OVER PRINCE   作:神埼 黒音
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パーフェクト・アクター

六人居た高弟達の内、三人が既に斃れた。

そして、《集合する死体の巨人/ネクロスォーム・ジャイアント》もガゼフの剣閃の前に消滅したが、被害も無視出来ない程の大きさであった。

風花の面々は満身創痍であり、昨夜から戦い続けている蒼の薔薇の面子にも疲労が色濃い。

立っていられるのも不思議な程だ。

 

そんな加熱していく戦場に、一筋の光が現れる。

続いてラキュースやフォーサイトの面々、多くの冒険者も駆けつけてきた。まるで白き閃光に導かれたような姿であり、その先頭に立つのは七色の星光を纏いし軍神の姿であった。

その眩さに法国の面々が息を呑む。あれが、エ・ランテルの英雄だというのだろうか?

 

いや、違う。

あれは、英雄などではなく……もっと高次元の存在ではないのか?

その姿形を忘れなかったクレマンティーヌが、喘ぐように口を開いた。まるで魚がそうするように、口をパクパクさせる間の抜けた姿であったが、誰もそれを変だとは思わない。

だって―――自分達も、似たような顔をしているだろうから。

 

 

「モモちゃん……」

 

 

絶句するように漏れた言葉に、カイレがごくりと唾を飲み込む。

あれは、神人ではないのかと。

いや、それどころか、あの御方は「神」なのではないかと。

あの気配は何だ?あの尊きご尊顔は?そして、神しか纏い得ぬであろう武具の数々は何だ!?

 

自分達が国を挙げ、後生大事に守ってきた多くの遺品すら、まるで子供のオモチャのようではないか!カイレがごく自然に膝を折り、深々と頭を下げ、光を纏いし軍神に平伏する。

戦場の最中にあって、それは不自然な姿であったろう。だが、風花の面々もそれに倣い、次々と頭を下げ、額に土が付くのも気にせず深々と地に伏せた。

 

もはや、直視出来ない―――――仰ぎ見る事すら、不遜である。

法国の面々は、態度でそれを表した。

 

 

「なん、だ……貴様、は……」

 

 

カジットが呻き声を上げた時、軍神が恐るべき速度で戦場を駆けた。

視認する事が、難しい。

それもその筈だ。

只でさえ高いステータスが、軍服によって“超”ブーストがかけられている。最高級の素材を惜し気も無く注ぎ込んだ、紛れもない神器級武装なのだから。

 

この軍服は魔法能力を高めるものではなく、純銀の聖騎士といつか隣に並んで戦いたいという子供っぽい願望を秘めて作られたものであり、コンセプトは完全に前衛仕様であった。

爆発的に高められた身体能力はとても魔法詠唱者の範囲などには収まらず、超一流と呼ばれる存在が揃っているこの戦場でさえ、余りに桁違いの存在としか言い様がない。

 

 

《魔法三重化/トリプレットマジック》

《魔法遅延化/ディレイマジック》

 

 

―――――《死/デス》

 

 

 

一陣の風と共に軍神が戦場を切り裂き、その大きな背中とマントが風にはためく。

カジットと高弟達が慌てたように左右を見渡したが、特に変化はなく、何の魔法の効果も感じる事は出来なかった。焦りを感じた事もあって、高弟達が次々と侮蔑の表情を浮かべる。

 

 

「ば、馬鹿が!派手な服は見かけ倒しか!」

 

「魔法の不発とは……未熟者めがっ!」

 

 

―――――お前はもう、“死”んでいる。

 

 

背中を向けたまま、軍神の放った言葉に高弟達が一瞬、ポカンとした表情を浮かべ……

遂には堪えきれないと言った風情で大笑いする。

 

 

「おい、聞いたか!こいつは一体……ぁ、ぐ、ぎげびッ!」

 

「ちょ、どうし……ぐ、ぐぐぐぐ!」

 

「し、心臓が……あ、ぁ、びでぶげッ!」

 

 

悲惨な断末魔の声をあげ、高弟達が次々と斃れた。

何が起こったのかは分からない。

分かったのは……ただ、一方的かつ、抗う事すら許されない“蹂躙”が行われたという事だけだ。

 

 

「き、き、貴様ぁぁぁ!ワシの高弟達に何をした!?」

 

 

カジットが目を剥き、口から唾を撒き散らしながら叫ぶ。

ありえない、ありえない。

一体、何が起こった?何をどうすれば、あの三人の命を一瞬で奪う事が出来るのか。

 

 

「ば、化物がぁぁぁぁ―――ッ!《酸の投げ槍/アシッド・ジャベリン》」

 

 

カジットが得意とする、酸で出来た槍をその背中へ向けて投擲する。

軍神の背中は酷く無防備で、隙だらけであった。これなら子供が投げた石すら当たるだろう。

だが、その槍が背中に突き刺さる事はなく、何かに阻まれるようにして霧散した。

 

 

《冷気・酸・電気攻撃無効化》

 

 

「な、何故!なぜ……ワシの魔法が効かんッ!」

 

「―――――坊やだからさ」

 

「き、貴様ァァァァァァァッ!」

 

 

カジットの身が、その言葉を聞いて哀れな程に震える。

彼はたとえ世界を滅ぼしてでも、自らの母を甦らせる事だけを考え、生きてきた。

そんな彼の人生を、たった一言で真正面から斬り捨てたようなものである。お前の人生は、お前の生き様は―――――酷く“幼稚”である、と。

 

 

「認めたくないものだな―――――?若さ故の過ちというものを」

 

「……貴様に、貴様に、ワシの背負った苦悩の、何が分かると言うのかァァァッ!」

 

 

続いて吐かれた言葉に、遂にカジットが頭を抱え絶叫する。

その目からは涙が溢れ、容貌には鬼気迫るものがあった。それ程に、軍神の吐いた言葉が立て続けに、それもピンポイントで彼の心を穿ったのだ。

幼き日のカジットの過ちを、後悔を、まるで見てきたかのようである。

だが、軍神はカジットの絶叫など耳に入らぬような姿で、その手を水平に持ち上げた。

 

 

「創生の炎よ、来たれ―――――《吹き上がる炎/ブロウアップフレイム》」

 

 

その指がパチリと軽快な音を鳴らした瞬間、大地から紅蓮の炎が吹き上がり、残っていた紅骸骨戦士を文字通り灰にした。

その凶悪さと、疲労知らずの姿から“不死身”の代名詞ともなっている存在が、跡形も無く消滅したのだ。その光景を見て、カイレが電にでも打たれたかのように一段と深く頭を下げる。その目からは涙が止め処なく溢れ、風花の面々も嗚咽を漏らしていた。

 

 

―――――数百年もの間、待ち続けていた“神”が降臨された。

 

 

神でしか為しえぬであろう、不死身すら焼き殺す紅蓮の炎。

それも、“創生の炎”である!

法国の面々は湧き上がる喜悦と、神の御業を垣間見てしまった事による畏れで、殆ど子供のように狼狽していた。神の存在を幼き頃から教えられ、それを信じ、ひたむきに生きてきたのだ。

その感動と衝撃は察するに余りある。

 

 

 

 

 

■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 

(よし、何とか誤魔化せたな……)

 

 

戦場に光と共に現れたように見えた軍神であったが、実のところはラキュースとアルシェの争いに巻き込まれ、ほうほうの体で逃げ出してきただけであった。

丁度、目の前に悪人が現れたのでこれ幸いと撃破して誤魔化そう、といったところである。

まぁ実際、悪人ではあったが、まさか高弟達も女性二人の争いがキッカケで自分達の死期が早まるなど想像もしていなかっただろう。

 

 

(何か黒魔術のボスっぽい人は怒ってたけど………)

 

 

軍神は知らない。

火花が命ずるままに発した台詞が、彼の心をレーザービームのように貫いてしまった事を。

戦う前から、カジットの心を粉々に叩き折ってしまった事を。

 

 

「ぁ……あぁぁ………」

 

 

紅骸骨戦士が信じ難い程の“紅蓮”に焼かれる姿を見て、ついにカジットが膝を突く。

死んでしまった母の面影を求め、自らをアンデッドの身に変えてでも、蘇生魔法の研究に人生の全てを費やそうとしてきたが、それが今、完全に潰えたのだ。

後ろにはまだ四体の骨の竜や千近いアンデッドが居るが、それらの指揮権はカジットには無い。

そして、あの死霊の将は失敗した部下などに何の価値も見出さないであろう。

 

茫然自失となったカジットの頭に《伝言/メッセージ》が飛び込んでくる。慌てて左右を見渡したが、新たに増えた人影もなく、驚く事に発信者は背を向けたままの軍神からであった。

 

 

《お前には幾つか聞きたい事がある―――取引と行こうじゃないか》

 

《と、取引……とは……》

 

《お前が所属する組織を殲滅する、その手引きをしろ―――代わりに願いを一つ叶えてやる》

 

《願いを……ハハ、アハハハ……》

 

 

その言葉に、カジットが力無く嗤う。

彼の願いは叶えられない。それこそ、神でも無い限りは。だからこそ、彼は悪逆非道の道を歩もうとも、悪魔に魂を売ろうとも、茨の道に踏み入ったのだから。

 

 

《ワシの願いはただ一つ……数十年前に亡くした母を甦らせる事、それだけよ……》

 

 

カジットは言いながら、自分の言葉に泣きたくなった。

そんな奇跡が何処にある。

現存する最高峰の蘇生魔法である《死者蘇生/レイズデッド》ですら第五位階の魔法であり、その使い手は世界を見回しても片手で数える程であろう。

それも、強い生命力を持った者でなければ、魔法をかけた瞬間に灰となるのだ。当然、その死体は死後間もない状態であらねばならず、数十年前の死体を甦らせるような力などある筈もない。

 

ただの村人である母親に蘇生魔法に耐え切る力などは無く。

そして、その死体は指折り数えるのが馬鹿らしくなる程の年月が経っている。

詰んでいた―――全てが。

 

 

《何だ、そんなこ……い、いや、なるほど。ならば、お前の願いを叶えよう》

 

《ワシを口先で誑かすつもりか……殺すがよい。もはや未練はない》

 

《なるほど。ペナルティが無く、数十年経った死体の欠片からでも復活可能な《真の蘇生/トゥルーリザレクション》を知らないのだな。狭い範囲内の事になるが、《願い/ウィッシュ》や《奇跡/ミラクル》も知らないと見える》

 

《な、何だそれは……ッ!も、もっと、もっと詳しく聞かせてくれ!》

 

《ふむ、取引は成立だな……言っておくが、私は聖人君子ではない。お前の働き次第だ》

 

 

軍神が伝言を打ち切り、直接その口を開く。

振り返った顔に、カジットが一瞬、身を震わせた。

 

 

「この男の拘束を。後で聞きたい事があるので預かっておいて下さい」

 

 

軍神の言葉に、風花の面子が風のような速さで駆け寄り、カジットを瞬く間に拘束する。

尤も、もはやカジットには抵抗する意欲も、気力もない。

今の話を頭の中で反芻し、懸命に考え続けるだけの機械と化していた。

 

 

「ねぇ、モモちゃん……あんたは良くやったよ。でもさ、アレはヤバイって……」

 

 

クレマンティーヌが遠慮がちに声をかける。

前方には四体ものスケリトル・ドラゴンの姿と、千近いアンデッドの群れがあった。強気なクレマンティーヌであっても反吐が出そうな相手だ。

あんなもの、戦う事すら馬鹿馬鹿しい。竜巻や地震のような“天災”と争うようなものである。

だが、軍神は無言でマントを翻し、その鋭い視線を前へと向けた。

 

 

「このモモンガ、たとえ素手であろうとも―――――やり遂げてみせますよ」

 

 

軍神の体が宙に浮かび、風に乗るようにして前方へと翔けていく。

まるであのアンデッドの群れなど目に入っていないようでもあり、その颯爽たる姿にクレマンティーヌが思わず「くぅぅー!」と変な叫びを上げた。

 

 

「今の聞いた、ばばぁ!?モモちゃん、マジでかっけぇんだけど!こん……ぁいた!」

 

 

その言葉が終わる前に、カイレの鉄扇がクレマンティーヌの頭を打つ。

風花の面々も視線だけで殺すようなモノを漲らせ、クレマンティーヌを睨み付けていた。

 

 

「たわけッ!神に対し、何と畏れ多い事を……ヌシも頭を垂れ、祈りを捧げんかッッ!」

 

「髪のセットが乱れるだろうが、クソばばぁ!モモちゃんにダサい女って思われたら、どうしてくれんだよッ!」

 

「あの光り輝く神の瞳にヌシの姿を映すなど、不敬以外の何物でもないわッ!」

 

「あぁ!?てめぇの姿よかよっぽどマシだっつーの!鏡見ろ!」

 

 

法国の面々が内輪揉めしているという珍しい光景を横目で見ながら、王国一同がさっさと軍神の後を追っていく。あの後ろに魔神が居る事を考えれば、とても楽観できるような状況ではない。

……と、普通に考えればそうなのだが。

 

今の軍神は自らの意思でアクターとなり、鼓動と火花を自由自在に操り、融合した状態である。

三位一体という言葉があるが、今の彼がまさにそうであった。

言うなれば、“パーフェクト・アクター”とでも称すべきものであろう。

かつて魔王ロールをしていた頃のように、その姿はごく自然と威圧感に溢れ、その洗練された所作と神々しさには法国の面々が神と呼ぶのも無理もない事であった。

 

 

 

 

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軍神の行く手を遮るようにしてアンデッドの群れが立ちはだかる。

そして、上空から舞い降りてきた四体ものスケリトル・ドラゴン。魔法に絶対の耐性を持つ、非常識としか言い様がない存在であった。

少しでも常識や理性があるなら、逃げ出すか、もう笑うしかない光景である。

 

 

「愚かな真似はよせ……その竜には如何なる魔法も通じんのだぞッ!」

 

 

捕われたカジットが悲痛な叫び声を上げる。

その言葉を聞いた誰もが歯を噛み締めた。

分かっている。そんな事は分かりすぎる程に分かっている。

だからこそ、余計にその言葉が堪えた。

 

一体でも絶望的な存在が四体など、もはや笑い話ではないか。

現存するどんな英雄譚であっても、こんな状況はなかったであろう。

あって堪るか、と叫べるものなら叫んでいたに違いない。

 

だが、只一人。

軍神だけは怯まない。

 

 

「絶対の耐性、ね―――――そのふざけた幻想をぶち殺す」

 

 

軍神の指が複雑な形に組まれ、その全身から大魔力が吹き荒れる。全員がその風に目を細め、吹き飛ばされないように体を押さえる中、恐るべき詠唱が始まった。

後に、この魔神戦争の勝敗を決定付けた―――――と幾多の書物が伝える審判の魔法。

 

 

《カイザード・アルザード・キ・スク・ハンセ・グロス・シルク》

 

 

聞いた事もない単語が軍神の口から漏れ、それに伴って辺りに吹き荒れる魔力が桁違いに上がっていく。大気が震え、骨の竜が次々と唸り声を上げた。

目を細めたティアが、イビルアイに疑問をぶつける。魔法に関し、一番造詣の深い人物といえば、彼女以上の適任者はいないだろう。

 

 

「あの詠唱は何……?これから何が起こる?」

 

「分からん。だが、古より言葉とは力を持つ……南方には“力ある言霊”を操る一族や、それらを駆使する使い手が居ると聞いた事があるが……」

 

 

二人のそんな言葉をよそに、軍神の詠唱は止まらない。

煌くような詠唱が漏れる度、吹き荒れる風の勢いが増し、今では暴風と化している。

 

 

《灰燼と化せ冥界の賢者―――――!》

 

 

軍神の左手が水平を切り、マントが派手に翻る。

 

 

《―――――七つの鍵を以て開け地獄の門ッッ!》

 

 

軍神の右手が、天を掴むように高々と突き上げられた。

その額からは珠のような汗が流れ、吹き荒れる大魔力に耐えかねるように体が揺れている。

 

 

「お、おいおい!洒落にならねぇ単語が聞こえたけどよぉ……大丈夫なのか、これ!」

 

 

とても聞き流せない言葉に、遂にガガーランが叫ぶ。

地獄の門を開く、とは何だ?一体、何が起こるというのか?!

 

 

《魔法効果範囲拡大/ワイデンマジック!》

 

 

遂に軍神の全身から七色の星光が溢れ、その神々しさに全員の目が眩む。

ハッキリと分かるのは―――今、奇跡に立ち会っている、という事だけであった。

 

 

 

「我、暁に勝利を得る者―――――《星幽界の一撃/アストラル・スマイトッッッ!》」

 

 

 

その右手が派手に振り下ろされた瞬間、死の軍勢の中央に白光が炸裂した。

視界が白に包まれ、音さえ消え果てる。

 

 

―――――世界が、静止した。

 

 

白き閃光に骨の竜が飲み込まれ、周囲に居たアンデッドへ白き波が広がると同時に、その白に触れたアンデッドが一瞬で灰となって消えていく。

静止した世界で、数百体の灰がキラキラと天へ舞い散っていく光景は完全に神話であった。

誰もがその光景に息を飲み、言葉を失う。

 

遥か上空より、二体のアンデッドが軍神の前へ舞い降りたが、誰も動く事が出来なかった。

目の前の、“神話の世界”に足を踏み入れる事に“畏れ”を感じたのだ。

 

 

 

 

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現れたアンデッドの一体は、骨のハゲワシであった。

八本指の暴動中、多くの冒険者や一般人を守り、その任務を見事に果たした存在である。

消滅時間が数秒後に迫っており、最後に主人へ別れを告げに来たのであろう。

 

 

《良くやってくれた……お前のお陰で、大勢の人が救われたよ》

 

 

軍神がその左手を伸ばし、その骨に触れた瞬間、骨のハゲワシが白き霧となって消えていく。

後ろに居る面子からは、まるで浄化されたように見えた事であろう。

 

 

《レイス、お前のお陰で八本指を抑える事が出来た。見事だったな》

 

 

常に苦痛と苦悶の表情を浮かべ、人々から恐れられる《死霊/レイス》であったが、軍神の右手が触れた瞬間、満足したように目を伏せ、その体もまた、白き霧となって消滅した。

白に包まれた世界で行われる、幻想的な光景に誰もが身動き一つ取れずにいた。

 

 

だが、そんな白き世界を踏み砕くような魔神の足音が響く。

おそらくは、その“姿”と“声”だけで十万の敵軍すら平伏させるであろう。

しかし、今日ばかりは噛み締めるような“声”で魔神が言う。

 

 

「万の戦い、億兆の夜を越え、生き残ったのは我ら二人―――――」

 

 

墓地の奥地から切り裂くように放たれた衝撃波が、大魔法の余波ごと、残っていたアンデッドを粉々に打ち砕き、静止した世界が、その瞬間から動き出した。

 

 

「会いたかったぞ―――――怨敵」

 

 

遂に、魔神がその姿を現し、白き世界を漆黒へと染め上げていく。

それは“死霊の将”と呼ぶに相応しい姿であり、“滅びの気配”を受けた冒険者が次々と腰が砕けたようにへたり込んだ。立っていられたのはごく数人である。

 

その面々も、込み上げて来る悪寒に全身が震え、足が頼りなく揺れていた。魔神を初めて見る法国の面々からすれば、受けた衝撃は更に大きかったであろう。

ありえない。余りにも、その存在がありえなさすぎた。

かつて大陸全土を焦土と化した―――――“魔神”そのものではないか!

いや、かつての魔神よりも酷い……!

 

 

 

「貴様らが“天”を握る事はない。野望と共にこの地に眠るがいい」

 

 

―――――もう、“天”などどうでもよいッッッ!

 

 

 

軍神の言葉に、魔神が目の覚めるような咆哮を上げた。

それは、ペイルライダーに記された設定であったのか。それとも、腹の底から放たれた叫びであったのか。いずれにせよ、聴く者の魂を震わせるような絶叫であった。

 

 

「いや、俺が望んだ“天”とは……貴様だったのかも知れぬ」

 

 

魔神の言葉に軍神が目を開き、そして―――瞼を強く閉じる。

何かを噛み締めているようでもあり、心の振動が収まるのを待っているような、そんな姿であった。

 

 

「そうか……ならば俺も、お前の“想い”に応えよう」

 

 

軍神が腰に佩いた刀をはじめて抜き。

 

 

「そして、思い出させてやろう。お前の目の前に立つ男が―――――」

 

 

それを、魔神へと突き付けた。

瞬間、爆発的なオーラがその体から溢れ、踏みしめた足元から巨大な亀裂が走った。

 

 

 

 

 

「―――――“ナザリック”の王である事をッ!《完璧なる戦士/パーフェクト・ウォリアー》」

 

 

 

 

 

偉大なる魔神の、消滅時間が迫っている。

 

 

王国中を揺るがした二つの動乱。

 

 

その最後を飾る、伝説の一騎打ちが始まった―――――

 

 

 

 




長く続いた動乱も、遂に最終局面へ。