──」

 

 俺は執務室で、マーレに頼んでいた件について話を聞いていた。新しいポーションについての話だ。多少は詳しいだろうとマーレに頼んだのだが、これが意外と良かったようだ。

 お陰で仔細を詰めることが出来たようで、これからの結果に大いに期待できるだろう。

 

「──どうした、マーレ」

「いえ、その──」

 

 どうしたのだろうか。珍しく口を濁している。言い難いことがある。というより、言い辛い感じだろうか。どういうわけか、少しばかり顔が赤い。

 聞く俺に対し、言わないのはいけないと思ったのだろうか。決心した顔をすると、マーレは口を開いた。

 

「あの、ポーション作成に携わっているンフィーレア・バレアレに妹が居ますよね」

「あぁ、フェイ・バレアレ──だったか。その者がどうかしたか」

 

 家族丸ごと連れてこないと面倒な事が起きたときの対処が面倒だからという理由で一緒に引っ越させた子だ。別にそれ以上の理由はなく、護衛の対象にも入れていない。

 

「はい、アインズ様の事について聞きたいと言われまして──」

「ふむ──?」

 

 そういえば、その子は俺がクレマンティーヌ達を下した時には居なかったのだったか。終わった直後辺りに帰ってきて、それから事情を聞いて一緒にエ・ランテルからカルネ村に向かったとか。たしかそんな感じだったはずだ。

 

「そうか、バレアレ家の中で唯一私との面識がなかったな」

「はい、そのようで──色々聞かれましたが──宜しかったでしょうか?」

「構わぬ。私に悪意を持って居たのではないことは、お前を見ればわかるからな。何も問題はない」

「そ、そうですか──」

 

 明らかに安堵した様子でマーレが、ほっとため息を付いた。

 

「マーレよ。お前は私の事を思い、良かれと思って行動したのだろう。それは素晴らしい行いだ。何ら悪いことも、恥ずべきことも無い。むしろ私は嬉しいぞ」

「う、嬉しい──ですか?」

「あぁ、勿論だ。お前の成長を感じることが出来たのだからな。それを喜ばない筈も無いだろう」

「あ、ありがとうございます──」

 

 相当恥ずかしいのだろうか。マーレは顔を真っ赤にしながら深々と頭を下げた。

 

「──それで、その子の事をどう思った」

「は、はい。とても好まし──じゃなくて、良い子であると思いました。アインズ様への忠誠心も申し分なく──」

「ふふ──よい。蛇足であった。お前がそのような顔をするのに、悪い者であるはずがなかったな、許せ」

「い、いえ!と、とんでも──ありません」

 

 人とのコミュニケーションは心を成長させる要因の一つである。と、誰か言っていたが誰だったか。たぶんウルベルトさんかタブラさん辺りだったと思うが。

 そんな取るに足らない人間であったとしても、マーレの心の糧になるのであれば大事にせなばならないだろう。

 

「ルプスレギナにはその子も護衛の対象に入れる様に伝えて置こう」

「ご配慮、ありがとうございます、アインズ様」

「それとだ、マーレ」

 

 マーレにはアウラと共にバハルス帝国について調べて貰っていたが──アウラだけで大丈夫だろうか。手の空いたものにフォローを入れて貰えばいけるだろう。それよりも、マーレの成長だ。さて、何と言おうか。

 

「なんでしょう、アインズ様」

「うむ、マーレよ。お前には新たな指令を命ずる。これを最優先とし、バハルス帝国についてはアウラに一任とする」

 

 とりあえず周りを埋めながら考えていく。マーレが成長できるように。ただ命令を聞くだけの配下でなく、ただ言われたことしか出来ぬ人形でなく。自分で考え、自分で行動する一人となれるように。彼は大事な──ぶくぶく茶釜さんの子供なのだから。

 

「マーレ。お前はこれより、カルネ村との連絡係を行え。ンフィーレアのポーション作成について密に連絡と情報をとりあうのだ」

「は、はい。了解しました」

 

 さて、ここからが重要だ。頷くマーレを見ながら、わざとらしく咳を一つ。喉がないのだからする必要もないのだけれど。お陰で俺の咳を聞いたマーレが不思議そうに、きょとんと首をかしげてしまった。

 

「マーレよ。ンフィーレアとの仕事のついでに、そのフェイという娘と交流を行え」

「えっ──」

 

 マーレが驚きを隠せず目を見開いた。何故そう言われたのか分からないのだろう。まだまだ成長が足りない。逆を言えば、成長させられる余地があるという事だ。だが、心を成長させるためにその娘と交流しろと言われても何が何だか分からないだろう。

 

「んんっ!マーレよ。お前はその娘に私の事を聞かれたと言ったな」

「は、はい──」

「私の事をどれだけ伝えられた。全てではないだろう。私の事を語るには、一晩で語り尽くせる筈がないのだからな」

 

 マーレがどうかは分からないが、前にアルベドやデミウルゴスに聞いてみたら『最低でも一ヶ月はかかる』と言われてしまって居る。一体一ヶ月も何を語り続けるのか、あの時は興味よりも恐怖が勝ってしまった。流石にそこまでは行かずともマーレも一日で語り尽くせるということは無いだろう。きっと、多分。

 

「は、はい!それは当然です!」

「そ、そうか。当然なのか──」

 

 俺の話は一晩では語り尽くせないのが当然なのか。俺自身が語ったら一時間も掛からない気がするのだが。

 

「んんっ!それでだな。私の事を上手く、正しく、正確に伝えるのだ。出来るだけ、時間をかけてな」

「な、なるほど。アインズ様の素晴らしさを宣伝すれば良いのですね。わかりました!」

 

 嬉しそうに頭を下げるマーレを見て、本当にこれで良かったのだろうかと疑問は残る。しかしこれはあくまで切欠である。俺の話を糧に、コミュニケーションを続けてもらう。それによってマーレの心の成長を促すのだ。

 

「急がず、ゆっくりとで良い。大きくなるのだぞ、マーレ」

 

 嬉しそうに出ていくマーレの後ろ姿を見ながら、そっと呟く。まるで、息子の成長を願う父親の気分だった。

 

 

 

 

「えぇぇぇぇ!? アンタ!人間と交際するですってぇ!しかも、アインズ様がお認めになったぁ!?」

「う、うん。頻繁に会えないだろうからって、わざわざ配置換えまでして頂いちゃった」

 

 ボクは嬉しくなって、真っ先に姉のところに飛んで行った。バハルス帝国の事を独りでやってもらわないといけないこともあり、少しばかり後ろ暗く感じたからというのもあるけれど。

 

「で、でも交際ってほどのものじゃなくって──ただの友達で──」

「何言ってるのよ。あんたの顔を見ればわかるに決まってるでしょ──くはー!弟にも春が来たかぁー!!」

 

 春と言っていいのだろうか。百年すら満たない、たった数十年で散ってしまうものだというのに。

 僕の大好きなアインズ様の事が、同じく好きな子だったってだけで。そういう特別な感情があるわけではない。はずだ。

 

「んふふ。いいよいいよ。どうせバハルス帝国にはプレイヤーは居ないって確定してるし」

「え、いつの間に──」

「ちゃんとジルに確認取ってるし、裏も取れてるからねー」

「だから、いつの間に──」

 

 ジルってたぶん帝国のトップの名前だよね。いつの間に仲良くなったのだろう。シャルティア辺りから魅了の魔法でも使ってもらったのだろうか。

 

「まっ、バハルス帝国については──この有能なお姉ちゃんにまかせなさーい!アンタは、向こうで頑張りなさい、ね?」

「う、うん。ありがとう。お姉ちゃん」

 

 ふと思ってしまう。もしかして、お姉ちゃんにも春が来たのかって。お姉ちゃんが皇帝の妻になれば、それはイコールバハルス帝国がアインズ様のものになるという事なのだし良い事尽くめなのだけれど。

 まるで太陽のような笑顔を向ける眩しい姉にボクは目を細め、笑った。

 

 

 

 

 

「あの、本気で付き合う気なの?相手はゴウン様の直属の配下の方で、ものすっごい偉い人なんだけど──」

「だからなに?だからどうした?その程度の事で委縮するほど私は甘くないのっ!この縁を!確実にする!そして、彼氏を!旦那様を!ゲットするの!!」

 

 行商人から奮発して買った姿見で格好をチェックしていく。笑顔、よし。私、可愛い!

 後ろであまりのことに苦笑が硬直して歪み始めている兄を睨み、両肩を掴む。むしろ、握りしめた。

 

「あの、フェイ?」

「わかる?お兄ちゃん。私にとって、これはラストチャンスなの。これを逃がしたら一生結婚できないの」

「そんなのわかるわけが──」

「乙女なめんなぁ!分かるのよ!私の人生は、マーレ君と一緒に歩むためにあ・っ・た・の・よ!」

 

 両肩を掴んだまま力の限り前後に振る。相変わらずのモヤシ体形の兄は成すが儘に、振り子の様に揺れた。こんなにヘッポコなのに、なんで義姉は惚れたのだろうか。

 

「っと──はーい!」

 

 控えめのノック。彼だ。何やらゴウン伯爵様が私とマーレ君の縁を応援してくれているのか、この村との連絡係に配置換えしてくれたらしい。お陰で毎日の様に彼に会うことができる。マジ神。ゴウン様って、実は神様なのではないだろうか。天使マーレ君を遣わせた神様。ありがとう神様!

 

「こ、こんにちわ、フェイ──ちゃん」

 

 ドアの隙間からこちらをうかがう様にそっと覗く可愛い彼が私を笑顔にしてくれる。私は最高の笑顔で彼を迎えられているだろうか。

 必死に訂正を重ねる事、数十回。なんとか私の名前の後に『ちゃん』を付けることに成功した私は、名前を呼ばれる度に天にも昇る気分になる。今度しっかり昇れたらゴウン様にお礼を言わないといけない。

 

「こんにちは、マーレ君。今日もゴウン様のこと、聞かせてねっ!」

 




というわけで、フェイとマーレのお話でした。
この設定は最初から決めていたことです。フェイを出そう。よし、誰かとくっつけよう。マーレ良いんじゃ?って感じで簡単に。
web版はさっと読んだだけなので、フェイちゃんの性格はほぼオリジナル状態だと思います。口調とか祖語とか一切気にせず筆の向くままに書ききりました。
私のSS独自のオリキャラだとでも思ってください。どうせ外伝にしか出まs……ゲフンゲフン。

花の命短し恋せよ乙女。
本当に、爆走して頂きました。正直なところ、ここまでぐいぐい来る子でないとうちのマーレは落ちませんので。

というわけで、面白いと思ったらもう一度L田深愚様へ敬礼しましょう。
Wenn es meines Gottes Wille!って感じで。







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