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【壱弐参】がけっぷち冒険者の魔王体験 作者:壱弐参【N-Star】

第2部

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039

 ジョシュー地方より遥か東に位置する巨大な大陸、アルム地方。

 聖アルム国の中心に存在する首都アルム。ここは東端の大陸。世界で最も繁栄している大陸である。何故なら、これより先、東へ行けば、魔王ヴィクセンが統括する魔界が存在するからである。

 魔王軍との戦争が小康状態になった時、人々は真っ先に被害を受けるであろうアルムを最重要拠点と決めた。

 これにより、最先端の技術や腕利きの冒険者はアルムへと集まった。以降、技術職、または冒険者を生業(なりわい)としている者は皆、アルムに行く事を夢見た。

 しかし、夢だけで冒険者は務まらない。

 魔王軍の拠点に近い事もあり、魔物のランクは非常に高く、経験がない冒険者たちはその殺意によって散っていくのだ。

『最低でもブロンズランク』。

 そんな冒険者たちの間にあるアルムの不文律(ルール)。昨今は、どの新人冒険者たちでも知っている常識となっている。

 そんな活気あるアルムの都にある、巨大な冒険者ギルド。二階建てだが、敷地は広く、無数の冒険者たちで賑わっている。ジョッキを鳴らし乾杯する冒険者、依頼内容の詳細をギルド員に尋ねる冒険者、パーティでテーブルを囲い綿密な討伐計画を練る冒険者、そして稀に起こる冒険者同士の……いざこざ。

「よう嬢ちゃん。肩がぶつかるだけなら許してやってもいいんだが、どう考えてもこれは俺たちの依頼だ。あんまりふざけた事言ってると再起不能になるぞ? お?」

 依頼票をぴらぴらと持ちながら、ドスのきいた声を出す筋骨隆々の男。対して、絡まれているのは小柄な金髪女。顔立ちはいいものの、ツンとした表情は崩していない。男の後ろにいる男のパーティメンバー三人は、下衆びた笑いを浮かべる。舌をちろちろと出し、女を威嚇しているようにも見える。

「どう考えたらあんたたちの依頼になるのよ。それは冒険者ギルドにある当然の権利。依頼の予約受領よ。たまたまギルド員が間違えて貼り出しただけじゃない。これは、私のパーティが受けるの。そもそも肩がぶつかったのはあんたが酒に酔っ払ってよろよろしてたからでしょう?」

「はん! パーティランクメタルの俺たちに文句があるとは、いい度胸だ」

 男が酒臭い息を吐き出すと、女の顔が渋くなる。

 それとは別に、男が吐いた名刺代わりの言葉に、周囲の冒険者たちがくすくすと笑い始めたのだ。

「アルムでそんな挨拶をするって事は新顔か」

 そんな小言のような言葉が聞こえる。

 男が鋭い視線を周りに向けて威圧しようとするも、冒険者たちはにやにやと笑うばかりである。

「ちっ! 今に見てろよ、雑魚共が……!」

 悪態を吐きながら男は女に視線を戻す。しかし、その女は既にそこにいなかった。

 そう、女はいつの間にか男から依頼票を奪い、ギルド員の下に向かっていたのだ。

「て、てめぇ!」

 依頼票を取り返すべく走り出す男。周囲のテーブルや椅子を弾き飛ばし、さすがメタルランクの実力を見せつける。

「う、うわぁっ!?」

 ギルド員が頭を庇うようにしゃがみこみ、男が受付に飛び込む。

 しかし、女は跳び上がり宙で回転しながら、それをかわしたのだった。テーブルの上に着地しながら剣を抜き、振り返る男の首筋に当てる。

「なっ……!」

 目にも止まらぬ流麗な軽業を見せた女に驚愕する男と、そのパーティメンバー。

「文句あるかしら?」

 口調は変わらずとも殺気は強い。

 その佇まいと剣の運び。それだけで男は察した。それは、幾多もの修羅場を潜らねば身につかないであろう強烈な殺気だ。

「お、おめぇは一体……っ?」

「ふん」

 女は鼻息を吐いただけだったが、ギャラリーの冒険者たちは違った。

「相手が悪いな、おっさん」

「何ぃっ!?」

 男が睨み返すと、その冒険者は「おっとっと」と言いながら目を背けた。

「そりゃそうだ。おっさんの目の前にいるのはゴールドランカーだぜ?」

 しかし、別の冒険者がその続きを説明したのだ。

「なっ!?」

「《金剣のキャロ》。アルムの都にいて、その子の名前を知らない奴はモグリだ、はははは」

 男の視界には、既にキャロの姿はなかった。そう、キャロは冒険者ギルドの表出入り口まで小走りに向かっていたのだ。光が差すその出入り口にいるメンバーは三人。その中の一人がキャロである。

「ば、馬鹿な? あんな小娘がパーティリーダーだと?」

「はははは、キャロが? まさか? そんなはずある訳ないじゃないか。あれはでしゃばって依頼票を取りに来ただけだ」

 先程説明を続けた冒険者の男が、男の肩に肘を置いて説明する。苦笑を押さえるように必死である。

「そ、それじゃああのデカい全身甲冑(フルアーマー)のやつかっ?」

 全身甲冑とも呼ばれるフルアーマーを着用した長身の女。女だとわかったのは、着用した全身甲冑(フルアーマー)が女の身体のラインにぴったりと合っていたからだ。

「あれもゴールドランカーだ」

「馬鹿な!? パーティメンバー二人がゴールドっ?」

「《撃墜女王クー》。強靭な身体のバネで数々の飛行系の魔物を葬った強烈な女だ。多分、おっさんなんかより力つえーぞ。はははは」

「じゃああの巨乳のねーちゃんが?」

 男はその隣にいた空色の髪の女を見る。容姿は美しく、胸はふくよかであり、強調された谷間は、どの男も釘づけである。

「ゴールドランカー、《蒼弾(そうだん)の射手ティミー》。あれも違う」

「全員がゴールドランカーだと!? そんなパーティ聞いた事ねぇぞ!?」

「全員じゃない」

 冒険者がそう言うと、出入り口に一人の青年が入って来たのだ。その男の登場に、ティミーの顔が綻び、キャロが強い視線を送り、クーが抱き着いた。

「なっ、あの冴えない男がパーティリーダーだとっ!?」

 男の不満そうな声と共に、冒険者の男は口の前に人差し指をもっていったのだ。

「しー! 何言ってんだおっさん! あいつにだけは逆らうなよ!」

「あ、あいつがなんだったって言うんだよっ」

 その真に迫る様子に、男は緊張を隠せないようだ。

 冒険者の男は、遂にキャロたちから視線を外し、男の肩を組むようにして後ろを向いた。

「いいか、あいつはディルアってんだ。今このアルムの都で五人といないダイヤモンドランクの冒険者さ」

 冒険者の男が言った驚愕の事実に、男が驚く。一瞬にして噴き出た大汗がその証拠だ。

「ダイヤモンドだとっ!?」

「驚くのはそこじゃない。なんたってあの男、ランクAのエンシェントドラゴンを手懐けているんだ」

「う、嘘だろっ!?」

 男は裏返った声を響かせるも、周囲の誰も驚く事はない。既にこの流れを何度か目撃しているからだろう。そう、驚くのは男と、彼のパーティメンバーだけなのだ。

「誰が呼んだか魔王(、、)なんて二つ名も付いてる。魔物討伐も素早いし、ディルア自身マスターランクが近いって話もある。そんな曰くからか、パーティランクはプラチナ。このアルムの都に冒険者は数あれど、あのパーティは別格さ。いいか、あのパーティには手を出すなよ。実力も経験もおっさんとは違うんだから」

 冒険者の男が説明をひとしきり終えると、男は顔にかいた嫌な汗を拭った。

「あ、ありがとよ。それで、おめぇは一体何者なんだ?」

「俺? 俺かぁ? 俺はブロンズランクの――――ぐはっ!?」

 そう言った瞬間、冒険者の男は吹き飛ばされたのだった。

「けっ、おめぇ自身は雑魚じゃねぇか!」

 筋骨隆々の男は再び表出入り口を見る。既にいなくなったプラチナランクパーティ。その残映でも見たかのように、男は大きく喉を鳴らした。

「ふん、俺もまだまだって事か」

 そんな、強がりの言葉を発した後。

「そういやさっき、あの男のマントが不自然に動いたような……。ははは、いや、まさかな」

 その後、冒険者ギルドの修繕費を請求される事になるとは、男は夢にも思っていなかっただろう。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


『一年か』

『意外にアルムの都に来てから動きがなかったよな』

『まずはこのアルム地方という土地に慣れる事が大事だったのだ。それもかなり熟されたと見て間違いないだろう。さすが神が与えしダイヤモンドランク。最早ランクAの魔物など、我がいなくとも楽勝であろう』

 そう、俺たちは成長した。

 アルムの都に着き、最初こそ大変だったものの、皆、持前の向上心で強くなった。キャロ、ティミー、クーは三人ともゴールドランクに上がり、アルムの都で知らない者はいないとすら言われている。

 何を隠そうこの俺も、サクセスの助力もあり、シルバーランク以降、ゴールド、プラチナランクを経てダイヤモンドランクにまで上がった。これ以上のランクは、マスターランクとレジェンドランクだ。

 現在アルムの都にはマスターランクが一人いるだけで、レジェンドランクは存在しない。サクセスの話だと、いたとしても勇者か、そのパーティメンバーくらいだろうと言っていた。当然目指したいランクではあるが、どんな偉業を達成すればいいのか、さすがにサクセスにもわからないそうだ。

 まぁ、サクセスがそれを知っていたら問題なんだけどな。

 因みに、ゴールドランクはアルムの都の中で三十人程と言われている。その上のプラチナランクなんて十数人いるかいないか。そして今の俺のランク、ダイヤモンドランクは、俺が知っている限り三人しかいない。

 何度か一緒に合同クエストをやったが、あまり記憶にない。何故なら、その時の俺はまだゴールドランクで、見向きもされなかったからだ。

 更に、ここアルムの都では個人のランク(、、、、、、)パーティランク(、、、、、、、)による依頼が主だ。ジョシューではランクBクエストの依頼だったものが、こちらではシルバーランクパーティクエストといったように言い換えられ、統一されている。どうやらそうしないと、数多い依頼を捌き切れないようだ。

 しかし、魔物のランクはごっちゃで表記されている場合もある。これも文化の一つなのだろう。

 最前線のアルムの都で、高ランクの冒険者が少ないのには理由がある。

 一つは先程言った向上心の問題。既に一年このアルムの都にいるからこそわかるが、俺がここに来るまでのランク……そう、シルバーランク程もあれば、アルムの都でも快適な暮らしができる。頑張って討伐依頼をこなしても、無理してこなさなくても、良い暮らしができてしまうのだ。それならば、と向上心がなくなってしまう冒険者が沢山いるのも頷けるというものだ。

 そしてもう一つは、魔物に殺されてしまうケース。これはジョシュー地方やストロボ地方にいた時でも起こり得た話でもあるが、先に述べた向上心ある冒険者たちは本当に冒険だったのか、それとも無謀だったのか、そんな討伐依頼やパーティクエストを行っているらしい。

 そりゃあ上手くいくならいい。しかし、ランクA以上の魔物の存在はやはり恐ろしいのだ。どれだけやってもその恐怖が払拭される事はない。正直、サクセスがいなかったら、俺は逃げだしていたかもしれない。だからこそ、キャロやティミー、そしてクーには頭が下がる思いでいっぱいだ。


「ディールアー! ディルアー! ディルアー? ん~……ディルアッ!」

「んお? ど、どうしたんだ? ティミー?」

 歩く森の中。俺はティミーに手を握られるまで呼ばれている事に気付かなかった。おっと、いけないいけない。気を付けなくちゃな。

「もうっ、『どうしたんだ?』じゃないよー。ここから先はランクBのモンスターがいっぱいなんだからね。しっかりしてよねっ」

 ムスッとアピールするティミー。四人パーティではあるが、副リーダーとなったティミーの進言だ。かしこまって聞かなくては。

「コ、コホンッ。わかったよティミー。悪かった――よっ! マルチショット(、、、、、、、)!」

「ふぇっ!?」

 ティミーの後ろに迫っていた魔物四匹を仕留めた俺。そして、慌てて後ろを向き、弓を構えるティミー。

『見事だな。風魔法の応用――マルチショットか』

『あぁ、強い魔弾も放てるようになったし、複数にも当てたい。そうなったら魔弾を分散させるしかないしな』

 スリングショットの砲台に収束した魔力の塊。これがランクアップする度に、いや、冒険から帰る度に強くなった。マルチショットは、そんな強力な魔弾を、発射の直後に風魔法で斬り裂く技だ。網目状の風を通り抜けた魔弾は、いくつにも分散され、複数の魔物にも有効な――俺の(、、)オリジナル魔法だ。ココ、重要だぞ。

 アルムの都に着いてからというもの、俺たちはがむしゃらに依頼をこなした。それは冒険が楽しかったからというのもあるだろう。しかし、一番の理由は互いが互いを意識していたからだろう。

 俺はサクセスを意識して。そして、まだ見ぬヴィクセンという魔王を意識して。

 そしてキャロは俺を意識し、ティミーは副リーダーという責からリーダーである俺を意識した。そしてクーは皆に付いていこうと必死で頑張っていた。何より、あのタフネスがあるし、人間の世界に慣れたら非常に好戦的になったし。

「ふぅ、何? 今回はこんなものなの?」

 顔全体に不服が溢れたように、キャロが言った。

「しょうがないだろう。今回は調整のためのメタルランクの討伐依頼だ。次の依頼はかなり厳しいと思うから、その予習みたいなもんだって言ったじゃないか」

「キャロ!」

「な、何よクーっ? 耳元で叫ばないでよね!」

「予習は大事だぞー!」

 尖った犬歯を見せ、ケタケタと笑いながらキャロの肩を掴む。まるで子供がお化けを演じているように。

「全然怖くないわよ。まったく」

「あいたっ」

 クーの額にコツンとチョップを食らわせたキャロは、屈んでその拘束から逃れた。

「それで、目的地はどこなの、ディルア?」

「えーっと――」

『その繁みを抜けたところだ』

「――この先だな」

 サクセスの指摘通り、森の奥までやってきた俺たちは繁みを抜けると――――

「わ、わっ!」

「すっごーい!」

 そう言って驚いたのはキャロとティミー。クーは相変わらず「おー」とだけ漏らす。

 見上げるは陽光を跳ね返す、透き通った結晶。薄紫の巨大な水晶が群れを成し、大地に向かって突き刺さる。無数に見える出入り口は、このダンジョンの複雑さを明確に表している。

「ここがプラチナランクご用達の、アルム地方最大のダンジョン」

「『水晶宮(すいしょうきゅう)だ』」

 パーティランクがプラチナとして認められた事により、俺たちは水晶宮の掃除(スイープ)依頼を受ける事にした。今日はその手前の森での討伐依頼を受けた。水晶宮までのルートを確認するついでに、入口まで行ってみようというのが、その予習というやつだ。

 俺も近くまでは来た事はあるが、実際見ると、やっぱり恐ろしいものがあるな。

『ディルア、鼓動が速くなっているようだが?』

『何だって初めては緊張するもんなんだよ』

『ふん、必要なのは緊張ではなく実力だ。それだけの事を、これまで着実にこなしてきただろう』

『……本当にあるんだろうな?』

『ある。我の魔力に反応して(あるじ)の帰還を喜んでいるようだ』

 サクセスの言葉を疑う訳ではない。しかし、誰も手を出していないともなると、相当見つかりにくい場所にあるのだろうか…………サクセスのおもちゃ(、、、、)

「ちょ、ちょっと入ってみない?」

「駄目だ。今日は現地確認だけ。そういう約束だろう、キャロ」

「もう! ちょっとくらいいいじゃないっ」

 ぷんすかするキャロ。しかし俺は頬を緩めたりはしない。パーティを預かるというのはそういう事だと、この一年で学んだからだ。

「それはパーティを抜ける覚悟ができたら実行しろ」

 俺はあえてキャロを追い込む言葉を選んだ。その方がキャロには効果的だからだ。

「ふ、ふん! わかったわよ! あーあ、さっさと明日にならないかしらねっ」

 近くにあった石ころを蹴り、行き場のない憤りを少しだけ解放するキャロ。不満こそあるかもしれないが、ちゃんと従ってくれるところを見ると、俺はリーダーとして上手くやっていけてるのだろうか。

 そう考えながらティミーを見るも、ティミーは苦笑だけを返すだけで、クーは未だに水晶宮を見上げて「おー」と漏らしていた。

2018年5月25日にMFブックスより書籍化されました。
Amazonでも好評発売中!
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