おはようございます。
BBブリッジの番場です。
先日、CBI学会のセミナーでドラックリポジショニングに関する講演を聞く機会がありましたので、本日はこちらについて記載したいと思います。
ドラッグリポジショニング(DR:Drug Repositioning)はドラッグリパーパス(Drug Repurpose)、ドラッグリプロファイリング(Drug Reprofiling)とも呼ばれ、医薬品開発における新たな手法として数年前から注目されてきました。
具体的にDRは既に上市されている医薬品や開発中に何らかの理由(主として有効性)で開発中止となった医薬品について、新たな疾患で適用を取得しようというものです。DRの対象となる医薬品は既に上市もしくは臨床試験が行われているため、未知の副作用の心配が少なく、非臨床試験・臨床試験も簡略化できるため、新たな疾患で上市・売り上げが拡大できれば製薬企業にとって大きなメリットとなります。
DRが注目される背景としては製薬業界において新薬創出が難しくなっていることがあり、DRは製薬企業内にある既存の資源を最大限に生かすという考え方がベースとなっています。
実際にDRの例としてゾニサミドのケースが紹介されていました。ゾニサミドはてんかんに対する治療薬として開発・上市されています。てんかん薬としての薬価は32.2円/100mgです。その後、臨床現場での利用などでパーキンソン病にも効果があることがわかり、臨床試験を経てパーキンソン病にも承認されました。注目すべきは薬価で、パーキンソン病の治療薬としてゾニサミドの薬価は1,115.9円/25mgで、てんかん薬の場合に比べて同一用量換算で140倍近くになっています。換言すれば今まで抗てんかん薬として販売していた薬がパーキンソン病として利用されることで140倍の価値で販売できるということになります。このような薬価となる背景には日本の薬価制度が関係しています。これはパーキンソン病の治療薬として薬価が決められる際に「類似薬効比較方式」で算定されているからです。日本の薬価算定方式は類似薬効比較方式を基本とし、類似薬が選定することができない場合に原価計算方式が例外的に利用されます。このような高い薬価がついたこともあり、当該製品の売り上げは順調に伸びています。
このように製薬企業にとってメリットの大きいDRは、2000年代後半より欧米の大手製薬企業によって積極的に活用が開始されました。国内では武田薬品工業が2012年にDRに関する専門部署(エクストラバリュー創薬ユニット)を立ち上げ、最近ではアステラス製薬が2015年2月に研究開発組織内にDRに関する専門部署(ドラッグリパーパシング部)を設置しています。
また、欧米にはDRを専門に行うベンチャーや製薬企業のDRを専門に支援するベンチャーも数多くあります。例えばBiovista 米国)、Prous Institute(スペイン)、SOM Biotech(スペイン)などです。
このように製薬企業にとって良いことが多いように思えるDRですが、もちろん課題もあります。DRの最も課題の1つは知財です。DRは低分子化合物を対象に行われるケースが多いですが、低分子化合物の特許は主に物質特許として取得されています。特許取得後、新たな疾患で効果が得られることがわかった場合、この疾患に対する特許が取得できるかという課題があります。CBI学会で講演されていたDRの国内第一人者である慶応義塾大学薬学部 水島徹教授に講演後話を聞いたところ、新規疾患への特許拡大は簡単ではないとお話されていました。
また、製薬企業が持つ化合物が新規疾患に効果があることがわかった場合、同様の作用機序を持つ競合他社の化合物も同じように効果がある可能性もあります。
医薬品開発は低分子化合物から抗体や細胞などを用いたバイオ医薬品にシフトしつつあります。DRは低分子化合物の価値を再評価・最大化させるための技術として、今後もさらに活用されると思います。
テーマ:セミナー・シンポジウム
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