第2部
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結局、その日はダイヤモンドランクの依頼二件、プラチナランクの依頼を七件、合計九件の依頼をこなした俺たち。最後の依頼をこなし、冒険者ギルドに戻る。
「いや~、あのゴブリンの群れを倒した後だとダイヤモンドランクの依頼が霞んで感じるな」
「さすがにあのレベルの討伐はないからねぇ。数だけでも三百はいただろう?」
「そうだな。パーティクエストだとしたら、マスターランクに近かったんじゃないか?」
「まさにその通りさ。またやってみたいねぇ、あっはっは!」
リエルは俺たちのパーティに入って変わったように感じる。元々明るかったが、今はとても生き生きとしている。これは、もしかして今まで孤高の存在だったが故かもしれない。
「「おぉ!」」
冒険者ギルド内がざわつく。その声はキャロとティミーのものだった。
俺とリエルは椅子の背もたれに背中を預けながら、声がした方を見た。
「どうしたんだ、ティミー?」
すると、ティミーが笑顔でこちらの方を見てピースを向けたのだ。
はて、何か良い事でもあったのだろうか。俺が理解していない事を気付いたようだ。
「もうっ、クーがプラチナランクになったのよっ!」
「おぉ! そりゃ凄いな!」
先程以上に騒然とする冒険者ギルド。これでパーティからゴールドランカーはいなくなった。パーティ全員がプラチナランク以上となったのだ。そりゃ皆も驚くだろう。
そうかそうか、三人は冒険者カードの更新をしてたのか。
『お主もそろそろしたらどうなのだ。ゴブリンの群れと戦った時、我は更新しろと言ったであろう』
『あぁ、そうか。帰ってから凄いドタバタしてたから完全に忘れてたよ』
『そんな事だろうと思ったわ』
「俺も更新してくるわ。リエルは更新したのか?」
「アタシは毎回戻ったらやってるよ」
「へぇ、ちょっとは上がった?」
「うんっ、まだまだ先があると思うと嬉しくるねぇ。さ、行っておいでっ」
そんな明るい声に送られ、俺はクーたちを取り囲む冒険者を横切って受付まで向かった。
あれじゃあ今クーを褒めてやる事は難しそうだしな。
「冒険者カードの更新をお願いします」
「かしこまりました」
冒険者カードをギルド員に渡し、神聖陣に
「お疲れ様です。どうぞ」
冒険者カードを受け取った俺は、最初に目に入った文字に
ディルア:二十七歳
ランク:マスター
スキル:超神風/神眼/神力/神体/サーチ/ブレイク
常時スキル:神の加護/
魔法:上級風魔法/超級闇魔法/上級回復魔法
称号:魔王
筋力:148 体力:121 速力:170 器力:119 魔力:138 運力:111
「さぁ、ディルアはどうなのっ?」
「こらキャロ。ディルアはちゃんと見せてくれるんだから覗き込んじゃだめだよっ」
「とか言いながらティミーだってチラチラ見てるじゃ――――」
「「――――嘘」」
言葉を失っていた俺の気持ちも二人に伝わった事だろう。本当に驚いた時、人間は静かに驚くのだ。
「はは、はははは……」
どうやら、そういった時、乾いた笑いも遅れて出てくるようだ。
「うっそっ!? 何で!? どうして!?」
次第に驚きは伝染していく。皆、ここぞとばかりに俺の冒険者カードを覗いてくるのだ。
完全にルール違反ではあるが、取り締まる組織がいない以上、やはりそこは仕方ないのだろう。
そして、周りが驚く理由を理解した人間がそれを見ると、その驚きは静かなものから変化するのだ。
「うぉおおおおおおっ! ディルアがついにマスターランクだっ!」
「おい、マジかよっ!? っ! 本当だ! アルムの都で二人目のマスターランカーの誕生じゃねぇか!」
「おい俺にも見せろ! くそっ、何だよこの神の加護ってのはっ!?」
「俺、超神風なんてスキル初めて見たぜ……」
「
「てか炎耐性がやべぇ! おい! 誰かディルアを火あぶりにしてみろっ!」
「超級闇魔法……って上級の更に上があったなんて初めて知ったぞ!?」
「てゆーかこの速力何だよっ!? あり得ないだろうっ!」
とりあえず、火あぶりとかぬかした冒険者の顔は覚えたとだけ言っておこう。
ったく、下から上がった冒険者ともなると、この扱いは必然なのだろうか。
どうやら受付の奥の方でもざわついているようだ。確かに二人目のマスターランカー誕生ともなれば、そうなってしまうか。
「おい、いい加減それ返せ」
俺は自分の冒険者カードを取り上げ、改めてそれを見る。
『ふふふふふ、思った通りだ。順調ではないか』
『加護の力が強まり、炎耐性も向上した。
俺が頭を掻きながらサクセスに言う。
『当然であろう。我がこれまで行っていた魔力放出は全て闇魔法に該当するからな』
コイツの空打ちが原因かっ!
いや、しかしそれだけ闇魔法を使い込んできた証拠か。
「ディルア、みせてー!」
クーが俺の冒険者カードを覗きに来た。
「おうクー、お前も頑張ったなー。よーしよしよしよしっ」
「うぅううう~? くすぐったいー」
「ははははは、それじゃあクーの今日はお祝いだなっ」
「ディルアも……でしょ?」
伺いながらクーが言う。これには俺も驚いてしまった。クーもしっかり成長している。そういう事だ。
「あぁ、そうだな!」
俺は少し嬉しくなって再びクーの頭を撫でる。
「ふぉお~」
クーもそれに甘え、俺の手の動きにその頭を合わせた。
「よっしゃ、さぁ皆クーと俺のお祝いだ! 今日は飲むぞっ! そして食うぞっ!」
そう言った俺に、ティミーは嬉しそうな顔を向ける。キャロは未だ俺のマスターランクに釈然としない様子だ。まぁこの一年キャロも頑張っているからな。追い付けない事を不満に思う事もあるだろう。
そう考えていると、俺の言葉を何故そう受け取ったのかわからない冒険者ギルドの面々が、叫び喜んだ。
「おい聞いたかよっ!」
「あぁ、今日はディルア持ちだってよっ!」
「ヒャッハァアアアアッ! タダ酒だぜっ!」
「お、おいっ! 俺がいつそんな事言ったんだよ! 俺が奢るのはパーティの皆だけだ!」
そうは言っても、周りの冒険者たちは、既に俺の声が届かないくらいヒートアップしていた。
「ど、どうすんだよこれ……」
「大丈夫だよ、ディルア」
俺が自分の懐を心配していると、ティミーが笑顔で言ってきた。
はて、俺個人の懐はそれ程明るくないはずだが?
「こういう時くらいオシャレなお店に行きましょう。お店の人に、予め支払いの約束なんてしてないって話しておけば問題ないから」
時々ティミーが恐ろしくなる。普段は優しいティミーが、こういう事を笑顔でできるのは心強いと共に恐怖を伴うような気がする。そんなティミーの提案に乗った俺は、アイコンタクトとジェスチャーでリエルを呼び、キャロとクーの手を掴みながら食堂の店主にその旨を伝え、隠れるように店を出た。
「あの店主も人が悪いな。笑ってたぞ?」
「店主……
ティミーは他の悪いヤツを探すかのように首を傾げた。え、なにこのティミー……怖い。
それから俺は、キャロに手を振り
中央区は、グレードの高い飲食店が多く、貴族が利用する事もある。当然、クーの頭巾の事もあり、ドレスコードのある店には入れないが、それでも冒険者が入れる店も多い。
「クー、何が食べた――」
「――おにくっ!」
目を輝かせたクーが、食い気味に肉薄する。眼前に迫るクーの口に恐怖した俺は一瞬跳び退く。
「び、びっくりした……」
「ディルアはたべないよ?」
「あ、はい」
「それじゃあアタシのお気に入りのお店にしようか。穴場なんだけど、それだけに高くてさ。しょっちゅうは行ってられないんだよ」
「えー何そこ! 行ってみたーい!」
美味しい食べ物が嫌いな人間はいない。当然キャロもはしゃぎ始める。
「中央区の裏路地にあるお店さね。レストラン《イバラキ》ってところさ。そこの牛肉が最高なのさっ!」
ほぅ、マスターランクのリエルがこれだけ興奮して言うのだ。それだけ美味いのだろう。
「おし、それじゃあそこにしようか!」
「だねっ!」
俺とティミーも賛成を示し、クーの手をとった。
リエルの腕にしがみつきキャロが急かす。リエルとキャロって姉妹みたいだな。豪快な性格は似てるし、キャロ自身も近いものを感じているのかもしれない。
俺がそんな事を考えていると、クーは湧き出る涎と鳴り響く腹の音と輝く目をしながらティミーと即興の肉の歌を歌っていた。
これだけ頑張っているパーティだ。今夜くらいハメを外してもいいだろう?